ラナークエスト   作:テンパランス

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#169

 act 107 

 

 攻撃としては単なる回し蹴り。

 その一撃を受けた瞬間に腕が粉砕されたかと錯覚する立花。

 人間に対して無敵を誇る筈のシンフォギアは確かに砕けはしなかった。けれども吹き飛ばされる衝撃を確かに受けた。

 声無き悲鳴の後に地面に倒れ伏す。その距離、十メートルを超える。

 

「……かっ、うぁ……。い、今のは……」

 

 耳鳴りのようなものが頭に響いている。それだけ衝撃が大きかった証拠だ。

 鈍痛が腕から全身へと広がる。

 

「無事かい?」

「え……、はい。何とか……」

 

 見物人である風鳴も驚いていた。

 天羽は口笛を吹く。

 マリア達も拳を強く握り締めていた。

 堅牢なアームドギアを人間が吹き飛ばすのはなかなか拝めない光景だ。

 

「……この人」

 

 強い。

 立花ははっきりと感じ取った。

 爆裂魔法を無効化するような不思議な能力とは関係なしに。

 神崎龍緋は本物の武人であると。

 もう一度、防御の構えを見せる立花。少しでも彼の攻撃に耐え、攻め手の為に何が出来るのか見極めなければならない。

 

「もう一度、お願いします」

「やせ我慢は危険だぞ」

 

 と、遠くから声をかける赤龍。

 強固な鎧を身につけても吹き飛ばされたのだから心配になってしまうのは仕方が無い。

 それでも兄が化け物なのは今に始まった事ではない。

 女の子に味方をしても(ばち)は当たらないはずだ。

 

「最終手段として我々が兄様を撃滅いたします。それまで皆様は思う存分に力を奮われますように……」

 

 長女の言葉に龍緋は苦笑し、それ以外は唖然とした。

 今までのやり取りを見て(なお)動じない女性は何者なのか、と。

 

          

 

 火葬した筈の兄との再会はそれほどの驚きは無かった。厄介な神様ならばありえない事はないと心の何処かで思っていた。

 それでも現実に当人に会うと言葉を失う。

 

「兄様もあまり手加減されないように」

「……本気を出すと殺しそうだがな。それとも鈴が最終的な私の敵となるのか?」

 

 殺す、という言葉で立花と他の仲間達が身構える。それに対して龍緋は面白そうに微笑しつつ顔を妹に向ける。

 

「……さすがにそれは無理かと。事務仕事で随分と身体が(なま)ってますからね。せいぜい手足の一本も折れればいい方だと思います」

 

 兄の言葉に一切引けを取らない鈴という女性。

 歳は既に兄よりも十は上回っているけれど、それでもやはり自分の兄は龍緋ただ一人。

 

「君達の味方が随分と増えて私はより不利になった。……ラスボスも大変だ」

「……はい」

 

 生返事しか出来ない立花。今、物凄い事が起きたはずなのにどう対処し、どう答えればいいのか分からない。

 頭で答えが出せないなら身体で答えるしかない。

 両手を打ち合わせ、ガントレットを大きく変形させる。そして、両腕両足に内蔵されたギミックが激しく回転を始める。

 相手の蹴りは強烈だ。それをパワーで相殺する。

 実際はそんなに単純な方法で対処は出来ないと思うけれど、とにかくやってみるの精神で構えた。

 

イグナイトモジュール抜剣(ばっけん)っ!」

『ダインスレイブ』

 

 白と黄色のアームドギアが漆黒に染まる。

 この機能は性格も闇に染めるものではないが、強制的に暴走状態を演出するので使用者の肉体などに多大な負担を強いる。

 爆発的な能力と引き換えに残り時間カウントされ始める。

 

「あのバカ……。頭に血が上ったのか」

「……それだけの相手だと認めたのだろう」

「がんばるデス~」

 

 分析したり、応援する声が周りから聞こえてくる。

 それにいちいち答えられないが立花は微笑によって答える。

 龍緋は今は()()鍛錬の時間の筈なのに最終決戦の(てい)を成している事に苦笑を滲ませる。

 彼女達に取ってみれば倒せる可能性がある内に様々な手を見せようとでも思っているのか。

 

          

 

 何にしても立花の準備は整った。それに龍緋はただ応えるだけだ。

 単調な攻撃だけだが、実際の戦闘はもっとスピーディーだ。いちいち相手の出方を窺うのは隙だらけとしか言いようがない。

 龍緋の戦闘は我流である。決まった型など無い。

 本能に従った攻撃手段ゆえに粗が多く、とても人に教えられるものではない。けれども、それゆえに対処が難しい。

 動きを読めば対策出来そうだが、そこは常識外れのお兄ちゃん

 物理法則を無視した化け物と評判である。

 それに輪をかけたのが今の状態だ。本来の龍緋を更にパワーアップさせたような状態と人間代表の彼女達は相手をしなければならない。

 一見すると完全防御の立花に軽装の男性が立ち向かう。それがどれほど馬鹿げた光景かは口に出すのも(はばか)られる。

 滑稽さに笑うのは当たり前としても戦闘する立花は至って真面目で真剣だ。

 

「覚悟はいいかい?」

「いつでもどうぞっ!」

 

 一拍の沈黙の後に先ほどのような回転を加えた回し蹴りが飛んで来る。

 

 そう思っていた。

 

 龍緋はいきなり攻撃する事をあえてせず、更にもう一回回転してから遠心力を乗せた蹴りを叩き込む。

 ほんの一瞬の出来事だが、先ほどよりも強烈な一撃が立花の腕に加えられる。

 龍緋としては現場からあまり飛び跳ねずにその場で出来る攻撃を色々と考えていたので、今の攻撃が最大だとは思っていない。

 彼にとっては()()鍛錬の範疇だ。

 

「……ぐっ!」

 

 身体的な能力が上がった筈なのに先ほどよりも強い衝撃が加えられる。

 だが、地面を少し削りつつも五十センチメートルの移動程度で耐え切った。しかし、腕は大きく震えている。

 

「凄いすごい」

 

 素直に誉めるのは龍緋。

 先ほどよりも吹き飛ぶと思っていたので耐え切った立花を賞賛した。それは本当に凄いと思ったからだ。

 だが、それは同時に残念だとも言える。

 一撃にかけた決戦用の手段で()()()()の蹴りを止める。つまり本来の戦闘ではあまりにも非効率的だ。

 一対一でこの有様なら、通常の戦闘で龍緋を倒せる確率はほぼゼロである。

 今以上に強くならなければ到底、戦闘の資格は与えられない。それはきっと他の者にも言える。

 そして、そんな彼らと戦わせる兎伽桜を恨む。

 

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