ラナークエスト   作:テンパランス

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#139

 act 77 

 

 頭の痛くなる考察を終えたたっち・みーは少しの間、唸り続けた。

 どんなに考えても綺麗な解答は得られない。今はそれしか分からない。

 久しぶりの対談だが一方的に話して悩んだだけ、とも言える。

 

「一番いい解答は……、おそらく……」

 

 メンバーに声をかけて『四十二人目』にしてギルドに縛り付ける事だ。

 おそらくそれが最良ではないかとさえ思う。

 自分達の目の届く位置に、とまで考えて施設の中を改めて見回す。

 

 既に手遅れとも言える。

 

 という残念な結果にまた頭を痛める。

 相手の出方を窺う慎重派の天敵のような存在だ、オメガデルタというプレイヤーは。

 正確な名前は呪いの効果で言えないようだが。それでも中堅のプレイヤーとしての実力を今も堅持している。

 この世界で『ユグドラシル』の中堅というのは立派に覇者のレベルだ。

 確実に相手にダメージを与える戦法を持つ。

 一撃で打倒するよりも実は厄介なものだが。

 

「現地の人間達に申し訳ない気持ちを持っている間は私も剣を収めておこう」

 

 今以上に酷い結果になる光景が全く浮かばないし、今が最悪とも言える。

 けれども手打ちは必要だ。

 物事に決着を付けなければ健康的とは言えない。

 

「天体型が完成したら我々の身体を持っていけ。それまでは保留だからな。元リーダー権限で」

「……それは勿体ない。解決しなければならない問題があるから……、そう簡単には事は進まない」

「……アバターの問題か?」

 

 そうたっち・みーが言うとオメガデルタは素直に頷いた。

 

          

 

 ゲームのキャラクターであるアバターをそのまま持ち出して、故郷に素直に帰還できる筈が無い。

 この世界が特別だから、という理由であればある程度近くまで行けば素粒子とかに分解されてしまうかもしれない。

 元々がゲームデータだ。魔法という空想概念をそのまま持ち込めるとき思えない。

 

「……その時はその時理論か……」

「そうだね。……それが最適解だと思う」

 

 考えなしの帰還計画を立てるわけが無い。だからこそ『もしも』の場合も想定しなければならない。

 だが、今回はオメガデルタ()()()ではないので、これ以上の考察は控えるが、理想の結末は存在しなければならない。

 

「もし、神様が居るなら……、何を願う?」

「当然、魔法のシステムを現実の概念にして下さい、かな?」

 

 即答しているところは随分昔から考えていたものだとたっち・みーは思い、椅子から立ち上がる。

 久しぶりの友人との対話は少なからず楽しいものだった。けれども、オメガデルタは既に自分とは違う時間の中で生きている。

 それを邪魔する権利は無い、とは言わないが応援したい気持ちはあった。しかし、何をどうすれば()()の助力となるのか、全く浮かばない。

 

「転移者の騒動が治まるまで……、協力してくれるか?」

「たっちお兄ちゃんが助けを求めているのならば……、協力しない理由は無いよ」

 

 悪党に手を貸してもらう事は正義の名折れではある。けれども世界の危機に小さな矜持は霞のごとくだ。

 自分が困っている時に手を差し伸べてくれるものが本当の正義だ。そして、それが悪だとしても自分は手を握る。

 それが出来ない者はきっと孤独のまま死んでいく。

 

 理想を抱いて●●しろ、という名言がある。

 

 正義という理想を抱いたままであれば何処かで壁にぶち当たる。

 物事は時に矛盾と戦わなければならない。

 その時になって正義とは何なのか迷わないように。たっち・みーは自分の信じるままに正義を体現しようと思った

 

「……それ以前にお前は……。我々とは違う幸福を見つけようとしているんだよな」

「幸福というか楽しみだね。人生は面白い事が無ければ()()()()()。存外私なりに楽しんでいるよ。……戦闘以外では役に立たない事が多かったのも原因の一つのような気がしないでもない」

 

 戦闘プレイヤーが日常生活を送るのは意外と難しいものだ。

 特にアバターは取得している職業(クラス)に色々と左右される事が多い。

 そういう不自由から解放されるにはオメガデルタのように足掻くしかないかもしれない。

 


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