ラナークエスト 作:テンパランス
一日一杯放置したレメディオス達を回収し、メイド達に風呂に入れるように命令しておく。
その間に経験値の確認をする。
やはり、というかレメディオスはかなり向上していた。元々戦闘民族のような人間だからか、伸びがとても良い。
ある程度の実力を持っている方が数値が良く増える。とはいえ一日だけだ。
四十台を突破するのがせいぜい。
「……現地の人間が更に十レベル以上も増やしたのは凄い事だが……」
ただモンスターを倒せばいい。
この理屈の弱点は自分より強いモンスターが相当数居なければならない事だ。
ゲームと違い、再生成という概念が働かない、筈なので一定数字で止まってしまう。
「最強になるには更なる努力が求められる」
この世界には適正レベルがあり、その範囲内で人々は暮らすべきだ。
その自然法則を無理に破る事は摂理に反する。
それはそうなんだけど、とオメガデルタはため息をつく。
もし仮にパワーレベリングが無ければ自分は異世界を楽しまずに人生を終えていた。
「現代っ子は原始的な暮らしには耐えられない。不便を良しとする人も居るかもしれないけれど……」
独り言を言いながら風呂から上がってきたレメディオス達の魔法を解き、服を着させる。
アイテムの効果により、ほぼ疲労は感じていない筈だ。
このまま人為的に能力を増やすか、それとも自然に任せるかを尋ねていく。
必要な魔法は実際に取得してもらい、本当に使えるのか実戦も付き合う。
「第四位階をこうも簡単に……。……そんなバカな」
「意図的な能力向上は何かが間違っている、と思わせますね。……けれども折角頂いた力は有効に使わせていただきます」
驚くケラルト。冷静なカルカ。
レメディオスは剣のみに特化しようとしているせいか、それほど気持ちに変化が起きなかった。
武技も実は選べたりするのだが、その辺りは保留となった。
† ● †
感覚的にはっきりと分かるような変化は殆ど無かったが今以上に向上するには一週間は必要だ。というより最初の多人数の影響で時間がかかりすぎたのが問題だったが。
一つずつの増強の方が分かり易い。これはイビルアイが悪いわけではない。
それぞれ訪れる時期が悪かっただけだ。
オメガデルタでも全員一片の増強はかなり時間がかかる。
レベルで言えば47になっているレメディオスだが、経験値でいうと55レベル分は溜まっている。
カルカ達も同様に。
一定の強さがないと高レベルのモンスターを多く倒せないので、段階を経る必要があった。
「兵士達も少人数ずつ増強するならば連れて来ていいですよ。……本気で時間がかかりますが……」
「了解した」
ひとまずの仕事は終わった。
本来ならば惰性的に続けられるわけがない。だからこその少人数制だ。それを無視すればオメガデルタとて怒る。
そんな事は表に出せない感情だが、適度な忙しさもたまには必要だ。
必要な書類を取り交わした後は施設の点検の続きだ。
施設に放置していた品物を少しずつ月や『
月の施設はまだ未完成ではあるが保管庫としての機能は既に備わっている。生きている生物をそのまま持ち込まない限りにおいては何も問題は無い。
そんな作業を続けていると一度退出した筈の
「……こんなに膨大に用意して本気で星を開拓する気なんだな」
「おそらく時間差によって挫折する事になる気がするけどね」
簡単に言っているが、星の開拓は難しい。まず生物に必要な大気だの微生物だのが必要だ。飲み水も然り。
単なるモンスターだけで自然と馴染ませるだけで数万年はかかるのではないかと。
地球でさえ自分達が住めるようになったのはどれだけの年月がかかったことやら、想像したくない。
「最近、超絶的な転移魔法の存在を知ったんだけど……。どうしようか思案中」
「……なんか聞いた事があるな……。『
その超絶的な転移魔法はその名前が示す通りの効果が
そこが
† ● †
普段は周りに敵意を振り撒くウルベルトがとても大人しいのが原因だ。
そもそも至高の存在ではないオメガデルタと対等に話している光景はとても信じがたいものだ。いや、相手の立場を理解している上でも驚きに値する。
「普通、転移ものなら蹂躙はつきものだが……。お前は別格だな。……色んな意味で」
「ありがとう」
ウルベルトは呆れ気味に言ったのだが、オメガデルタはそれを分かって返答してきた。
そう答えるような人間なのは
個人的な付き合いで言えばオメガデルタの本来の人間としての存在は可愛いとは言い難いが、一応女の子として認識している。
何年経とうと女の子だ。
現在何故、男性的な振る舞いをしているのかも当然、知っている。
「そういえば、新たに追加された『献体』だが、もらえるものか?」
「……ああ、まだ下処理が終わってないから……。誰が持ち込んだが……。片付けるの大変だったよ」
そのまま放置していれば全て台無しになる所だった。それはそれで勿体ない事だ。
そうして取り留めの無い会話をしていると鳥人間であるペロロンチーノ達が顔を出してきた。
近くに『ナザリック地下大墳墓』と繋がっている出入り口があるから別段、不思議な事は無い。
「聖王国の人達は帰ったの?」
「大部分はね」
「王国の方は特に変化らしいものは無いけど……。たっちさん、明日には来るって」
「……それは楽しみだ」
オメガデルタ個人としては会いたい気持ちはもちろんあるのだが今は仕事を優先しなければならない。それがとてももどかしい。
この施設はオメガデルタのものなのでナザリックの連中が大勢押しかけてくるのは正直に言えばウルベルトと言えども邪魔だと思う。
自分達の拠点に他人を入れたがらないクセに、という事は口に出して言えないけれど。