ラナークエスト   作:テンパランス

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#171

 act 109 

 

 両腕に装着されているガントレットを合わせて槍のギミックを形成する。

 装者の意思によって様々な形態変化を起こせるのは今更ながらに驚く科学技術だ。

 拳主体の立花とは違い、武器を持って攻撃を開始する。

 

「生身とはいえ凄いじゃないか。なら、この槍は砕けそうかい?」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ槍を繰り出す天羽。

 砕けるかと挑発されれば挑戦しないわけにはいかない。

 対ノイズ戦では突くだけではなく、斬撃したり、無数に増やして散弾のように使ったりする。

 槍使いとしての鍛錬をしてきたわけではないので戦い方は我流だ。

 

「……なんだか弱い者いじめしているような気分だ」

 

 か弱い女の子を殴ったり蹴ったりするのだから。大人として龍緋も少し抵抗を感じる。

 娘と息子を持つ父親としてどうなのかな、と思わないでもない。

 戦闘に関して龍緋は実にストイックである。

 余計な事を考えるが、相手が誰であろうと真剣に向き合う。それが基本姿勢だ。

 槍を砕く前に腹に一撃を加える。もちろん、手加減した。

 

「……うぉ、……かぁ、結構キツイね~」

 

 アームドギアを装着しているのに衝撃がそのまま伝わってくる。

 変身する事により肉体的にも聖遺物の恩恵を受けて一般の兵器類の直撃でもあまりダメージを受けない。銃弾すら口で受け止める芸当すら出来る。

 

「……まあ、そんなこともあったな……」

 

 苦笑しつつ雪音は都合の悪い事を忘れようと勤めた。

 攻撃している天羽も理解してきた。龍緋の強さを。

 普通の人間ではない。

 

「そろそろ防衛に回らないとお兄ちゃん、本気で攻撃してくるよ。もう少し下がって」

 

 と、鈴怜がアドバイスする。

 前面に身体を傾けていた天羽は言われた通りにしてみる。すると拳が顔面を狙ってきた。

 

「お兄ちゃんは別に武術の達人じゃないから。……気をつけて」

「ありがと」

 

 と、礼を言った直後に回し蹴りを食らう天羽。

 達人ではないからこそ手加減が苦手な側面がある。つまり下手をすれば相手を殺してしまう危険性があるという事だ。

 本来は人間よりも凌駕する身体能力を得ている。だから、動体視力も当然、一般人以上だ。それなのに動きが読めないし、見えなかった。

 骨折はしていない筈だが、結構な衝撃を受けて地面を転がされ、それきり動かなくなる天羽。しかし、気絶したわけではない。

 戦意を失っただけだ。

 

          

 

 無茶な戦い方を続ける気は無かったので諦めただけだ。

 流石に今以上の戦闘はただの殺し合いになってしまうと気付いたので。

 

「まさに風鳴弦十郎……。次は私が相手だ」

 

 対抗意識を燃やす風鳴に対し、次の挑戦者に向けて身構える龍緋。

 

「……先輩……。無闇に突っ込んでもやられるだけだ。対策くらい練らないと……」

 

 呆れ気味に雪音が言うと風鳴は唸った。

 大事な友人が二人も負けてしまったので、つい頭に血が上った。

 冷静に考えれば確かに雪音の言う通りだ。そう思って軽く深呼吸する。

 

「……でも、シンフォギア装者全員で一般人を襲うのはちょっと……」

「私達の存在意義が疑われるデス」

 

 マリアも口を強く結んで唸っていた。

 得体の知れない男性になす術がないのは前代未聞。このまま戦っても勝てる気がしない。かといって絶唱を使うのはおかしいと思うし、納得出来るはずがない。

 相手が変身する化け物でもない限り。

 戦闘が中断して数分後には地下に運ばれていた立花が自分の足で戻ってきた。

 

「……いや~、すみません。負けちゃいましたね」

 

 あはは、と笑うが迷惑をかけた事は素直に謝った。

 無事に戻ってきたことを風鳴は素直に喜ぶ。

 

「報酬とかは無しで治療してくれました。……掃除とかで忙しいらしくて」

「そ、そうか。また拘束されたのではないかと……、一緒に行った男はどうした?」

「もうすぐ来ます。階段をゆっくりと登ってるんじゃないですか。あれ、結構高いですから」

 

 何段飛びかで駆け上がる立花に対し、ただの人間である赤龍は一段ずつ上っている。

 本来なら運んでくれた人物を置いて行くのは不味いのでは、と指摘すると立花はただ苦笑するのみだ。

 今更戻っても意味が無い。

 

「……装者を(ことごと)く打ち倒すとは……。おっさん、何者だ?」

 

 悉くなら全員でなければならない表現だ。それに対して風鳴は咳をして軽く指摘する。しかし、雪音は知らん()りをした。

 

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ、バーカ」

 

 怒りが頂点に達した鈴怜が雪音を睨みつけて言い放つ。その怒気は見えない圧力となって襲い掛かる。

 声こそ低く抑えられているが、もう一度『おっさん』と言えば鈴怜はきっと雪音を襲う。

 

「わ、わーた。ごめん……。そんなに怒るとは……」

「あたしらは……君達と戦わないよ。いくら家族だとしても……。こいつ(鈴怜)がどう出るか知らないけど、一応……。止めてあげるから」

 

 と、龍美は雪音達に言った。

 神崎家全員が敵ではない事ははっきりさせたかったので。

 


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