ラナークエスト   作:テンパランス

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#141

 act 79 

 

 昼ごろまで新たなギルドメンバーに話しかけられることもなく。また、ぶくぶく茶釜は小言を言わずにオメガデルタの点検作業の見学に務めた。

 ペロロンチーノとは違い、興味以外で邪魔することも多くの質問を重ねることもしなかった。

 そんな中、度々現れるメイドに命令するオメガデルタは仕事には真面目だなと思った。けれども、それは内容を無視した場合に限られる。

 『マグヌム・オプス』に置かれているものは表の世界に出してはいけないものが大半だ。

 

「そういえば、そのシズ・デルタは飲食は出来ないの?」

「出来ると思うけれど……。すぐ帰れるかと思って観光仕様のものにしたんだけど……」

 

 観光どころではない事態に驚き、戻ろうかどうか実は迷っていた。

 

「……しかし、黙っていると静かな施設になるのね」

 

 実験道具などの機械的な音とかが一切しない。

 広い空間による消音効果が凄まじい。普通の人間であれば音の無い世界や色の無い世界に長時間滞在する事は精神的に難しいところだ。

 異形種という肉体の恩恵が無ければぶくぶく茶釜とてすぐに逃げ出す自信があった。

 

「……ソロプレイヤーって孤独よね……」

 

 ナザリック地下大墳墓に戻れば賑やかな空間が待っている。だが、ここはそれが無い。

 イビルアインフィーレア・バレアレが来るとしても寂しい限りだ。

 人を住まわせるには不向きな施設だが。

 

「そういや、身体は女の子なんだから胸とか触り放題じゃないの?」

「他人の身体だから触りたい衝動に襲われる。自分の手となると何の楽しみも感じない。面白くない。手に入りそうで入らない程度が魅力的なのさ」

 

 そんな変態的な感想はペロロンチーノに伝授されたわけではなく、自分なりの拘りから生まれたものだ。

 それに今は『運営』という縛りが無い。オメガデルタにとっては()()()()()事だった。

 だが、それも自身がアバターという事実の壁には屈せざるを得ない。

 

「それよりも姉さんは粘体(スライム)のまま平気なの?」

「お陰様で。能力はそのままだし、新しい特殊技術(スキル)は魅力的だけど……」

 

 自身が組んだ職業(クラス)構成を頻繁に変える事は少ししか考えていないけれど、向上心が無いわけではない。

 仮に自在に出来るとしても倒すべき敵が少ない。

 現地で末永く暮らすには戦闘用の職業(クラス)では難しい事も理解している。

 人間であればいいのか、というと死に易くなるのでもどかしくなる。

 

「……私らも()()……欲深い生き物なのよ、きっと……」

 

 そして、それを自制するかしないかの問題で分かれているだけ。

 結果はどちらも似たようなものだとぶくぶく茶釜は予想している。

 双方にとってデメリットがあり、未来志向において多くの議論を必要とする。そしてそれはとても有意義に働くべきだ。

 

          

 

 それを本来ならば主役たる人物が延々と試行錯誤するのが普通のファンタジーだ。

 なのに無関係の者が延々と考察している。

 

「……私らが悩んでも仕方なくね?」

「そうだよ」

 

 オメガデルタの返答に唸る粘体(スライム)

 その主役である『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』は宿舎で顔を洗っている最中だ。身支度に少し時間をかけるのは王女(プリンセス)の宿業か。

 

「……なんでシャルドルンって書かれるのかしら?」

原作者以上に偉いと思っている人のせいじゃないかな。少なくとも公式はシャルドロンだよ」

 

 スペルも書かれているのに間違うなんて事がありえるのか。それはそれで疑問ではある。

 後々名前が変わったのは『嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)』くらいだ。

 

「……ほんとメタタグって便利ね……」

 

 そんな話題は普通のストーリー小説では伏字で済まされる。それを著作権に配慮しつつも堂々と書けるのはありがたい事だ。そうでなければ何も批判できず、ただあるがままを受け入れる結果となり、普通に進む。

 それでいいのかどうかは個人の解釈次第だ。

 そうして地下施設にラナー達『黄金の仔山羊』が降りてきた。

 ぶくぶく茶釜は今日一日一杯は暇なので壁昇りに挑戦しつつ屠殺場に向かった。目的はメイド達が隠れている小部屋だ。

 

