ラナークエスト   作:テンパランス

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幕間
るし★ふぁー


 

 連載が中座して早一年。

 しかし、それでも更新は続いていた。ハーメルンの仕様を十全に使いこなした他の作品だが――

 今回るし★ふぁー一体だけ。残り三巻で至高の御方はどうなるのか。

 時間停滞(テンポラル・ステイシス)』という魔法が出た。漢字表現の違いこそあれ、やはり存在していた。

 あと、肝心のるし★ふぁー。

 

「……本筋を無視して猫型モンスターから機械天使……。人形天使るし★ふぁーは安直すぎるんじゃないか。しかも完全にコミュ障じゃねーか」

 

 猫型モンスターから黒い片翼天使人形へと変貌(メタモルフォーゼ)した真・るし★ふぁーがため息を漏らす。

 見た目の印象から『ルシフェル』というよりは『デウス・エクス・マキナ』が濃厚なのだが――

 最新刊である十四巻は殆どメインキャラが全滅。イビルアイも退場。そして、竜王国は気が付いたら滅んでいる国と化す事がほぼ決定か、と。

 

「俯瞰して見るとアインズとやらは仲間が居ないとここまで廃るのか」

 

 彼が居るのは至高の四一人が会議によく使う『円卓の間』である。

 ナザリック地下大墳墓にて外の様子を眺めつつ――

 動像(ゴーレム)創造者(クラフト)は何を思うのか。

 

(新しい情報が無い。アズスが出てきたのは良いとして……。ラナーの自滅は想定内だが……)

 

 ラナークエストとしても想定内だが()()寿()()を考慮する本作とはやはり相容れない内容であった。

 シンフォギアは完結し、オーバーロードも下火になりつつある。次巻は来年だとか。

 漆黒聖典編があまりにも遅すぎた。

 

「本編はそれでいいとして二次創作側の軌道修正は……、どれほどかな。とにかく、私の活躍が増える事には変わらない」

 

 それに数多の魔法の当てが間違っていなかった事も証明された。であれば不可能な事は元の世界に戻ることのみ。

 大方の予想はつくが他の国に行かないのはもったいない。

 原作は放棄を決め込んだ。であればこちらは制裁モンスターが活気づく。

 

「連座さえなければラキュースは……。これ以上は無粋か……」

 

 るし★ふぁーは側に寝転がる猫型モンスター『再生の獅子(シェセプ・アンク)』に顔を向ける。

 この作品群において制作された設定は非常に強力なものだ。その結果、あらゆるモンスターを使役する事が可能である。

 一度に数百体も召喚する必要は無いし、敵の大部分は討伐済みだ。

 

(ロボットが大好きな銀髪の少年が活躍する世界にだって行ける)

 

 停滞は死と同義だ。であれば次にどうすべきか。

 るし★ふぁーは地上へ出る。

 あらゆるものがすでに手中にある。これ以上の向上心を養うのは中々に難しい。なにせ、ゲームの世界ではないのだから。待っていてもアップデートはされない。

 東方の地はモンスターが溢れかえっている事が分かっている。そう思いつつ秘かな情報手段の一つを虚空に出現させる。

 数年前に行った時は何処からともなくランダムなモンスター軍団に襲われたが、今はどうなっているのか。

 

(……あ、その元凶を引きずり出す前に撤退したんだった。って、それが創造主の化身(エロヒム)だったか。結局、あれは誰が倒したんだ?)

