ラナークエスト 作:テンパランス
時間稼ぎをしない方法を選んでくれる事にオメガデルタとしてはありがたい事だと思った。
こんな説明を他の者にもしなければならなくなるし、その分もちろん時間がかかる。
「絶対に全員でなければならない理由は無いのだが……。個性ごととなればサンプルは多いにこしたことがない」
「もし……、あんたが敵なら戦うしかないけれど……。他の悪党とは違って細かく説明してもらっているところはなんかスゲーって思うよ」
「よくある『お前たちに説明する気はない』とか『何も知らないくせに』とかご大層な言葉が全然無いもんな」
「……言ってもいいけど……、事態がただ面倒臭い事になるだけなんで……」
要望されれば言えなくはない。
じゃあ強引な手でさっさと自分の欲求を満たせばいいじゃん、という話しになれば彼女達との対話が成立しなくなる。
その理由の一つはやはり『マグヌム・オプス』を戦場にしたくないからだ。
目的を達成した後で廃墟を目の前にするのは御免被りたい。
「戦闘は避けられないか……」
「特殊な力で創造された施設じゃないからね」
おそらく立花が天井を殴れば壊れるし、風鳴が壁を切ればちゃんとバラバラに崩れ落ちるし、雪音のミサイルを受ければ壁は木っ端微塵。
「じゃあ……。ここを壊されたくなければ……。ああ、それだと目的は果たせなくなるだけか……」
「交渉するのが最善の方法か……。なるほど」
今まで戦ってばかりだったので、いざ説明を受けると色々と疑ってしまう。
細かい説明をいつも自分達は要求している筈だ。それを自分たち自身で破る事になるのは筋違いもいい所だ。
だからといって身体をバラバラにしていい理由にはならない。だが、この方法でオメガデルタはおそらくたくさんの人間やモンスターをバラバラにして手に入れてきた、と思われる。
もちろんオリジナルは無事に帰して。
この施設にあるのは増やしたものだけ。
「普通の方法では複製は作りにくい。それは錬金術とて同じこと。おそらくそれを可能にする力をお前は持っているのだな。我々の知らない技術で……」
「持っているというか……。見つけた、というのが正しい。実際、こんな事をしているのは私だけだ。方法が物騒でえげつないと評判なので誰も後追いが居ない。種が分かればなんてことはない」
簡単に言っているが本当に容易い方法だとはキャロルは思わない。
自身の技術でもかなり高度な方法であるのは身に染みて理解している。それを容易く出来る方法など聞いた事は無い。
† ● †
長話しに付き合っているが当初の目的は立花の腕の治療だ。
その方法の過程で色々と聞かされる羽目になった。それは何故か。
タダでやってもらおうとしているからだ。
風鳴は黙って椅子から下りて土下座の格好になった。次いで雪音も同様に。
「……立花のこと、よろしくお願いしたい」
「他に変形してほしいなら色々と頑張るぜ」
仲間の為ならば頭を下げることなど造作もない。けれども身体をバラバラにされるのは正直に言えば勘弁願いたい案件だ。
先ほどの武器で容赦してほしい旨を伝えてみる。
「オレのファウストローブも付けてやろう。人体切断はそう簡単に了承など出来ない」
「……案外麻酔処置すれば出来る気が……」
薄く笑いつつ立花は言った。
オメガデルタの言葉だけでは物騒だが、実際はそんなに痛い思いをさせないのではないかと思っている。
事実、天羽を苦しめたという話しは出ていないし、当人も平然としている。
何もされなかった、というのは信じられないのだが。
「それにみんなが思っているようなひどい結果なら国とか色んな人が抗議とかしませんかね?」
「痛みに強い人種かもしれないぞ」
「腕を切り落として平気って人間なんか見たことねーぞ」
「肉体を再生するほどの治癒魔法なら……。最初の段階で躊躇いますね」
「もちろん、切断方法も簡単そうで出来る人は少ないです。ここに居るモンスター達は自我が無いので平気なだけで、実際は繊細に作業しますよ。そこはちゃんと気配りします」
敵なら問答無用で斬り殺しますけど、とオメガデルタは不敵な笑みを浮かべつつ言った。
それはファンタジーでは特別な事ではなく、日常的であるとも言える。
問題は人体の解体と再生だ。
そもそもどうして肉体が必要なのか。そこから説明をすべきかな、とオメガデルタは思った。
もちろん、後で貰える、という確約でもあれば物凄く細かい説明をする自信がある。
† ● †
そういう説明を他の人間達にもしなければならないと思うとひたすらに徒労だと思うし感じる。
とはいえ、何ごとも説明は必要だ。
せっかく変身してくれた天羽に武器の説明をお願いした。
まず初歩的な事として分かる範囲でアームドギアの使用方法と用途、武器の出し方など。
それらを事細かにメモしていく。もちろん守秘義務に当たるところは無理に聞き出さない。
「この槍の強度はどの程度なのですか?」
最初はガントレット状態だったものを二つ合わせる事により、融合して形状を変化させる。それから大きな槍になるのだが、そのメカニズムがさっぱり分からない。
感覚的に使用している天羽も説明できないという。
「……適合係数が足りない場合は……、確かボロボロになってたな。まあ、そんなに強固な武器じゃないみたいだ」
「……確かに散弾のように無数に増やして放ったりするけど……。あれ、どうやってるんだだろうな……」
「翼さんの剣も巨大化しますし……」
とにかく、四人とも訳もわからずに武器を使っている、というのは理解した。
それでいいのかと本人達も自覚しているようなので無理に詳細は聞かない。
「そういや、無闇に撃ちまくったら辺りに残るはずだよな? あれって、変身を解除すると全部消えるんだっけ?」
消えなければ秘密組織とかが回収して分析にかけられるはずだ。そうなれば無理に装者から奪う必要は無い。
単純に敵性体『ノイズ』と戦ってもらえばいいだけだ。
それとも自分達の組織の人間が秘密裏に回収しているのかもしれない。その辺りは立花達には窺い知れない。
「こういうのは一般人相手に使わないから……。あと、触る分には大丈夫の筈だ」
「気合を入れると巨大化したり、莫大なエネギーを生んだり……。改めてシンフォギアって凄いですよね」
「必殺技名とかありますか?」
「その場のノリで言う事はあるけど、基本的には言わないな」
風鳴達が話している間、単純作業のように天羽が武器を出してはメイド達が床に並べていく。
雪音以外は武器はほぼ各人一つずつしか持っていない。