ラナークエスト   作:テンパランス

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#164

 act 102 

 

 キャロルをまず優先的に調べ上げる。特に体内に何か隠し持っていないか、自爆機構などが無いか、など。

 それから手を縛り、吊るし上げる。けれども、地下二階とはいえ天井までは高い。

 その為に中空に小さな物体を多数浮かせてあり、物を載せたり、吊るしたりできるようにしてある。

 多少痛くて苦しいのは我慢してもらうが、後は何が起きても我慢しないように伝えた。

 

「問題点があるとすれば……、せっかく集めても本体が死ぬと台無しになる。君達は出来る限り長生きしてくれよ」

「………」

「記憶を消すような真似はしない。元の世界に戻れるよう、私も影ながら祈っているよ」

 

 その言葉の後で地獄が開幕する。

 一瞬の苦痛、激痛かもしれない事が断続的に襲ってくる。

 下手な拷問よりもなお強烈な嫌悪感。それが永遠に思える回数やってくる。

 自らの身体の問題が無ければもっと楽になれた筈だ。そこは如何ともし難い。

 作業に近い行為が終わったのは外では真夜中になる時間帯。

 痛みは早々に消されたが、痛烈な衝撃の記憶はしばらく続いた。とても口に出して説明できるようなものではない。それははっきりと理解した。

 翌朝、キャロルは宿舎の自分の部屋で目覚めた。

 魔法による効果を無効化しても睡眠自体は取れる。だから、極度の精神的疲労から眠っていたようだ。

 それはそれで良かったのか、悪かったのかは判断出来ないが自分は生きている。それだけははっきりと理解出来た。

 

「………。……生きているのか……、オレは……」

 

 視覚に問題は無い。手足もある。自分の意思で動かせる。

 上体を起こす。痛みは無い。そこまでは何とか把握した。

 

「……奇跡が何度もあっては身が持たん」

 

 言葉だけだと想像通りの拷問と変わらない。けれども実際は違った。

 もっと凶悪な何かだ。

 視界を塞ぐことで実情の隠蔽を図れば目覚めた自分達に詳細な情報は何も言えない。

 単純な方法で最大限の効果を発揮する。そして、それを可能にするだけの実力者である事は認めざるを得ない。

 

「……五体満足。これが真実か……。……そんなわけがあるか。あれは夢幻ではない。決してっ!

 

 いとも簡単に装者達を手玉に取る相手だ。

 自分達は敵に回してはいけない相手と対峙した。

 

          

 

 寝不足気味のような顔色の悪さのまま宿舎内にある食堂に向かうとたくさんの人間達の姿があった。

 その中に立花達の姿を確認する。

 彼女達は早期に精神支配を受けた事で現場の状況はおそらく覚えていない。だから、あんなに笑っていられる。

 懸案だった立花の腕はちゃんと再生していた。それを皆で喜びあっている最中というところだった。

 

「……本当に腕が生えてくるとな。魔法はやっぱスゲーな」

「痛みは無いし、感覚的にも違和感はありませんよ」

「……色々と物騒な話しがあったと思うのだけれど……。あの後……誰も覚えていないのよね」

 

 そんな話しを聞きつつ立花達の近くにあった空いている椅子に座るキャロル。

 覚えていないのは眠らされたせいだ。

 麻酔手術と同じであれば何が起きたかは覚えていなくて当然だし、激痛を感じなかったところでいえばオメガデルタは本当に拷問を加える意図が無かったと言える。

 残念ながら効果の及ばなかったキャロルはしっかりと痛みを覚えている。それはおそらくわざとではなく、どうしようもない理由からだ。

 

「あっ、キャロルちゃん。おはよう」

「………」

 

 元気に挨拶する立花に睨みつけるような険しい視線を送るキャロル。

 唸り気味で返答したが、昨日の衝撃がまだ抜けきらない為にどう対応していいのか分からなかった。

 

「……お前たちが納得しているのであれば……、オレは……それを喜ばなければ……」

「物凄い怖い顔して……、どうしたの?」

「……気にするな。元々こういう顔だ」

 

 平然としている立花達。もし、意識があれば笑顔になどなれるわけがない。それ程の事があったはずだ。

 

「またあの施設に行くのか? 正直……、あそこは危険だ」

「鍛錬を積んで倒さなければならない相手が居ますし……。今のまま居続けても……」

 

 元の世界に戻るのが転移者の目下の目的だ。黙っていても変化は生まれない。

 それは頭では分かっている。

 それらを人質に取られている気がする。

 

          

 

 結局キャロルは飲み物だけで朝食を済ませ、施設の外に出た。

 新鮮な空気を吸い、精神を落ち着かせる為に。

 外は平穏で平和なのに地下はとてもおぞましい実験施設だ。

 各国がもし真実を知った上で見逃しているのならば、それは有益だと判断した。そうでなければオメガデルタに太刀打ちできない事を認める事になる。そんなバカな事があるわけがない。

 人の手で造られた施設なら外部から破壊すればいい。本人もそう言っていた。

 

「……本当に何なんだ、この世界は……」

 

 キャロルがブツブツ様々なことをつぶやいているところに水色の長い髪が特徴的な人物が近付く。

 女神を自称するアクアだった。

 

「怖い顔してどうしたの?」

「……お前たちは地下に降りたのか?」

 

 質問を質問で返されて眉根を寄せるアクア。しかし、女神なので腹は立てない。ただ不機嫌になるだけ。

 

「まだよ。……何? すっごいお宝でもあった?」

 

 宝。その言葉で適切なものと言えば人材。

 オメガデルタにとって人的資源こそが宝だ。良く分からないアイテムなどではなく。

 それを収集する為の広い施設。

 その全貌を見た時、自分は果たして正気を保てるのか、とキャロルは戦慄しつつも平静を装おうと必至に務めた。けれども自然と震える身体は止められる自信が無い。

 規模が桁違いだ。確認したわけでは無いのに、そう思えてしまう。

 

「いや、その真実を知ってなお利用する者達は……何なんだ?」

 

 あの怪人(オメガデルタ)の所業を許容する現地民は頭がおかしいのではないか。それとも自分達の方がおかしいのか。

 起きたばかりで頭の中を整理するのに時間がかかる。

 そんなキャロルの苦悩を珍しそうにアクアは眺めた。

 

「降りる時は気をつけろ。……むしろ……」

 

 女神をどう扱うのか気になる。

 錬金術において等価交換の原則は必定。その上で研究者としても気になるのは事実だ。

 オメガデルタとは何者なのか。そして、何を研究し、何を造っているのか。

 言葉だけでは分からない真実というものを知りたくなった。

 


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