ラナークエスト 作:テンパランス
ほぼ全員の注目を浴びる立花。
それからオメガデルタを含む全員が揃って叫んだ。
「はぁ!?」
「そういえば、そんな話しがあったな」
「待て待て立花!? なんだその話しは!?」
「お前、その話し本当なのか?」
質問攻めに遭う立花。
マリア達は眉根を寄せて睨みつけるのみだ。
オメガデルタは手を叩いてメイドを呼びつけ、場の整理を命令する。更に新たなメイドが現れて椅子や食事の用意が粛々と整えられていく。
人数の増加は各メイドの判断で
「元の世界に戻る話しは私も初耳だな。ここに結構長く住んでいるが……、そのような方法は誰も持っていなかった」
興味津々に獲物を狙うように身を乗り出すオメガデルタ。
「いやあの……。自分がラスボスだ、と言っている人が居ましてね。その人に聞いた方が早いと思います。宿舎に居る神崎って人なんですけど……」
一応、責任者でもあるオメガデルタは利用者の名簿くらいは持っている。というか呼ぶ時に困るので氏名はちゃんと集めてある。
「……まず立花さん」
「は、はい」
オメガデルタの静かな言葉に居住まいを正す立花。
「この世界に転移者が現れて600年以上経つ。その歴史を君はここ数日で塗り替える気か?」
「私に責任が!?」
もちろん立花に責任は無い。戻れる方法を持つと言った者が負うべきだ。それは分かっている。
長い歴史を持つ世界に対し、降って沸いた秘策はあまりにも荒唐無稽だ。
魔法文化を持ってさえ困難な問題であるというのに。
「私でさえ方法を模索するのに数年を擁し、数万年の旅になるかどうかの計画を立てている。それを数日で解決できる方法があると?」
「それはまだ……何とも言えないんですけど……」
言った本人に聞かなければ分からない問題だ。もちろんでまかせかもしれない。確認していないので。
言葉の端々に出た神様とやらが本当に居るかもしれないし、信じたい気持ちもあった。
というか今頃になって帰還の方法を持つ者が現れるのはオメガデルタにとっては寝耳に水。都合が良すぎるし、今までの冒険の経験上では中途半端すぎるのも否めない。
† ● †
急な話しの展開に驚きつつ早速当人を呼ぶのは早計だ。目の前の獲物を逃がす事になる。
オメガデルタは冷静に思考し、優先順位を取捨選択する。
新たな転移者は色々と情報を持っている。それは理解した。
「……意外な展開で驚いたが……、それでもやはり都合のいい方法は検証しなければならない。つまり……、君達は逃がさないということだ」
にんまりと笑うのだが、クレマンティーヌの表情は立花達の顔を青くするほどの怖さがあったようだ。自分の顔を常に確認出来ないオメガデルタとしては表情の実感は無い。
後で鏡を見て自分で怖がったり驚いたりするかもしれないと思った。
「……え~」
不満の声が漏れるが仕方ない。むしろ率先して是非どうぞ、と言ってくる勇者が居れば逆にたじろぐ。
「とはいえ、君達の想像では意識ある中での拷問だろう。作業自体は淡々としているし、叫び声はうるさいので、そこは静かにやるよ。先にも言ったと思うけど、手術と一緒」
麻酔をかけている間に全てを終わらせる。
言葉による恐怖が先にあると躊躇いが生まれる。だから事態が中々進展しない。けれども説明する事は大事だと思っているので隠さずに話していた。
「もちろんすんなりと許可はしないと思う。だけれど……、強引な手を使うと魔法の効きが悪くなる。事前にある程度の覚悟を持ってもらう方が都合がいいのさ」
他の客人は問答無用になると思うけれど。
「……物騒すぎて許可する方がどうかしてる」
「うむ。身体を寄越せと言われて素直に従えるものか」
風鳴と雪音は眉根を寄せるが他は目蓋を閉じて黙っていた。
物騒な話題に混じりたくなかったので。
キャロルは熱心に聞き耳を立てて、立花は場が荒れないように祈っていた。
「あたしらが拒否すれば強引な手法を取る。結局、あんたは欲しいものの為なら手間は惜しまない、そういう人だと思う」
「壮大な計画を頓挫させるわけにはいかない。かといって犠牲を増やすのも勿体ない。その辺りの匙加減がどうも苦手でね」
方法はある。それが良い事か悪い事かの違いだけだ。
例えば能力者達に協力を仰いだとしても彼らにも都合があり、遅々として計画が進まない。けれども身体の搾取はオメガデルタの一存で進める事が出来る。
目的達成までは誰も手を止める事が無い。
† ● †
もし、立花たちに協力を仰いだ場合、確実に彼女達は寿命の問題で朽ちる。または元の世界に帰ってしまう。
それを防ぐには彼女達を手に入れるか、何もかも全て頓挫させるか、だ。
諦める事はオメガデルタにとっては死ぬことと同義。それ以上かもしれない。
面白くない事はやりたくない。
だから面白くない人生は送る必要性を無くし、無為に時間が消費されるだけとなってしまう。それはとても残念なことであり、勿体ない事だ。
お互いにメリットがある方法が存在するのに手放す理由があるものか、と
「あんたが今のように正直に説明するから、この施設が今まで潰されずに存在しえたんだ」
天羽は一人納得する。
それでも詳しい理由は未だに想像が付かないけれど、なんとなくは理解出来た。
方法は危険だけれど決して恐怖一辺倒ではない。
「……同じ転移者として……、つい興が乗ってしまった……。珍しいアイテムがあると手にとって調べたくなるものだ」
欲しいものの為ならば手段は選ばない主義であった。その筈なのに何をしているのか、とオメガデルタは苦笑を滲ませつつ反省する。
変身に気を取られすぎて余計な説明を始めてしまったのが原因だ。
「……もとより献体は多いに越したことはない。不確定の希望より確実な前進を……」
献体は風鳴達だけではなく、宿舎に居る全員である。それに気付いた風鳴達は身構え、目の前の敵を倒すべきかどうか、それが正しいのかどうかと様々な事柄が脳裏を過ぎる。
既にアームドギアの一部は譲渡されている。それ以上の報酬を与える必要はおそらく無い。けれども欲深い人間の考えることなので、物質だけで満足するとは思えない。
抵抗すると施設の破壊に繋がる。
「まあまあ、武器を下ろしなよ。穏便に事を進めようとしている相手だぜ」
「……それは……分かっているのだが……」
「この世界には人智を超えた魔法があるのでしょう? それを使えば不可能な事は無いかもしれない」
紅茶を飲みつつマリアが言った。
表面上では落ち着いているのだが、内面はとても怖いと思っている。それを相手に悟らせないように細心の注意を払っていた。
自分達が居るのは
逃走しようと思ってもメイド達が瞬間移動で現われる。階段まで結構な距離がある。
様々な点で逃走が難しい事は理解した。その上で、この部屋はどうにも質素すぎて怖い。
隠し様のない白い世界。それは相手方にも言えるし、自分達にも適用される。