ラナークエスト   作:テンパランス

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#152

 act 90 

 

 強引な手ばかりでは利用者がそもそも現れてくれない。

 信用を得る事は大切だ。それを分かり易く説明するならば嘘を出来るだけつかないことと言い訳をしない事だ。

 

「……ああ。そういう理由で正直に何でも教えてくれるのか」

 

 秘匿すべき情報に溢れている筈なのに素直なところが疑問だった。

 オメガデルタの性格も関係しているのかもしれないが、ここまでの規模を維持している手腕は素直に驚愕に値する。

 シンフォギアだけではなく他の者たちも疑問に思えばオメガデルタはきっと出来る限り答えることになる。

 そして、結果を残していく。

 優しい脅迫とも言える。

 

「拒否すれば……。君たちが思う展開になるのか。それとも……」

 

 何度も繰り返される問答。

 天羽は感覚的にだがオメガデルタの性格が分かってきたようで、微笑を絶やさない。その代わり、風鳴はずっと冷や汗をかいていた。

 雪音は何かあっても慌てないように腕を組んだまま何かに耐えていた。

 

「……報酬には対価が必要だ。あんたはきっと……、優しい人だ」

「……途中が抜けている気がするのだが?」

「そうかい? あたしはあんま難しい事は言えないよ」

 

 人から優しいと言われることはよくある。けれども、その本質を理解してくれる者はおそらく少ない。

 それはそれで別にいいと思ってもいる。

 なにせ、これからもっと孤独になる生活が始まるのだから、良い思い出作りには最適だ。

 

 そういう覚悟を持ってもやはり孤独は寂しい。

 

 音の無い世界は()()()人間には生き難い。

 現在活動している者達が居るとしても今はまだ無音のまま。賑やかになるのはまだ数年先の事だ。

 そんな寂しさに比べれば秘密の暴露など安いものだとオメガデルタは思っている。

 

          

 

 ある程度の理解をしている天羽の頬に触れるオメガデルタ。

 肉体は自動人形(オートマトン)だからか、温かみは感じないかもしれない。それでも彼女は逃げなかった。

 

「自分の身体に触れるのと他人の身体に触れるのは違う。だから、憧れたりする。そこは本当に真面目な気持ちだ」

「……そうかい?」

「ここに居るメイド達は元々はモンスターから増やしたものだ。自我が無い状態に命令を与えている。喋る場合は違うメイドさんだから注意するように」

 

 そう言いながら合図を送るとメイドが天羽たちのすぐ近くに出現する。

 

「おわっ」

「メイド服は私の趣味だ。裸でウロウロさせのはいかがなものかと思って暫定的にメイドということにしている。……他に良い呼び方を思いつかなかったし」

「身体をぶった切って増やしたメイドって事か……。何となくイメージ出来るけど……。それ……、本当に出来るものなのか?」

 

 出来ているからメイドが居る。そうであるならば本体が居る筈だ。

 元になった彼女達が。

 それらは今、何処で何をしているのか。

 

「普通のモンスターは人間や冒険者に対して敵対行動を取る。言葉も通じない。そういう生き物となっている。彼女達は己の敵と戦う事だけが至上命令と化していてね」

「食い物とかは?」

「飲食不要の異形種だ。だから何も食べなくてもいい。もちろん、飲食できるモンスターも居る。亜人であれば人間が食材になる。この世界ではごく当たり前の事になっているよ」

「……人間を食べるのか」

「この世界は人間以外も国を作って文明を発達させている。だから、人間だけが特別偉いことにはならない」

 

 何かに気付いた風鳴が天羽の口を塞ぐ。

 それはつまり情報に見合った報酬を取られる恐れがあるからだ。既に手遅れだと思うけれど。

 おそらくオメガデルタは情報を出すことを対価としている。しかも嘘をつかない事を利用しているので、こちらも容赦なく何でも質問してしまう。

 

          

 

 種が分かれば何のことはない。けれども効率的なものだと思い知った。

 いやに色々と教えてくれるなと気にはなっていた。

 腕を治す技術を持っている人間だ。おそらく相当な実力を隠し持ち、そしてそれを最大限使って自分の欲しいものを手に入れる。合法的とも言われてもおかしくないほどに。

 

「……確かに見知らぬ土地では情報は何よりの宝だ。怪しければ気になってしまう」

「一方的に押し付ける気はありませんよ。ちゃんと選択する自由は与えている。……拒否されると強引な手に行きたくなるのは……、(さが)だと思ってます」

「……なかなかどうして。食えない人だ」

 

 天羽は苦笑した。

 言っている事は正しく、また強制しているわけでもない。

 自分達が色々と深読みして慌てているだけにも見える。

 実際にオメガデルタはお願いはしても本当に強制して来る事はなく、素直さが見え隠れしている。

 

「そういえば武器ですが……。そもそも武器として出しているのは貴女達だ。形態変化できるなら武器以外を出すべきだ」

 

 命令を聞いて武器を出した。確かにそれは間違っていない。

 その上で自分達はどこか間違った思考に凝り固まってはいないかと今更になって気付いた。

 

「……武器しか出せない……」

「正論だけど……。確かに言われてみればそうだ」

 

 それから武器は材料に使うと言っていた。兵器転用しないのであればどんな事に使われるのか。それは聞きたいところだ。

 より詳細な情報として。

 

「意地悪を言うつもりは無い。分かりやすい言葉で言えば宇宙船を作る事と維持管理の役に立てたいと思っている」

「宇宙船?」

「大抵は武器転用にしか使われない新技術を有効的に使ってみよう、という発想からだ。君達の能力は結局のところ空の上に適用出来るものなのか?」

 

 条件次第では宇宙に行ける。

 だがそれは装者にしか扱えない代物だ。一般に普及する予定も計画も聞いていないし、そんな発想はそもそもしていない。

 困っている人が居たら助ける。あくまで人命救助に限定されている。

 


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