「だいぶ人が居なくなりましたわね」

 

 ラナー達を出迎えるオメガデルタ。

 あまり出番が無かった彼女はこのまま鍛錬する気なのか確認作業が始まる。

 

「後もう少し強くなりたいですわ」

 

 尋ねれば素直に答える第三王女。結婚適齢期であるはずなのにモンスター退治優先していることに少し驚きを感じる。

 実年齢で言えば既に二十歳を超えている。

 

「……二十五歳くらい?」

「時が止まったままの別作品だと思ってくれるとありがたいですわ」

「動じないところは好きですよ。……序盤にメインストーリーを消化されていますが、まだ何かやりたい事が残っているのですか?」

「折角なので王都を潰そうかと」

 

 冗談で言っているのか、本気なのか。ラナーの場合は本気が三割ほど入っているはずなのでオメガデルタは苦笑する。

 王都を潰す話しというのは多くの読者が望んでいる事だ。彼女はただそれを代弁しているに過ぎない。

 

          

 

 ラナーは頭の回転の速い人物である。

 それは今作でも健在だ。それがどの程度かと言えば結末まで、となる。

 例えイレギュラー()()()増えたとしてもこの結論は()()()()()

 

「極大魔法を一発撃てば実はあっさりと瓦解する王国です。私が直接手を下す事も不可能ではありませんわ」

「……王国メインだから皆が潰したがっているだけ、だと思いますが……」

 

 それに『本編』とやらの話しでは厄介な存在が現れる予定だ。今作では何も言及されていないが。

 

 ヴァランシア宮殿に出現するという強大な敵。

 

 実際のところ他にも色々と厄介な敵は存在している。それらを現地の人間が増強しても勝ち目があるとは思えない。

 もちろん、普通ならば無理だ。オメガデルタでもそう言うほどに。

 

「……先に潰して結果を変えようと……。残念ですが、跡地の概念まで消せませんよ」

「それは残念ですわ。何もかも抹消するような魔法はありませんの?」

 

 魔法では存在しないと思うが、人物程度なら可能となっている。

 可能というところが苦笑を誘うが。

 世界を救う為に国を一つ滅ぼす。そういう理由ならば立派と言える。

 けれども物事はそう簡単ではない筈だ。

 発想が自由でも乗り越えなければならない壁は結局のところ存在し、突破は途方も無い努力を必要とする。

 楽して最強になど本来ならばなってはいけない。

 

「……もしあれは自分ごと消えそうですね」

「まあ、それは残念ですわ。……ちっ、ですわ」

「語尾にいちいち『ですわ』を付けなくても大丈夫ですよ」

「誰が喋っているのか分かり易くするのは基本です、わ。……ペストーニャさんを少し意識していますの」

「あれはたまに忘れるからいいんですよ」

 

 姿がデザインされたペストーニャは後頭部から黒い髪を覗かせていた。しかも腰辺りまで長い。

 ただ、ニグレドは今回もハブられてしまったようで可哀相だ。ヴィクティムですら出番を貰えたというのに。

 ニグレドは第五階層から移動できないようなので気軽に施設に呼び込む事は難しい。それと性格設定の問題がある。

 無視すればいい、という無茶な展開も出来なくは無いが。

 

「雰囲気作りは大切だよね。他の皆さんは増強以外の目的は無いんですか?」

 

 というよりラナーに振り回されたままろくに稼ぎも出来ていない。

 序盤でレベルダウンしたせいもあるけれど。

 

「飲み食いはここ(宿舎)で出来ていたから特に気にしなかったな」

「……個人的には新しい魔法に興味があります」

「私もです」

 

 ナーベラル・ガンマを除く三人はそれぞれ目的があるようだ。

 そのナーベラルは未だに姿を見せていない。

 

アルシェさんは魔力系。クルシュさんは森祭司(ドルイド)系ですか?」

「信仰系で結構です。色々と治癒魔法が存在するそうで、とても興味があります」

 

 回復だけではなく逆の作用も起こせる。

 後方支援タイプなので当たり前ではあるけれど。

 

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