ラナークエスト   作:テンパランス

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#125

 act 63 

 

 ラナー達はおいといてドラウディロンを招いた。

 普段は少女の形態でいるのだが今は二十代ほどの女性体になっていた。

 訓練していた中ではかなり高レベル帯に居る。

 

「討伐数はどの人間も少なかった。おそらくレベルとやらはどれも上がってはいないかもな」

 

 にこやかに述べるのは竜王国の女王。

 勝手知ったる施設の秘密というやつだ。というか自分が色々と教えた。

 単騎でも数体の獣人(ビーストマン)であれば倒せる実力がある。それが出来ないのは彼女の立場が女王だからだ。

 即死系とかうっかり食らっては一大事なので。

 

「少しずつ上げると獲られる経験値は反比例して少なくなりますから。弱いうちに数をこなしてくれないと困るんです」

「初めての利用者はともかく、上位モンスターの討伐は難しいようだな」

 

 無防備だからといってモンスターを簡単に殺せるわけではない。

 強いモンスターというのはただそこに居るだけでも脅威だ。

 人間の子供が剣を持って(ドラゴン)に挑んでも強固な鱗は突き通せない。そういう理屈が働く。

 かといって高レベルの人間をモンスターとして殺せるのか、と言えば下に居る人間に限っては殆ど出来ないと言ってもいいくらいだ。

 モンスターといえども生きている生物。人間であれば殺人だ。

 モンスター討伐に慣れた聖王国ならばもっとも難しい課題となってしまう。

 安易にパワーレベリングが出来ない理由がこれ(殺人)であった。

 バハルス帝国の皇帝もその辺りは承知しているので建設には慎重になっていた。

 軍事国家だとしても人殺し集団を量産する気は無い。そう言い切っている。

 

「周りが全て敵だという魔導王ならば可能となるかもしれない。なかなか利用できそうで出来ない食えない施設よの」

「理解者が居てくれると助かります。しかし、増強には魅力がおありですよね?」

「うむ。近々亜人の国で大きな戦いが起きると報告があってな。鍛錬がてら挑戦に来た次第だ」

 

 経験値がいくらか増えている事から覚悟を持って来た事は本当のようだ。

 とはいえ、満足する増強にはまだ程遠い。

 人数の問題もあるからままならなかった理由は理解出来る。

 

          

 

 今の段階では一週間どころか一ヶ月かけても満足のいく結果にはなりえない。

 とりあえずドラウディロンには要望書だけ書くように言いつけて、ラナー達を招く。

 本来の主役である彼女達とは随分と久しぶりな気がするのだが、今は迂闊な話題は交わせない。

 

ナーベラルにはまずこれな」

 

 オメガデルタはナーベラルに皮袋を二つ渡した。

 見た目は小さいが『無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)』である。

 500キログラムまでのアイテムを入れる事が出来る旅には欠かせない必需品だ。

 

「……シズに渡してくれ。その後は自由にしてくれて構わない」

「了解した。……それと手数をかけた」

 

 普段は人間に頭など絶対に死んでも下げないことで有名なナーベラルがオメガデルタに頭を下げた。

 相手が異形種だから、というわけではない。

 それでもラナー達からすれば珍しい光景に見えた。

 

「クルシュさんは『』が決まったようでね。素敵ですよ」

「ありがとうございます」

 

 ここしばらく会話文が無かった白い蜥蜴人(リザードマン)クルシュ・ルールー。結婚したのになぜ苗字が変わらないのか不思議だが、夫婦別姓のままでもいい決まりがあるのかもしれない。

 

「……ただ、似た声が近くに居る気がします」

「会ってみたいですね」

「それはそうと、皆さん。低レベル帯でご苦労されていたようですね」

悪質なモノローグの影響でな」

 

 そそくさとナーベラルは退出していった。それをラナーは恨めしそうに見ていたがすぐに会話に参加する。

 金髪碧眼の王女様。それが今は軽装鎧に身を包み、モンスター退治に勤しんでいる。

 序盤で殆どの目的を達成した今はのんびりと周りの様子を眺めるのが目下の目的になっていた。

 別に自分が主役だとしても今もずっと活動し続ける必要は無い、と考えている。

 

「皆様が楽しく強化されるのでしたら私は見物人で結構ですので。そもそも血生臭い事は下民の仕事ですわ」

「……王女様が血塗れの仕事では体裁が悪いですものね」

 

 ステータスを見る能力を持つアルシェは嫌味で言ったが王女には全く通用しなかった。というよりは通用するような相手か疑問だ。

 アルシェの情報により各人のステータスを検討していく。

 本来ならば秘匿情報だが特別に披露する事にしたオメガデルタ。

 机にたくさんの書類を並べる。それはレイナースが(おこな)った。

 

「面倒なら名前だけで結構ですよ」

 

 何処から読まれてもいいように書くのは基本です。

 修正や添削という言葉があるように。

 それはそれとして小娘ラナーの低いレベルは如何ともしがたい。

 

「……イビルアイさんに小娘呼ばわりされていましたわね、私は」

 

