ラナークエスト   作:テンパランス

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#170

 act 108 

 

 耐え切った立花を誉めてばかりはいられない。追撃に移ろうかと思うのだが、それ以上は鍛錬の域を出ると判断し、踏み止まる。

 ふと彼女を見れば防御体制から変わらない。懸命に何かに耐えるような険しい表情だった。

 多少、力を込めた蹴りを受けて無事であるわけが()()()()

 

「た、立花!? どうした?」

「……ダイラタント挙動スピノーダル分解?」

 

 龍美の言葉に誰もが首を傾げたが、難しい専門用語は龍緋もよく分からなかった。

 そうこうしている内に変身が解けていく。それでも体勢だけは変わらない。

 全身が緊張したまま身動きが取れない。一種の石化状態に似ている。

 龍緋は立花の腕や脚などを軽く揉みつつ少しずつ引き離しに掛かる。その時、動かすと身体が粉々になるのではないかと思ったが、多少の痛みがあるだけで腕が砕ける事はなかった。

 そうして時間をかけて両腕を解放すると周りから安堵の吐息が漏れる。そう思ったのも束の間、立花が身をよじって呻きだす。

 

「……ああっ! ああっ!」

 

 自由にならない身体に不可解な激痛が襲ってくる。それを立花は必至に耐える。

 龍緋の攻撃は肉体に想像を絶する衝撃を与えた。そして、それが遅れて全身を蝕んでいる。

 骨折の音は聞こえないが筋肉が断裂し始めているのかもしれない。

 

「……そのおっさんの攻撃はそこまでかよ」

 

 と、龍緋をおっさん呼ばわりした事に鈴怜が不快感を示すが、鈴がすぐに彼女を引き止めた。

 兄の悪口は一切許さない。それくらい鈴怜にとっては大好きなお兄ちゃんである。

 

「……青痣(あおあざ)が……」

 

 目に見えて広がっていく腕の痣。どう見てもおかしい事は天羽達も理解する。

 どういう力を加えられれば、こんな現象を引き起こせるのか。

 それと白髪の龍緋の本気とはどの程度のものか、ますます分からなくなった。

 自分達は少なくとも龍緋を倒さなければならない。

 

 こんな化け物を倒せるのか。

 

 それぞれに疑心暗鬼が広がる。

 攻撃を受けなければいい。言うだけなら簡単だ。しかし、生身でシンフォギアを凌駕する人間など化け物以外に例えようがない。

 龍緋という人間について風鳴はまだ良く知らない。最初に手合わせしたのは立花だ。

 自分達の中で一番の破壊力を持つ頼れる後輩が撃破された。たとえ『絶唱』を使わなかった状態とはいえ、自分達の手に負えるのか。

 

          

 

 身動きが取れない立花を赤龍が地下へと運ぶ。本来ならば宿舎なのだが、回復手段が置かれているわけではない。

 まだ何やら怪しい話しが始まるかもしれないと思った風鳴達は下に行くのは躊躇われた。

 二つ返事で応じた(赤龍)にそれとなく注意を促しておく。

 

「いきなりの脱落とは……。少し期待したのが悪かったな」

 

 耐え切ったところまでは良かった。

 肉体的なダメージが想像より大きいならば素直に付記とはされていた方が幾分良かったのかもしれない。もちろん、今更な話しだが。

 回復すればまた鍛錬に付き合ってあげよう、という気持ちにはなった。

 

「ちょっと想定外だったが……。君達も鍛錬に付き合ってくれるのか? 攻撃は弱めにしてあげよう」

 

 言葉としては強者の驕りだが、流石に誰も文句は言えない。

 次の挑戦者が現われるかどうか、龍緋が悩んだのは一分ほど。

 

「なら、先輩としてあたしが相手だ」

 

 同じ『ガングニール』の装者である天羽が一歩前に出る。

 

「拳法家ってほどじゃないけど、槍使いだ。軽い運動に付き合ってくれよ」

「いいとも。存分にかかっておいで」

 

 龍緋の自信をへし折ってやる、というような口上はさすがに出来ないが、健闘くらいはしないと先輩としての沽券に関わる。

 もちろん自爆や相打ちは風鳴の手前出来ないし、龍緋にはおそらく通用しそうにない。

 見た目には普通の大人の男性なのに。

 その身体の秘密を解き明かすことも自分の役目だと言い聞かせる。

 

「クロイツァル、ロンツェル、ガングニール、ヅィール」

 

 真剣な面持ちで『聖詠』を唱える天羽。

 一拍の発光の後で変身が完了する。本来は神崎家のような一般人の目の前で変身すべきではないが、元の世界に戻るという目的の前では些細な事だ。それに対して風鳴もうるさく言うつもりはなかったので黙っていた。

 目の前の敵を倒す。それ以外に重要な事は無い。

 

「先輩としてあんたを倒したいところだけど……。適度にその力の秘密を解き明かしてやらないと……」

 

 後輩と違い、無理矢理『適合者』になった天羽は普通の変身だけでも身体に多大な負荷がかかる。もちろん、それは本人も自覚している。

 数分程度しか変身していられない。それでもかっこいい所は見せたかった。

 


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