ラナークエスト   作:テンパランス

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#165

 act 103 

 

 自分は既に時代から退場した。それでもまだ現世に留まっている。

 未練は無いと思っていたが、別の世界ではまた違った様相を呈しているようだ。

 キャロルは自分が生み出した『エルフナイン(ホムンクルス)』の事を思い出す。

 今頃何をしているのか、立花達の組織の一員となり、転移した者達の捜索に奔走しているのか。

 

「……情報は完全に断たれているから……。しかし、全くもって困った事態だ」

 

 一時は父への(とむら)いの為に復讐を企てていた自分が生に固執しようとしている。

 研究欲が再燃したようだ。それはかつて錬金術師として生活していた時代にあったかつての自分の熱い思いと似てはいないか。

 

「……焼却により消えた筈の残滓か? それが奇跡だというのならば……」

 

 その記憶を今一度消すのか。

 いや、目的は達し、解答を得た今は逆に祝福すべきだ。

 

「……独り言が多いのね、キャロルは」

「……ふむ。感傷に浸る権利くらいあるだろう」

「さっきの小難しい顔から随分と変わっちゃって……。何かいい事でもあった?」

 

 優しい問いかけのアクアに対し、キャロルは自身が笑っている事を自覚する。

 あまりに物騒な展開で感情までおかしくなったようだ。

 

「それより……、下に行く時は気をつけろ。この世の常識がお前の敵となる」

「はっ? このアクア様を驚かせるほどのものがあるっていうの?」

「自分で確かめるんだな。……ただ、その奇跡はお前たちにとって有益にも害悪にもなる。言葉は慎重に選ぶといい」

 

 キャロルはそう言って頭を冷やすために宿舎の風呂場に向かった。

 一人残されたアクアは口を尖らせていたが、キャロルが少しだけでも元気になれたようで安心した。

 

女神の祝福がキャロルに訪れますように……」

 

 それはそれとして地下施設に顔を向ける。

 この『マグヌム・オプス』に来た時から不穏な空気は感じていた。

 生きて出られない事は無いようだけれど、一体何があるのか気になる。けれども立ち入るのは危険だと身体が警告している。

 

          

 

 それぞれが朝食を終える頃に地下で鍛錬と称してモンスターを殺しまくっていたラナー達が這い上がってきた。

 既に身奇麗にされているので戦闘の後は微塵も無い。それどころか戦闘してきた記憶すらないのではないかというくらいだ。

 

「……一日いっぱいの鍛錬なのに何もしていない気がする……」

「変に自覚してしまうと作業に支障が生じるからですわ。確実に経験は積み重なっていると思いますので……。レベルアップが楽しみですわ」

 

 にこりと微笑む第三王女。何事にも前向きで不安な側面を一切見せない。その点ではチームの中で一番強靭な心を持っているといえる。

 そんな彼女とは裏腹に楽しみというか、どんな職業(クラス)構成になるのかレイナースは心配だった。

 勝手な事はされないのは分かるのだが、感覚が伴わないと不安で仕方が無い。もちろん、アルシェやクルシュにも言える事だが。

 

「……ナーベラル・ガンマは結局、我々から脱退するつもりなのか?」

「命令があればまた来て下さると思います。あの方達は主の命令でしか動けないようですから」

 

 そんな事を話しつつ宿舎に向かう『黄金の仔山羊』の面々。

 殆ど活躍していないのでチーム名を覚えている者はきっと少ない。

 

「……まともに仕事をしていないからな」

昇進試験もしていませんわね」

レベルが低いから出来なかっただけだ」

 

 一見すると和やかな雰囲気なのだが通ってきた道は歴戦の戦士に引けを取らない。

 討伐モンスター数は数百匹。

 彼女達のレベル帯が低いせいもあるけれど、それでも世間一般の冒険者からみれば多い。

 今は経験値のみ蓄えられているが適切な職業(クラス)に割り当てればミスリル級レベルに到達できるほど。

 

「……仕事をせずにアダマンタイト級というのは卑怯な気がする」

「自然界の生活だけで強くなる事がいかに難しいか……。けれども強くならなければあっさり死ぬだけですわ。魔法も黙って待っているだけで覚えられれば苦労はしませんし」

「……強大な魔法を簡単に扱えるとして……、それで世界の覇者になれるものでしょうか?」

 

 そもそも簡単に増強できて世界を取れるならば誰もが覇者になれる。

 それはそれでありがたみが無い。

 強さ以外の要素も覇者には必要な筈だ。そう思うのだが、それが何かはラナー達には窺い知れない。

 手に入れた力を十全に扱う事がとても建設的ではないかと思える。

 


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