ラナークエスト   作:テンパランス

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#173

 act 111 

 

 無数の魔方陣が龍緋目掛けて降りて来る。時間差を置いて魔法は発動する。

 一度、標的に入れられれば移動しても避けられることは無く、ただ耐えるのみだ。

 今度は迎撃するアイテムは何も無い。ただ己の身体のみで受け止めなければならない。

 

「……生前ならば……」

 

 おそらく死ぬか大怪我していてもおかしくない。それだけの手ごたえはあった。

 今は少し状況が違う。だから、生身でもおそらくは受け止められる気がする。

 本当に出来るかは試さなければならないけれど。

 そんな事を考えていると天空から膨大な威力を持つ破壊の魔法が降りて来る。

 さすがに拳での迎撃は躊躇われるので拳を強く握り締めて腕を十字にする。

 今の状況ならば横から狙われ放題だ。

 捨て身を選ぶならば今が好機。しかし、赤龍達は来ない。

 

「………」

 

 もしバットを持って襲ってくるようであれば龍緋はきっと弟を守る為に身体を投げ出す。

 何ごとも家族が一番だから。

 その為だけに生きてきた。

 

 ズドンっ!

 

 巨大な大砲並みの衝撃が龍緋を襲う。

 普通ならば大爆発して終わりだ。

 じかに受けた事があるダクネスでさえ大怪我だったが殺傷能力は見た目に対して意外と低い。

 魔物はよく死んでいくが。

 防御が厚い場合は生き残る確率が高い。

 

「耐えてる……」

 

 遠目から見ていたカズマは驚く。

 全身を焼いているように見えるが未だに原形を保っている。防御はダクネス並みと予想する。

 彼の足元が崩れだしたところでメイドが複数人現われ、何かの魔法を唱えていく。

 施設防衛の為の魔法だと思われるがカズマ達には窺い知れない。

 既にめぐみんは魔力を使い果たして倒れ伏している。

 

          

 

 被害を抑制する魔法のお陰でカズマ達はケガをすることなく済んだが中心にいた龍緋は全身から煙りを発生させていた。

 ダクネスでも原型が保たれていたのだから龍緋が無事でも驚かないが、あまり人に向けて放っていい魔法ではない。

 周りに居た暁達は呆然とし、めぐみんを除く全員が結果を黙って見守っていた。

 

「……爆発は……終わったか……」

 

 耐え切った龍緋の言葉に赤龍と鈴が安堵する。

 やはり、という思いと流石に今のは無理か、と手に汗握る気持ちだった。

 彼の子供たちはまだ宿舎に居るので父の木っ端微塵になる様はさすがに見せられない。だから、原形を保った事に安心する。

 

「……ふ、ふふ。あははは。どうですか、我が爆裂魔法の味は」

 

 倒れ伏したままめぐみんは高らかに笑う。

 何度も爆裂魔法を使っているので感覚的にどうなっているのか分かるようだ。それは既に一種の職人のようだ。

 

「……そうだね。まず発動までが長い。待っていると避けられそうだが……、そこは自動追尾のようで感心する。逃げられないところに上からの爆発エネルギー……。普通の人間なら結構な大怪我だが意外と……良心的なところがあるな」

 

 本当の爆発する魔法であれば人体は木っ端微塵になる。それが無いのは自分の身体に何らかの加護があるか、魔法自体に残酷性が無いか、だ。

 ダメージ的には確かに痛い、と分析する龍緋。

 髪の毛も無事なところは首を傾げるところだ。

 

「魔法だけで武神様を倒しきるのは難しそうじゃのう」

 

 扇子を(あお)ぎながら龍緋の無事に安堵する戈斂(かれん)皇女。さすがに腕とか吹き飛ぶのではないかと冷や冷やしていた。

 多少の打撲か火傷程度なら文句は無い。

 ダメ出しばかりかと思って身構えためぐみんだが誉められた箇所が多くて安心する。

 とにかく一日一回のノルマは達成した。だから満足だ、という風に眠りにつこうとしたが今はまだ朝方だ。

 

          

 

 爆裂魔法による騒音で宿舎から続々と人が出て来た。

 事態は既に沈静化しているが、カズマとしては弁解役になりたくないので遠くに避難していた。

 龍緋のケガは軽いわけではなく、両腕がひどい火傷を負っている。その状態でもまだ戦闘を継続すべきか悩みどころだ。

 

「セイクリッド・エクソシズムっ!」

 

 隙あり、とばかりに女神アクアが額から光線を放った。

 魔法が通用する今ならば効果があるのではないかと思ったので。そして、それを見たカズマが鬼だな、と呆れつつ思った。

 本来ならば良くやった、と言うところなのだがギャラリーが多くなったので皆の冷たい視線を予期して誉めるのは後回しにした。

 光線は龍緋に当たり清浄な光りが包み込む。

 確かにアクアの魔法はアンデッドに有効だが、それは()()()()アンデッドだと()()()()()モンスターに対してだ。

 龍緋は死人ではあるが()は『超越者(オーバーロード)』として存在している。

 清浄魔法が本当に効果を示すわけがない。しかし、今回はかき消されなかった。

 多少の煙りが発生しただけで龍緋を浄化するには至らず。

 

「ええっ!? 魔法が通用するんじゃないの!? 詐欺よ、これは詐欺よ」

「よく分からないが……。残念だったね」

「やはり物理攻撃のみか……」

 

 武器を取り上げれば多少の魔法も効果があるのは確認された。

 もっと強力な魔法ならば龍緋とてタダでは済まない筈だ。そう周りは分析する。

 隙ありと思った者は他にも居て、先ほど蹴り飛ばされた天羽が槍を突き出し、立花が拳で打ち込みに来た。しかし、それぞれ硬い物にでも当たったかのように弾かれる。

 

「なに!?」

「うぇ!?」

 

 龍緋は防御姿勢のまま二人の攻撃を受けきった。

 生身の人間であるはずなのにアームドギアが通じない。

 

「……あっ、兄ちゃん。少し怒ったかも……」

「負けず嫌いだもんね、そういえば……」

 

 弟達の言葉とは裏腹に唸りつつもその場から動かない龍緋。実際には両腕が痺れているだけで攻撃にはまだ少し回れないだけだった。

 それを好機と見たのは鈴だけだ。

 彼女は彼の背後に向かい、拳で殴りつける。

 本来はまだ手を出すつもりはなかった。皆の努力に少しでも貢献しようと思っただけだ。

 


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