ラナークエスト   作:テンパランス

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#127

 act 65 

 

 粗方の面接が済んだのでミルヒオーレ達を解放した。

 最後に雪音の仲間達に来てもらう。

 一人は病人のようで、背負われてやってきた。

 それ以外は地下の鍛錬を拒否し、ひっそりと一日を過ごしていた。

 

「君達が最後だが……。それにしても転移者が結構来ていたんだね」

 

 少なくともオメガデルタが知る人物は一人も居ない。それどころか『ユグドラシル』の『プレイヤー』でもない。

 この世界に何が起きているのか、それはさすがにオメガデルタも知らない。

 世界の秘密を解き明かしてきた存在ですら、未知の原因にはお手上げだ。

 そもそも自分達の事でも手一杯なのだから。

 

「それぞれ人間さんと……」

 

 月読(つくよみ)調(しらべ)(あかつき)切歌(きりか)マリア・カデンツァヴナ・イヴ風鳴(かざなり)(つばさ)天羽(あもう)(かなで)

 雪音と同様に変身して初めて現れる特殊能力持ち。

 

「転移の経緯は謎の爆発事故と……」

 

 全員が同じ世界に居て、同じ事故に遭った、というのであれば何となく分かるのだが、クローシェ達の生い立ちから、それぞれ違う世界の住人でたまたま同じ世界に転移した。

 それはこの世界が様々な世界から転移者を受け入れる何らかの原因を内包している、ということかもしれない。

 ただ、短期間に大勢の転移は初めての経験なのでオメガデルタも驚いていた。

 ただでさえ厄介なモンスター達が居るというのに、と。

 

「折角異世界に来たのに一つところに滞在して……」

 

 少しは冒険でもすればいいのに、と言いたい所だが天羽がいきなり行動不能に陥った、という話しなので世間話しは早々に切り上げる。

 物騒な事が起きそうなので暁と月読には退出してもらった。付き添いにマリアも一緒で。

 

「まずはケガからですね」

 

 それと千切れた腕を持ってきてもらう。

 魔法をかけずに随分と放置されてきたが未だに腐敗の兆候が無いという。

 元々防腐剤入りの食事でも摂っていたのか、身体に腐敗菌が無い清潔なものだったのかは分からない。

 物思いに耽ってすぐに天羽の左腕が入った袋を風鳴が持ってきた。

 

「治るかどうかは君達次第だ。素直に指示に従ってくれるとありがたい」

「よろしく頼むぜ」

 

 赤めのオレンジ色の長い髪の毛がとても綺麗だと思った。

 青い髪の風鳴も気になるところだが、随分とカラフルだな、と。

 この世界の住人は黒髪と金髪が主流だ。奇抜な色は殆ど見かけない。

 

          

 

 まずは何人かメイドを呼び出しておく。

 それから定番の鑑定作業だ。

 大抵のものに鑑定魔法をかけると一通りの情報が現れる。それがこの世界の(ことわり)となっているようだ。

 鑑定結果に異常は無い。ただの人間の腕だった。

 だがしかし、と疑問を抱く。

 腐敗しない人間の腕に異常が無い、とは何なんだ。

 痛みの共有は無いし、天羽の意思で動かすこともできない。当たり前の確認作業だが、それが覆される事態は自動人形(オートマトン)の身体でも怖いと感じる。

 今のところ憑依先の特性は精神などに影響が無い模様。というより、それを自分で自覚できるのかは疑問が残る。

 

「じゃあ次だ」

 

 メイド達に用意させたベッドに天羽を寝かせ、宣誓を述べてもらう。

 割りと本気になってくれる方が何事も事態が進め易い。

 風鳴達を一階に待機させているのだが、大手術を待つ保護者のような心境になっていた。

 立会いに制限は無い。ただ邪魔なだけだ。

 何をするにも騒がれると大人しいオメガデルタとて苛々する。

 特に真剣な時は。

 用意が整ったところでいちいち質問してきそうな天羽を眠らせる。そして、全裸に、はしない。

 周りにメイド達を配置し、監視などに警戒させる。

 こればかりは味方であろうとおいそれと見せる事は出来ない。

 現在、それを許しているのは魔導王とイビルアイのみだ。

 

「ズラズラと出てくるステータス~」

 

 異世界への転移によってステータスは現地に合わせて調整される。けれども元々『ユグドラシル』のプレイヤーでない者はそもそも『フレーバーテキスト』など出ないはずだ。

 設定を直に書いたりしていないはずなので。

 だが、それでも書かれる場合がある。

 

 人はそれを『個人情報』と呼ぶ。

 

 人様の情報をひけらかす気持ちはオメガデルタには無い。それが敵であっても同様に。

 信用第一。何事も仕事として請け負ったものは最低限守らなければならない事がある。

 時に倫理観よりも優先される。

 

「……そもそも誰が設定し、書いたのか……」

 

 十七歳。一通りの歴史に好き嫌い。特技など。

 シンフォギアになった経緯は簡単な文章のみ。

 それらをざっと流し読みした後、本題のステータスに移行する。

 肉体変化によって変質する部分は『別ページ』に記載される。例えば現在のHP(ヒットポイント)やかかっている『強化(バフ)弱体化(デバフ)』の状態など。

 

「薬品による身体(しんたい)異常……はどこかな。無いければ無いで疑問だが……」

 

 未知の効果による異常は見つけにくい。

 また厄介な効果の一つに世界級(ワールド)アイテムの影響がある。これはただの魔法では解呪出来ない。

 

          

 

 数十分ほどはかかっただろうか。他人のステータスを読み解くのは意外と時間がかかる。

 腕に色々と魔法をかけてみるが異常は起きない。続いて身体に魔法をかける。

 普通ならばそのまま機能する。

 本当は()()()()()()()()()のだが。

 結論から言えば腕は元に戻った。いや、再生した。

 おそらく身体機能も回復した筈だ。

 腕がもげたというのは今の状態では確認出来ない事かもしれない。なにしろ、オメガデルタは彼女達の事は全く知らないのだから。

 『シンフォギア』とは何か。その知識は残念ながら持っていない。

 

「レベルも低いようだし、確認してみるか」

 

 まずは先に(せい)への渇望を持たせておく。そうしないと()()()()死んだ後が大変になる。

 ただの人間を操るなどプレイヤーには造作も無い。だからこそ元の世界に帰ってしまうと世界が大混乱に陥るのではないかと考えている。

 それを防ぐ為に戻れないような遠い世界に飛ばしたとか、遥か過去や未来に飛ばす事が起きてしまう。

 

「まずは消音から……」

 

 二階部分を『沈黙地帯(ゾーン・オブ・サイレンス)』で包む。これで下の階に音は届かなくなる。

 次に『人間種魅了(チャームパーソン)』で言いなりにする。

 シンフォギアによって出来る事を色々と尋ね、変身してもらう。事前に使ったら死なないかを聞いておく。

 

「クロイツァル、ロンツェル、ガングニール、ヅィール」

 

 淡々と口ずさむ天羽。それでも適合者ということで機能し、アームドギアをまとうことに成功した。

 上半身はオレンジ色。下半身は黒が基調の不思議な格好。

 髪の色や姿が変わるようなものではなく、身体を守る鎧が現れるだけのようだ。だが、ステータスはなぜか向上している。

 単なるまといだけではないようだ。

 静かに歌い始める天羽をよそに調査は続く。

 


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