ラナークエスト   作:テンパランス

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#134

 act 72 

 

 決めずに保留することもまた答えだ。だからゆっくりと考えてもいいと伝えておく。

 それはそれとして経験値を積み上げていく。

 ここは少し強引に進めることを伝えると顔を青ざめさせていた。

 

「明日まで眠っているといい」

「……おおぅ」

「そんなに心配しなくても大丈夫。……私は仕事はちゃんとするよ」

 

 それからすぐに数々の魔法をネイアにかけていく。

 通常の洗脳のようなものでは精神に多大な負担をかけると思うので、本人が意識しなくてもいいように取り計らう。

 例えば攻撃を受けない限り、絶対に途中で目覚めない上位の睡眠魔法とか。

 疲労しないように維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)を装備させる。

 普通は目が冴えたままだが、最初に眠らせておけばいいだけだ。これは装備してから眠るのが困難になるだけで眠れないことはない。

 ほぼ暗示にかかったような状態なのは彼女がまだ低レベル帯の人間だからだ。

 睡眠無効の種族などは効果が薄くなる。

 ましてアンデッドが相手の場合はどうしようもない。ただ、人間を辞めているお陰で作業は支障なく(おこな)えるらしい。

 そうして放置しておけば後は自動的に敵を倒し続ける。

 自動的にレベルアップするのかは分からないが、しばらくは様子見するしかない。

 黙って待機などしないオメガデルタは今の内に施設内を総点検する。

 既に来ていたナザリックのメイド達を七の宝物庫(ケレース)にて出迎え、指示を伝える。

 迂闊に『屠殺場』には入らないことを厳命して。

 

「今は屠殺場以外に人は居ない。特に問題は無いと思うけれど気がかりがあれば紙に書いておくこと」

(かしこ)まりました」

「源ちゃんはどうしてる?」

源次郎様は……宝物庫にいらっしゃると思います」

「後でアイテムを運び込んでおくから、好きに並べていいと伝えておいて」

「はい」

「ん~と、以上かな。モンスターを運んだ者に心当たりはある?」

 

 この質問にメイドは一斉に首を横に振った。

 犯人が至高の存在であればオメガデルタに対して頷く可能性がある。それ以外には()()()応答はしない。今回は全員が本当に何も知らないと答えた。

 つまり犯人はイビルアイやナザリックの者達ですら知らない第三者の何者か。

 イビルアイの目を盗んだり、オメガデルタのメイド達の監視をかいくぐれるものは多く居ない筈だ。

 新手のプレイヤーだとしてもプレゼントを贈ってくる相手に心当たりがない。だからこそ不安に思った。

 指令を伝え終われば朝までメイド達と楽しい見回りの時間だ。

 裸で行動しなければならない規則は無い。そこは勘違いされてほしくない部分だ。

 完全な全裸より中途半端の方が(なまめ)かしくてよい。

 

「それよりも、だ。戦闘用の身体ではないが日常生活には困らないな」

 

 それと現地の人間と転移者に魔法が何の支障も無く通用してびっくりだ。

 何かしらの抵抗(レジスト)とか危惧していたが。

 あまりにかかりすぎると自分達が強者である事になってしまう。というより強者で間違いは無い。

 本来ならばそれのどこが悪いかと言われそうだが、弱者の立場から見れば脅威だからだ。

 今は友好的でもいずれは危険視される。そうなると生活し難くなる。

 テンプレート的な危機とも言う。

 

「地上はアインズに任せたから知らねー、と無責任な事は言えないよな」

 

 そんな事を思いつつ地上の建物の屋根の上に移動する。メイド達には仕事を終えたら帰っていい事は伝えてある。

 王都に顔を向ければまだ居る巨大生物。ずっと動かないようだが待機しているのか、それとも動像(ゴーレム)とかか、と。

 夜間でも景色を見通す『闇視(ダークヴィジョン)』のお陰で真昼のような明るさだ。

 

「地上で異常事態が起きたら月とかも何かしらありそうなんだが……。それが無いのは星自体に秘密があるとかかな」

 

 天体に攻撃が無いのはありがだいけれど。

 そろそろ夜明けが近い。

 ネイアを引き上げさせるか、と難しい思考は避けて地下施設に戻る。

 淡々とモンスターを倒し続けた少女は経験値だけは相当溜め込む事に成功した。後はそれを適切に割り振るだけだ。

 その前に宿舎に戻して眠らせる。

 

          

 

 次の日、鍛錬する者が居なくなったのでイビルアイと報告書を交わせば少し暇になる。

 モンスターの管理について追加の容器を搬入し、速やかに調査と処理を(おこな)えば朝食の時間となる。

 

「さすがはご主人だ。もう部屋が片付いている」

「管理だけを押し付けて悪いね、イビルアイ。アイテムの方も昼過ぎには届く。源ちゃんが来るかもしれないけど、仲良く調査してくれ」

「……あのモジャモジャモンスターか?」

「そう。整理整頓が好きなくせに溢れそうになると逃げ出す習性があるから。そんなに害にならないと思うよ」

「……なんだそれは。とにかく了解した」

「転移者の世話をする事になったみたいだから、イビルアイは無理して付き合わなくて大丈夫だ。しばらく残るから」

 

 というような取り留めのない話しをしていると地上から普段着の『雪音クリス』がやってきた。

 鍛錬する気は無く、ただの興味で来たらしい。

 

「人が少ないと広く見えるな」

「あまり面白いものは無いと思いますが……。他の部屋に行きたいとか?」

「道案内する人って誰も居ないのかと思ってさ。近くの町とか行きたいんだよね」

 

 オメガデルタは早速イビルアイに案内を頼んでみた。

 転移者を一箇所に留めなければならない規則は聞いていないので、気晴らしに街を散策してもらう事にした。

 

「ならば村の者に頼んでみよう。私は王都に行かなければならないのでな」

 

 オメガデルタは彼女達の武装について興味があったので変身してもらった。

 常に歌い続けないといけない技術はよく分からないが、雪音の全身をくまなく観察する。

 身体を覆う金属などに触れたり、武器に触ったり、()()()()調査していく。

 

「撃った銃弾はどうなります?」

「知らなねーけど、足元に散らばったままになるんだろ?」

 

 実弾やビーム兵器も扱える。時には巨大なミサイルを生み出す。

 それらは身体の何処に仕舞われているのかとても興味深かった。さすがにミサイルは物騒なので取るのは諦める。

 破壊兵器は普通の魔法で充分だ。

 


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