ラナークエスト 作:テンパランス
不気味な沈黙が降りる中、立花は苦笑気味に話しを理解しようと務めた。けれども事態が悪化している以外に理解が及ばない。
目の前で椅子に座っているだけのオメガデルタはずっと話し続けている以外で何もしてこないのに。
異様な存在感だけを振り撒いている。
「……ふう。ヴァリオ~ス、シュルシャガナ、トロ~ン」
何かを決意した月読が
椅子に座ったままの変身なのでポーズなどは無し。
桃色と黒を基調とするアームドギア。手に持ったヨーヨーと鋸のような相手を切り刻むタイプの攻撃を主体としている。
暁とのユニゾンで様々な形態変化も起こす事が出来る。
「……それ、どこからの情報なのかしら?」
少なくとも自分達の武器の情報は僅かしか出していない筈だし、この世界で変身したのは今日が初めてだ。
「おわっ、し、調!? きゅ、急にどうしたんデスか!?」
「ちょっと……、息苦しくなっただけ」
そして、淡々と歌い始める。
目蓋を閉じて精神を集中するように。
「私の場合はガングニールバージョンとアガートラームバージョンがあるのだけど……。立花さん、変身しないのであれば
「えっ!? マリアさんもですか?」
「顔を付き合わせたまま答えの出ない問答はちょっと……ね」
「あんたが敵ならあたしらは遠慮しないんだけど……。何でかね……。お互いの情報のやり取りはちゃんと済んでいるんだよね。びっくりするほど穏便に」
それに治療を盾に取っていない。
もげた腕の治療も済ませている。
だが、そうだとしても一方的に何でもかんでも提供するのは違う。それは分かっている。
魔法につい興味を持って調子に乗っただけだ。
† ● †
マリアまで歌いだしそうな雰囲気の中、オメガデルタの側にメイドが現われる。
小声で何事か話しかけているようだが、その内容を聞こうとする不届きな女の子は居なかった。
「……外壁の修復に時間がかかりまして……」
「隕石か?」
「……いえ、ただ、巨大な建造物としか……」
オメガデルタは何度か小首を傾げつつ話しの内容に対して激高する事無く聞き入っていた。
月の近くに停泊している『
新たな素体の用意は出来ていたが、緊急の為に時間が今までかかっていたと報告する。
「転移者といい、謎のイベントといい。急に賑やかになってきたな」
ここ数年間は静かだったのに、と不満を
地上のゴタゴタは魔導国の面々に委ねて隠居生活を送っていたので、急な切り替えが出来ていない。
「まずは床の武器を回収し、戻る」
「……畏まりました」
と言った後でメイドが手を叩く合図をすると新たなメイドがまた一人現れる。そして、手際よく用意した小さな皮袋に床に並べてあったアームドギアを次々と放り込む。
物理的に入るはずのない袋に何故か治まっていく。その様子に風鳴達はただただあ然とし、興味深く見入った。
その間に最初のメイドは懐から魔法のスクロールを取り出す。
「〈
魔法の効果が発動すると同時期にオメガデルタは機能を停止した。それと近くに置いてあったアームドギアの一部が光りの粒子となった。
保存の効果が無効化されたためだと思われる。
天羽も効果範囲に居たが、身体的な異常は起きなかった。
それらを確認した後、メイドは懐からメモ用紙を取り出して結果を書き記す。
「では、皆様。失礼致しました」
一礼した後、メイドの姿が掻き消えた。