ラナークエスト   作:テンパランス

143 / 183
#142

 act 80 

 

 要望を聞いてもやる事は一緒。

 膨大なモンスターを倒し続けるだけだ。

 今回はイビルアイが居ない。本来の『マグヌム・オプス』の役目は倉庫くらいで本格的な活動はしない筈だった。そもそも更地にする予定が組まれていたのだが、勿体ないという理由で存続する事になり、イビルアイ達に任せていた。

 

「立地が王都に近い時点で物騒な事は出来ないんですけどね」

 

 大規模な破壊魔法の実験とか。

 これはもっと南方でするべきだが土地の確保と移動手段に難があって却下した経緯がある。

 カルネ村からエ・ランテルまで馬車で一日近くかかるくらい王国領は広大だ。当然、帝国領も広い。

 

「まずは今の倍まで。急に増強された状態だと低級の冒険者としては目立つ過ぎるのでは?」

「目立っても構いません。今作限りだと思いますし」

 

 メタ発言も容赦なく使うラナー。それはある意味では凄い事だ。

 

「適度に増強していないと酷い目に遭いそうで」

「そうですね。意外と強い雑魚モンスターが何故か周りにいますから」

 

 攻撃はあっても打たれ弱いのが人間の弱点だ。

 人食い大鬼(オーガ)に油断すればあっさりと死ぬ。それが銀級でも。

 やる気があるのは結構だが意味もなく強くなることにはオメガデルタであっても慎重になる。

 間違えたら殺す、という方法がとりにくいので。

 現地勢は尚更死なせる事が難しい。それはユグドラシルというゲームシステムを理解していない為だ。いくらラナーが賢くてもあてが無い方法を選ぶとは思えない。

 

「みんなで死の騎士(デス・ナイト)を討伐できるまで、でいいですか?」

「もっと上位のモンスターがいいですわ。……戦乙女(ワルキューレ)辺りが……」

 

 レベル60台のモンスターだが、現地勢にとっては災害級だ。

 特定の条件を満たさなければ出現しないようなので長い歴史において目立った被害が無いのは(ドラゴン)が多く住まう『アーグランド評議国』のお陰か。それともかつて存在していたプレイヤー達の働きによるものか。

 今よりレベル60台に引き上げるのは意外と大変である。

 一日で(おこな)う事は無謀。それがオメガデルタの結論だ。だが、何事にも抜け道というものがある。それを享受するならば不可能な事は無くなる。

 

「洗脳を良しとするならば……、叶えられると思いますが……」

「意識したままでは……無理だと?」

「無理ですね。君たちの精神構造はおそらくまだまだ脆弱だ」

 

 オメガデルタははっきりと言い切る。

 それは脅しでもなんでもなく、実際に経験し、経験させた経緯から導かれている結果だからだ。

 賢いラナーであっても耐えられない限界が存在する。

 当然、普通の冒険者としての活動もおそらく出来難くなる。

 無意味な増強とはそういうものだ。

 

「45で妥協致しますわ」

「……値切ってどうする。……平和である事を幸せだと思わなければ……」

 

 戦闘ばかりでは殺し合い以外にする事がなくなる。冒険者は便利屋に近いけれど命を懸けるような戦いはごく少数、または(まれ)である。

 モンスターを無数に放って世界を危機に陥れる魔王でも居ればいいのだが、残念ながら魔族がはびこる世界ではない。

 敵対者が意外と遠くに居るのも問題だ。

 ローブル聖王国のようにたくさんの亜人に狙われているのでない限り、王国は黙っていれば犯罪組織以外に敵は少ない。

 

「……それにしても本筋を無視するんですね、ラナー王女は」

「何の事か分かりませんわ」

 

 ニコリと微笑むラナー。

 別段、自分が直接手を下さなくても物語は自然と進むものだ、とでも思っているのかもしれない。実際にそういう傾向があるのは事実だが。

 完全な傍観者では面白くない。

 

          

 

 四人の増強は今まで通りでいいのだが、魔法や技術はどうするべきか。

 例によってアンケートは書かせる。

 今回は手製の魔法書を渡しておく。

 

「第五位階程度までであまり欲張らずに」

「はい」

 

 ラナー以外は素直だ。

 レイナース・ロックブルズ武技などだが、こちらは流派とか色々と分かれているので一覧表はまだ未完成だ。というより完成するものなのか怪しい。

 

「そろそろ皆さんは邪魔なので去ってもらうとして、新しい客人をそろそろ迎えなければなりません。さすがに大型猛獣はお断りさせてもらいたいですが……」

 

 地面を踏み抜かれては非常に困る。

 ここは魔法的に作られた施設ではなく、現地の人間達が汗水たらして作った本当の努力の結晶だ。

 

「……いよいよ、この物語も終盤ということですわね」

「いつの間にそんな事になったのやら」

 

 オメガデルタからすれば勝手に始まった物語だ。だから新しい転移者の情報がまるで無いのが気にかかる。

 賑やかなのは嫌いではないけれど、研究の邪魔は勘弁願いたいところだ。

 そんな事を考えていると何所かに行っていたぶくぶく茶釜が姿を見せてきた。

 彼女は五の宝物庫(カエルス)をものともしない。ある意味では施設内を支障なく移動できる実力を持つ存在だ。

 

「……器用に壁歩きができて羨ましい事だ」

 

 歩いている、というか張り付いているように見える。

 

「種族の特性って便利よね」

 

 施設の壁はオメガデルタ手製のタイル張り。多少は滑るのだが引っ掛かりがないわけではない。それに一定程度の高さまでしか張られていないので天井まで行く事は可能だ。

 魔法で飛べば楽だが自力で登るのは人間では無理。必ず足場が必要になる。

 

「まずは用意から始めますので、そのまま待っててください」

「分かりました」

 

 ぶくぶく茶釜はラナー達に危害は加えないと思うけれど、無理に戦いを挑もうとしないように、と念のために伝えておく。

 赤い粘体(スライム)が平気だといっても不可視化したシモベ達は慌てるし、何を呼び出してくるか分からないので。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。