ラナークエスト   作:テンパランス

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#151

 act 89 

 

 必要な情報は出来るだけ提供する。その上でオメガデルタは行動する。

 一見すると正直者だが内容が酷い。

 普通の人間であれば嫌悪するものばかりだ。

 けれども、それでも元は人間であるオメガデルタが何故、そういう人間というか存在になってしまったのか。

 身体が異形やアバターだから、という安易な結論かというと違うとも言えるので明確な答えは恐らく誰にも出せない。

 彼女自身もよく理解していない。

 

「……要約するとこんな感じかな」

「……普通、自分の事はあまり語らないと思うけど」

「確かに正直者で合っている。自前でモンスター退治させるんだからまともな施設では無いとは思ってたよ」

 

 それともげた腕を再生させる。それは決して幻ではない。

 確実な能力を備えた人物である事は確かだ。それを今更疑える訳がない。

 

「あんたが欲しいのはシンフォギアというよりあたしらの身体そのものだと思うんだけど……。それはどうやってもぎ取るんだい?」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ天羽は尋ねた。

 おそらくオメガデルタの方法はもっとえげつないものである筈だ。こんなアイテムじみた小さなものではない、と予想している。

 それと他の部屋を自分達はまだ見ていない。

 雪音だけが屠殺場の経験者だが、モンスターをどこに隠し持っているのかまでは確認していない。

 

「手術と一緒だよ。首を撥ねたりするときもあれば胴体をぶった切る。非常に単純な方法で」

 

 天羽は口笛を吹くがキャロル以外は顔色を青くした。

 

「……そんな事をすれば周辺国が黙っているわけが……」

「知ってて黙認しているのか!?」

 

 これほどの規模の施設を隠蔽し続ける事など風鳴達には考えられないし、想像もつかない。それにもまして正直に喋るオメガデルタが人を騙すイメージが湧かない。では、どうやって今まで過ごしてきたのか。

 モンスター退治は他国にも知れ渡っている。それは確実だ。

 

          

 

 物騒な手法は確かに他国の関係者、それも上位に居る存在には伝えてある。

 それを踏まえて自由にさせている理由は国益に叶う以外にない。

 人民の幸福や倫理も大事な時があるけれど、未来志向においては現在という悪を時には黙認するものだ。だからこそ要人暗殺も含まれていたりする。

 

「痛めつけるのが目的ではない。そして、最も大事な事は()()を可能にする魔法が存在している。恨むなら世界のシステムだ」

「……確かに」

 

 魔法という概念が無ければ再生などで集めたりしない。というか大抵は一つ手に入れるだけで終わってしまう。

 取り返しがつかない事はやりたくない。だから、取り返しがつく方法で(おこな)っている。

 

「一つしか無い宝というものは使わずに放置したままにしがちだ。使えるものを有効利用したほうがいいに決まっている」

 

 理屈としては正しいかもしれない。けれども倫理観に照らせばとても容認できる内容ではない。

 オメガデルタはそれらをもちろん分かっている筈だ。

 そうでなければ天羽(あもう)(かなで)を救うことを自分達が否定しなければならない。

 死者は土に還れ、と。

 そんな事を風鳴(かざなり)(つばさ)は言えるわけがない。

 

「……錬金術師たるオレからすれば等価交換に則した内容でなければ何処かで不具合を生じさせる。それについてはどう思っている?」

 

 大人しくしていたキャロルが尋ねてきた。

 天羽はそういえばこの子誰、と風鳴に小声で尋ね、二人で会議が始まった。

 

第二法則の抜け道は考えてあるのだが……。正直に言えば自信がない。自分がやっている事が本当に正しいかが……」

「無から有を生み出す御業に無償なものなどありはしない」

 

 キャロルの言葉に頷くオメガデルタ。

 

「既にこの世界には不具合ともいうべき事態が起きている。君達には関係ない事だが……。とある強大なモンスターが居てね。我々に牙をむく。それはごく最近のことではなく600年以上も昔から存在していたらしい。私の方法は今のところ彼らの怒りには触れないそうで、安心して実験を続けている」

「はっ? 600年前だと?」

「……キャロルちゃん。難しい話しが出ているけれど……、それって地球の問題じゃないの?」

 

 立花(たちばな)(ひびき)達が住んでいる地球は世界規模で災害が起こっていて、その原因となる『ノイズ』と戦う日々が続いていた。

 その課程でキャロル達とも戦う事になった。

 その時の戦闘と異世界が関連付けられていないかと立花は思った。

 

「同じ宇宙に存在するのであれば無関係とは言えない」

「異世界を渡る方法が確立されればこちらのモンスターが地球に襲来することも考えられる。彼女はその事を危惧している」

 

 理屈としては理解出来る。けれども説明は難しくて分からない。

 それにしてもキャロルの言葉を何の疑いも持たずに切り返すとは、と驚きを感じていた。そして、そのキャロルも何故だか生き生きとした顔でオメガデルタに質問を投げかけている。

 討論できる好敵手を見つけたような雰囲気があった。

 

          

 

 現代人である立花達より魔法文化が浸透している異世界の方がキャロルには合っているのかもしれない。元々中世ヨーロッパをイメージされていると言われているので。

 錬金術師の家系に生まれたキャロルは当時の記憶を保持したまま数百年の時を生きていると言われている。

 

「……あれ、この説明は何処から?」

「ああ、他の奴らが言ってた悪質なモノローグじゃないか。勝手に説明するらしいぜ。個人情報とか」

 

 説明する手間が省けるのでオメガデルタとしては言及したくない問題だった。

 というより彼女達の個人情報を尋ねたら素直に教えてくれるものなのか。

 

「普通は……言いません」

「オレは……記憶喪失気味だ。説明できるのであれば好きにしてくれて構わない」

「じゃ、じゃあ。キャロルちゃんの正式な名前を教えてください」

 

 立花が誰も居ない広い空間に向かって頭を下げつつ言った。

 低姿勢の者に答えないわけにはいかないよね。

 後で君達、バラバラになってくれるなら考えないこともない。

 

「……正しく悪質な奴だ。……どうやら転移者は全て素材になれって事だぜ、きっと……」

「仮に主さんが強引だとどうなるんだ? 殺し合い?」

「魅力があれば強引な手を取ります。しかし、何も予備知識が無ければ人間の素材は……、お腹いっぱいというところです」

 

 それはつまり人間の素材がたくさんある、という意味に聞こえる。

 風鳴と雪音クリスは血の気が引いていったが天羽はなんとなく、そうじゃないかなと思っていたようだ。

 シンフォギアを奪っても使い方を知らなければ意味が無いし、適合者以外は大した事が出来なかった筈だ。

 出来ていればもっと大勢の軍団を用意出来る。それが出来ないから各国がしのぎを削るように研究してきた。

 

「私以外にこういう施設を作ろうなどという奇特な人は今のところ居ません。魅力的ではあるけれど、おぞましいと評判なので」

 

 普通の展開ならば他にも誰か一人二人は居そうなものだ。

 ある程度の技術も伝授している。実際にイビルアイは確実に運用出来ていた。

 


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