ラナークエスト   作:テンパランス

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#167

 act 105 

 

 見た目は大人びているが中身は幼い少女と変わらない鈴怜。

 けれども一度(ひとたび)怒れば赤龍でも手に負えなくなる。それは比喩ではなく、実力的な問題だ。

 神崎家は()()()皆力が強い。

 その中でも兄は別格だが、長女の鈴も相当な実力者である。華奢な見た目には強そうに見えない。むしろ、気難しいおばさんといったところ。

 想い人が()()居るらしいが付き合いは普通。

 

「……私も歳ですから……」

「……姉ちゃんはまだまだ現役で戦えるよ」

 

 弟の言葉に苦笑を見せた後、兄の邪魔にならない位置まで引き下がっていく。

 つい数年前まで一緒だった長男との再会は涙がこぼれるほど嬉しかった。けれども、それは非常識の中での出会いだ。だから素直に喜ぶのはすぐにやめた。

 仕草や声。過去の記憶はちゃんと持っているのだが白髪なのが残念な点だ。

 全盛期の龍緋は赤龍と同じく赤黒い髪。長い闘病生活ではなく、不可思議な事件に巻き込まれたせいで白髪になってしまった。

 どうせならそこを改善してくれればいいのに、とこの場に居ない()()()()()に苦言を呈する。

 

拳法が主体か」

DVDで勉強した程度ですけど。よろしくお願いします」

 

 動き易い質素な服装で構えを取る立花。

 変身しない状態ではどうあっても勝てそうにないが、それでも相手の技を見る上では有意義である。

 対する龍緋は身体に張り付くような黒い服装ではあるけれど、特徴的な防具は身につけていない。

 拳を突き出す響に対し、簡単に片手で受け止める龍緋。

 手数を増やしても決定打が与えられない。

 

「身体が揃っていると動きが安定しているね」

「お世話をお掛けしました。でも、行きます」

 

 気合を入れつつ蹴りを繰り出す。

 身体にはいくつか当たっている。けれども硬いゴムに当てているような感触で驚く。

 見た目には筋肉がついているようには見えないのに。

 

          

 

 一時間経過した後、一旦小休止する。

 その後、シンフォギアをまとって特訓を再開する。しかし、変身したのに訓練の光景が変身前と全くと言っていいほど変わらない。

 力、速度は格段に上がっている筈なのに。

 

「あなたは特別な力とか持っているんですか?」

「……う~ん、そんな事はないと思うけれど……。確かに人から化け物とはよく言われる」

 

 苦笑気味に答える龍緋。

 自分がどうして強いのか。そんな事を普段は考えないのだが、周りはそれをよく疑問に思っている。

 特別な訓練はもちろんしていない。

 生まれ持った力としか言えない。だから、正確な情報は持ち合わせていない。

 彼の父親も腕に自信のある人間だが、龍緋のような化け物じみたものは持っていない。

 何故、と聞かれて答えられる者はおそらく神様くらいだ。

 

「はっ! はっ!」

 

 左右テンポ良く拳を突き出し、少し強めの蹴りを繰り出す。

 どれくらいの強さまで耐えられるか分からないけれど、少しずつ速さと強さを上げていく。

 戦車の砲弾を拳を弾き飛ばす攻撃をどう見ても人間である龍緋がどうして簡単に受け止められるのか。

 不安を感じつつも気合を入れた蹴りを放つ。

 

「なかなか強い攻撃だね」

 

 いや、強いとかじゃなくて。と、立花は驚愕する。

 安定した体勢からの一撃を人間が受け止め切れる筈が無い。それなのに未だに一歩後退させる事が出来ない。

 

「やあっ!」

 

 と、言いつつ腕部に内蔵されているパワージャッキが唸り声を上げ、変形していく。

 少し大きくなった腕から繰り出される一撃は大岩を粉砕する。だが、それでもなお龍緋は肉体のみで受けきった。

 

「え、ええっ!? さすがに今のは……」

 

 骨折してもおかしくない腰の入った一撃だ。その自信もあった。

 更に身体にひねりを加えて左拳を打ち出す。それを龍緋は内側から力ずくで弾く。

 人間の力にシンフォギアが負けた。

 普通に考えてもおかしい。そう胸の内で絶叫する立花。

 この男を本当に打倒できるのか不安が増えるばかりだ。

 


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