 クルシュと同様にラナーにも正式に『』が備わった。

 カードによって着替えて歌ったり躍ったりしそうなイメージが湧く。

 ラナー劇場が披露されたりするのかは不明。きっと星宮(ほしみや)(なにがし)に憧れたり、とか色々と。

 

「声談議はそこまでにしてくれ」

 

 はい。

 

「……なんだか私が怒られている気分になりました」

 

 モノローグと違い、オメガデルタは何も言っていない。

 というよりまだ悪質なモノローグは滅びていなかったのか、とレイナースが呆れた。

 

「……不可視化なのか非実体の生物なのか。とても興味がありますわ」

「呼ばんでいい。それより我々の増強だ」

 

 レベルダウンしたのはラナーだけで他は軒並み元の高めのレベルだ。

 バラバラな数字なのでチームとしての増強は難しい。

 アルシェ達も前のチームでは極端な差は開いていなかった。

 

「一つところで多人数の戦闘はやはり難しいんでしょうね」

「経験値はそのまま残っていますけど……。イビルアイが随分と苦労した事は理解しました」

 

 彼女(イビルアイ)は独学に近い方法で(おこな)った筈だから。

 増強に適したモンスター選びも慣れていないと大変なものだ。極端に強いモンスターであればいい、というわけにはいかないので。

 

「……しかし、ステータスを見る生まれながらの異能(タレント)か……。身体に影響がないとしても無闇に見ない方がいい」

「はい。それは充分に気をつけています。……ですが、あのペロロンチーノという人は……凄かったです」

 

 レベル100のプレイヤーだから。

 現地の人間であるアルシェにとっては神のステータスを覗き見た事と同義だ。それはそれは驚いたことだろう、と。

 かく言うオメガデルタもレベル100だが。

 戦闘用に調整したタイプと趣味に調整したタイプは同一ではない。

 器用貧乏という言葉がある通り、育て方によってステータスは千差万別だ。

 

          

 

 自分達の限界については語っても仕方がないのでラナー達に意識を向ける。

 聖王国とは違い、増強の刻限は特に決まっていないという。

 適度にチームプレイ出来ればいい、という事だが何か目標とかは無いのかと尋ねてみた。

 

「仲良く冒険者の仕事が出来れば文句はありませんわ」

「……リーダーがそう言っているので、それは総意と受け取ってもらってもいい」

「あまり死地に向かうような事よりは堅実な仕事で結構です」

 

 クルシュは待っている家族が居るので無茶は出来ない。

 

「私も特に急ぐ用件はありません」

「……ふむ。それでも目標はあった方がいいだろう。平均で……ナーベラルは除くが二十から三十くらいがいいかな」

 

 それでも現地の冒険者からすれば凄い増強だ。

 『蒼の薔薇』の平均が三十近くなので。

 ちなみに、現地の人間の限界レベルはおそよ60となっている。それは『レベルキャップ』という概念が働いているためだ。

 何らかのイベントを乗り越えないと次のレベル帯に行く事が()()()()も出来ない。

 かの竜王(ドラゴン・ロード)達も同様だ。

 つまりは『ユグドラシル』のプレイヤーがいかに破格の強さを持っているかが知れよう。

 

「それで手を打ちますわ」

「ラナーさんは強さに拘りはあまり無さそうなんですけどね」

「そんな事はありません。私、クライムと一緒に屈強なモンスターをバンバン倒したいのです。……でも痛いのは嫌ですわ」

 

 モンスターを痛めつけるのは好きだけど自分が傷付くのは嫌。

 それはそれで結構わがままだが、あえて分かった上で言っている筈だ。

 

 ラナーは賢い女性だから。

 

 打算無くして発言するわけがない。

 未来を見据えているのであれば何をその目は見ているのか。

 オメガデルタは彼女の人生に最後まで付き合う気は無い。彼女自身の物語を尊重する立場だから。

 一通りの相談を終えた後は宿舎に居る者達を呼ぶのだが地上を警備している『蒼の薔薇』は放置した。

 彼女達は増強ではなく、要人警護の依頼で『マグヌム・オプス』に来ているのだから邪魔してはいけない。

 最初に呼んだはレオンミシェリの連れだ。

 桃色の髪の毛で犬耳の人物と尻尾がいやに大きく見える栗鼠人間。

 種族名が分からないから酷い名称だが、それぞれミルヒオーレとクーベルという少女達だ。

 

ミルヒオーレ・(フィリアンノ)・ビスコッティと言います」

「うちはクーベル・(エッシェンバッハ)・パスティヤージュじゃ」

 

 早速獣の耳と尻尾を触らせもらうオメガデルタ。

 彼女たちも耳と尻尾は触られても嫌がらないようだ。

 だからといって裸になれ、とは言えない。

 

「いやいや貴重な経験をありがとう。ずっと宿舎に居て退屈でしょう。娯楽施設はここには無いので」

「……まあ、楽しみが無いのは退屈なのじゃが……。元の世界に戻る方法が見つからんから仕方が無い」

「この世界では他の世界から召喚する魔法自体は存在するそうですが、それはモンスターにだけ適用されるとか」

「そんな方法があれば転移者は苦労しておりません」

 

 オメガデルタも苦労している。

 ずっと寝ていたけれど。

 


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