ラナークエスト   作:テンパランス

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#132

 act 70 

 

 外が暗くなり、宿舎に明かりが灯る頃、六の宝物庫(ユーノー)の中が賑やかになってきた。

 警護していた『蒼の薔薇』の面々が入ってきたからだ。

 

「急に静かになると下に降りるのが怖くなるわね」

「ただっ広いからな」

 

 地下一階では食事を持ち寄って竜王国聖王国の一部の兵士達が食事会を開いていた。

 食器などは持ち込みである。

 

「あら、ラナーはまだ特訓?」

「休憩しながら頑張っている」

 

 蒼の薔薇のリーダー『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』の疑問に答えたのは戦闘を休んでいるレイナースだ。ナーベラルはナザリックに行ったまま未だに帰ってこない。

 ペロロンチーノの話しでは別件の仕事に出向いているとのこと。

 床に降り立ってようやく気持ちに安心感が湧いて来る。

 この『マグヌム・オプス』という施設は常人には窺い知れない恐怖を圧力として与えてくる。本来ならば三日もこもれば発狂するのではないかとさえ言われていた。

 イビルアイですら長くて一週間。

 それはもちろんモンスター討伐を(おこな)っている場合だ。それが無ければ六の宝物庫(ユーノー)だけで過ごすことに何の支障も無い。

 金髪をカールさせた貴族風の髪型を持ち、大型のバスタードソード『魔剣キリネイラム』を携えたラキュースは仲間達に空いている席に座るように促す。

 双子の忍者ティア』と『ティナ』と漢らしいと評判の『ガガーラン』とイビルアイを加えた五人チーム『蒼の薔薇』は王国随一の実力者集団でアダマンタイト級冒険者として名を馳せていた。

 五人だったのは昔のことで今は新メンバーを加えて別の名前を持っている。けれども先の『大戦』により、自分達がどういう経緯で持って冒険していたのか、()()()()の部分が丸ごと抜け落ちていて思い出せない。

 

「結界を張っているからモンスターの襲来があるまでは待機する」

「……脅威が無いまま警戒し続けるのは退屈だが、期待してはいけないんだろうな」

 

 地下からモンスターを持ち出す事は出来る。けれども、それでは本来の仕事に支障を来たす。

 それらは愚痴として処理し、地下に設置された手洗い場に移動していく面々。

 

          

 

 食事会は(おごそ)かに(おこな)われ、他愛もない会話が交わされる。

 騒がしい聖王国の一部が居ないだけで現場は驚くほど静かだった。

 

「他の世界からのお客人は退屈されていませんか?」

 

 ミルヒオーレ達に微笑を見せつつ尋ねるラキュース。

 人間以外の人種でも物腰が柔らかければ安易に敵対したりしない。その辺りの分別は冒険者というよりは貴族に近い。

 対するミルヒオーレも領主という立場で対応する。

 

「こんな広い空間での食事より上の方が良かったんじゃねーか?」

 

 ここが城ならば多少広大な部屋でも納得出来る。だが、ここは広すぎる。

 無駄に、という修飾語が付くくらいに。

 秘密の会合をする上では適しているけれど、普段の利用においては逆に不安を覚える。

 

「粗末な一軒家では失礼かと思ったのだが……」

「仕切り壁で少し狭く囲えばよかろう。ここの広さなど今更な話しだ」

 

 少女の姿に戻っていたドラウディロンが朗らかに言った。

 百メートル越えの天井は見上げると首が痛くなりそうなほど高い。それは他の部屋の兼ね合いから仕方なく高くなってしまっただけ。

 新たに階層を追加する場合は結構な大工事となる。それとあまり細かい階層を増やしても利用者が元々少ないので意味があるのか疑問となる。

 様々な要因から今の状態で妥協しているわけだ。

 

「まだ日は浅いが奏の体調はすこぶる良いようだ」

聖詠を使う分には平気だ。それだけで今は満足するよ」

 

 一時はもう歩き回れず、肉体が崩壊しきるのを待つだけだと思っていた。

 それが今は大盛りのご飯を平らげるほど元気になった。

 気持ち的にも余裕が生まれ、風鳴達は外での鍛錬を始めている。

 そうして話している間にも無口なメイド達が様々な食事を用意し始める。中には蜘蛛にそっくりなものも。

 

「今後の身の振り方については……、リイジーやイビルアイに任せる。私からは特に言及するような事はしない」

 

 動きを制限しなければならないような規則は無い。

 彼女達が世界を破滅に導くような存在でない限り、オメガデルタは応援する立場で妥協出来る。

 異世界からの来訪者には素直に驚くが、帰還方法については自分から言える事は殆ど無いのが残念な点だ。

 


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