 

 遠くを映し出す映像ではモンスターの姿はなく、平和そのものの大地があった。

 立ち入ると湧いて出る。進んだ距離によってモンスターは増えていくが加速度的なほどではなかった。

 

          

 

 (くだん)のモンスターもるし★ふぁーの近くにあるわけだが東方の地をくまなく探索したことは無い。

 そんな現実逃避をしている彼の側に黒髪の女性が近寄ってきた。

 他の人間達と冒険者パーティを組んでいた筈の戦闘メイド『ナーベラル・ガンマ』だ。

 重厚な鎧を装備しているのは彼女が取得している職業(クラス)のレベルの高さが物語っている。

 本来、魔法詠唱者(マジック・キャスター)は重装備できない。しかし、その世界のルールをねじ曲げるような事が数多ある職業(クラス)にとって可能たらしめていた。

 ナーベラルは最高レベルに達しているので重装までの鎧を装着できる。

 

「るし★ふぁー様。お供につかせていただいてもよろしいでしょうか?」

「……いいよ」

 

 特に目的というほどのものはない。

 彼女の様なNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)との触れ合いは割合必要で、無下に断り続けると精神構造に支障が生まれやすくなる。

 ゲームデータで出来ている筈なのに、である。

 

(でも、気配りをしておけば日常生活が平和になる。……なにせ、我々が創造した存在だからな。見捨てられると思われたら発狂レベルだ)

 

 ゲームでは例えNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)でも触れ合う事が難しい。特に異性間のやりとりは規約に厳しく記載されている。

 それが今は自由自在だ。隠語も何の支障もなく言える。

 るし★ふぁーはナーベラルの頭を撫でる。女性経験のない男子にとっては難しい行動だが、今の彼は平然とできる。

 プレイヤーであるるし★ふぁーの身体は偽装身分(アバター)だ。更には機械のような身体だ。それでもちゃんと人間と遜色のない感触がある。

 

(……機械でもちゃんと手触りが分かるのは謎仕様だけどな。命令一つで身体に触れるのは役得なのか……)

 

 ナーベラルとて誰にでも身体を触れさせるわけではない。至高の御方だからこそ平気なだけだ。それ以外では不満を滲ませる。

 

          

 

 ゲーム的な目的の無い世界においてるし★ふぁー共々何が出来るかと言えば何もないと答えるのが常識だ。

 クリアしたら終わり、という条件が無い。人の世は寿命によって左右される。未来永劫変わらずに存在し続ける事は難しい。仮にできたとしても――

 それに何の価値があるのか。

 

(ずっと地上世界に居るよりは宇宙に行ったり、他の異世界に行ってみたくなる。並行世界は勘弁願いたいところだ。後、時間旅行なんかはもってのほかだ)

 

 人間を蹂躙する事が楽しい。そう思っていられるのは最初だけ。

 ここはやはり無限湧きするゲームが恋しくなる。有限の世界は何もかもが貴くなる。

 

 もし至高の四十一人が来なかったら――

 

 世界は停滞を選んでいた。そこからの進化は当然閉ざされる。

 物語において死の概念ともいうべき結果だ。

 るし★ふぁーは他の世界から来た者達の下に向かおうか考える。安易な混ざり方をするのはばかみたい、と思わないでもない。けれども女の子が多数いる事は分かっている。行きたい。遊びたい。ついでに地球の事も知りたい。

 

(他の主人公たちは悩みとか無さそうだな。あいつら自分の年齢について考えないから一〇〇年経過が精神にどれだけ負担か知らないだろうな)

 

 人間の脳は大容量と言われるが結局のところは有限である。その限界を知る時――笑っていられるのか。

 るし★ふぁーは経験しているから恐ろしいと思える。

 恐怖心は物事を判断する時に有効である。

 側に控えるナーベラるを手招きし、転移にて場所を変える。視界は一瞬で切り替わり、空気も変化する。しかし、大気の様子は異形種であるるし★ふぁー達には気にかけるほどのものはなかった。

 彼らは一般人は立ち入りが禁止されている『一の宝物庫(ユピテル)』に降り立った。世間的には地下空間の大倉庫と呼ばれる『マグヌム・オプス』だ。

 ――本来はナーベラルも進入が制限される場所だがるし★ふぁー達『至高の御方』と一緒であればこの限りではない。

 ここは他とは違う最重要施設である。

 

