ラナークエスト   作:テンパランス

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#133

 act 71 

 

 次の日の朝、相当数とまではいかないが割りと多くのモンスターを倒し終えたラナーとネイア。

 それでも経験値は微増といったところだ。

 彼女達が倒していたモンスターはレベル20台。ラナーは割りと増えるのだがネイアは彼女の半分ほどといったところだ。

 序盤の伸びが低いのもお約束のような気がしないでもない。

 

「次は武器を変えて少し強いモンスターに移行します。他のメンバーも交えて」

「メンバーが増えると獲得値が減りますでしょう?」

「そうですよ。それでもチームとして調整しなければいけません。互いの立ち位置を把握する事は集団においてとても重要なのです」

「……はい」

 

 では、すぐに戦闘。というわけにはいかない。

 ラナー以外の者達の増強が残っている。

 増えたかどうかの確認はアルシェにやってもらうとして、オメガデルタとしては施設利用者全員を対象にしていた。

 

「生物に抵抗があるなら無機物の(まと)を用意します。この世界では等しくモンスターを討伐するのが基本です。それが出来ない場合は単なる市民か農民が関の山です」

「はい」

「元の世界に戻れるまでは無茶をしない生活もありですが、何もしないよりは色々と挑戦してください」

 

 言いたい事を伝え、ラナー達を地下に連れて行くオメガデルタ。

 頼もしい主にイビルアイは仮面の中で目を輝かせる。

 

          

 

 その日の午後にネイアがまず地上に出た。そして、思いっきり空気を吸う。

 地下世界での生活は本当に息苦しい。というより長居したくないと思わせるほどだ。

 じぶんはまだ生きていると実感し、とても嬉しい気分になった。

 

「……あ~、まだ生きてるよ、私……」

 

 無尽蔵に現れるモンスターを倒しても倒してもきりがない。それは(おびただ)しい亜人の軍団を相手にしているようだ。ただし、無抵抗なので尚更怖い。

 次に出て来たラナーも大きく深呼吸する。

 既に十近くのレベルに到達した。次はもう少し強いモンスターと戦えるようになる。

 五レベル上げるのでさえ数日がかりだったものがオメガデルタの方法だと更に効率的に上昇したのは驚嘆に値する。

 何がどう今までと違っていたのか体験した者達でもすぐには理解出来ない。何となく感覚的な部分では分かるのだが、口で説明できないもどかしさがあった。

 

「中々大変でしたわね。……男の方は本当にご苦労なさっていると知り、とても感心いたしましたわ」

「……ラナーの欲望は果てしないでしょう。クライム君と仲良くチームを組んだ方が良かったんじゃない?」

 

 ラキュースの言葉に口を膨らませて不満を表すラナー。

 クライムをびっくりさせる為に離れ離れで努力しているのですわ、と言いたそうな感じだ。

 

「単なるモンスター討伐だが、その後で身体にどういう変化が生まれるのか、そこが問題だ」

「そのための特訓が別に存在するようですわ。とにかく、今日は休んで明日に備えたいと思います」

 

 ラナーはラキュースと共に宿舎に戻る。その宿舎には農家から物資を搬入する人で賑わっていた。

 王都カルネ村エ・ペスペルから来ている人達だ。

 中には研究者も混じっている。

 鍛錬の成果に異常が無い事を確認したオメガデルタはドラウディロンを単独で地下に降ろす。

 対象人数が少ないほうが効率的だからだ。

 ものの数時間も経てば結構なレベルが上がる事になる。

 

          

 

 極端な向上を目的としていない為に六十レベルに届く前で鍛錬を中止する事になった。それはドラウディロンの意向であった。

 年齢によって(ドラゴン)は強くなる。その余裕を保つ為でもある。

 選んだ職業(クラス)とやらが自分の身体にどのように影響したのか分かるまで一週間ほどかかるらしい。

 急造した力であるから少しずつ鍛錬したものより分かりにくいのが難点である。

 

「どの道、女王が前線で戦う事など無いと思う。いざとなれば豪快に焼き払ってくれるわ」

 

 その時は可愛い姿を投げ捨てる所存だ、と笑いつつ頭を下げた。

 単なる興味本位だったが、鍛錬に関して一部の隙も見せない。それはやはり命を大切にしているからではないかと予想していたが間違っていなかったようで安心した。

 それはそれとして増強分は何処かで披露したいのは事実だ。

 武闘派ではないけれど、雑魚を蹴散らす機会はちょっと欲しいと思った。

 ドラウディロンを地上に戻した後、入れ違いにネイアを地下に招いた。

 弓使いのネイアは得意分野を向上させ、それでもやはり聖騎士(パラディン)への道は諦め切れない。

 正義を体現する職業(クラス)は恩恵を受けるのに制限がある。それを破れば何も出来ない。

 出来無いというか努力が無駄になる。

 

「武器を用意した。もう少しだけ討伐を続けようか。極端な増強は混乱しか招かない」

「はい」

「君は魔法は覚えなくていいのか?」

 

 聖騎士(パラディン)は専用の魔法を覚える事が出来る。だからこそ魔法の手ほどをするつもりだった。

 

「器用貧乏になりそうなので……。無理には……」

 

 弓兵(アーチャー)聖騎士(パラディン)にもなれるのかネイアには分からない。

 なる事自体は可能だ。条件さえ満たせば。

 品行方正であれば聖騎士(パラディン)になる事は難しくない。問題はその後だ。

 規則に縛られる職業(クラス)ゆえ、(おきて)の様な決まりごとが多い。

 

「……極端な例がレメディオスさんだが……。あれはしばらく……」

 

 カルマが下がりそうな気配を感じない。

 数値で言えば100以上の善のカルマを維持できればいいだけ。

 そう聞くと簡単だが、一度取得した聖騎士(パラディン)には守らなければならない決まりごとがあり、それを破れば職業(クラス)の恩恵は受けられない。

 

「自分が正しいと思うことをとことん追求し続ければいいだけ。これが結構難しい。人間は欲深いから」

 

 恩恵を失うという事は経験値の無駄になるということ。

 ネイアの場合は別の可能性を追求した方がいい。

 悪の聖騎士(パラディン)には反聖騎士(アンティパラディン)不浄騎士(アンホーリーナイト)がある。聖騎士団としては相応しくないけれど。

 さっさと一足飛びに上級(クラス)に移行するのもありだが。

 名称だけならば騎士(ナイト)っぽい職業(クラス)で妥協する方が効率的かもしれない。どちらにせよ決めるのはネイアである。

 


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