(……最初に見せられた時は驚いたものだが……、異形種のお陰で今ではすっかりと慣れてしまった)

 

 驚きの代表格はやはり美女の生首だ。正しくは保管容器に入ったものである。

 首だけではなく手足もあったけれど。

 るし★ふぁーが入るのはラナー王女の部屋だ。

 名前が長く、よく間違われる『ラナー・ティエール・シャルドン・ライル・ヴァイセルフ』という金髪碧眼の――少女と見紛う女性だ。この作品での実年齢は既に二十歳を越えている。

 最新刊によって判明した彼女の正体がこの部屋に()()事になっている。

 想定ではクライムが犬へと変化する筈だった。それほど捻りも無い内容に(むし)ろ失望したほど。

 

(けれども万能の魔法はどんな条件もクリアしてしまう。……後付けの真実があったとしても)

 

 円柱の保管容器の中には保存液が満たされ、その中に今入っているのがラナーである。

 しかし、彼女は今も隣りの部屋や地上で活動している。シンフォギアに大して興味を抱いてはいないが来客という観点から観察はしていた。

 保管容器は一つだけではなく使用前、使用後のようにいくつも置いてある。しかも裸体で。

 服を着せたままだと溶液で汚れたり劣化するので仕方がない措置だ。

 

(こうして貴重な検体を残すのは原作には出来ないけれど、やろうと思えば出来る筈……。そうなると本筋から逸れてしまう)

 

 原作のラナーは『小悪魔(インプ)』となった。もし、可能性があるならば――と考えた場合、彼女の幸せはどのあたりまでだったのだろうか。

 るし★ふぁーは眠り姫たるラナーを眺める。彼女以外の容器もあるけれど。

 モザイク処理がされていない胸や股間がはっきりと見える様に異形種としての性的興奮は人間時代よりも淡白なっていた。ただ、感覚としては興奮に似たものはある。

 もちろん、容器から取り出して好き放題触ることもできる。別に憂鬱の保管容器というわけではないので。

 人生何があるかわからない、という理由から当人(ラナー)の了承を得て約一〇〇体分が『倉庫(マグヌム・オプス)』に存在し、他の場所にもあると言われている。

 これらは一斉に目覚めることはない。本体の意識まで分割できないからだ。

 

          

 

 ラナーの目的は至極単純である。

 末永く幸せになること。方法問わず。

 るし★ふぁーは彼女に対して特段の感情はない。ただ、出番が多くてうらやましいな、と思う程度。あと、裸体を見ても触りたい気分があまり湧かない。逆にナーベラルのような異形種の女性が気になっている。

 異形種の生活が長かったからか、人間性の喪失というのは色々ともったいないな、と。

 

「……お前の容器もあるんだったな?」

 

 側に控えるナーベラルに尋ねると首肯した。

 異形種の彼らは人間種の死体などを見ても心はあまり動かない。元々人間であった残滓の影響はあるけれど、軽微である。

 

「ナザリック地下大墳墓の倉庫に同程度のものがあると聞いております」

「……凄まじいな。我らの弟子は……」

 

 目の前のことを成したのはるし★ふぁーの弟子ではなく、他のメンバーだ。

 今は呪いによってデフォルトで設定したプレイヤー名を名乗れない状況だが――

 思うことに制限は無い。これは何度も当人を交えて実験した。

 

(昔、よく罠に嵌めていたからな……。今も嫌われているし……。あれか? プレイヤーだから感覚の劣化が起きないのか?)

 

 異形種である自分にも覚えのある感覚というものがある。

 容器を一つ異空間の倉庫(インベントリ)にしまい――勿論、了承は得ている――ナーベラル共々移動を開始する。

 次に向かうのは月だ。

 これは魔法で簡単に移動する事ができない。原理は不明だが星から星への移動はそれなりに手間がかかることが分かっている。

 まず転移魔法は移動距離が有限である。無限という設定があるにもかかわらず、だ。

 星には魔法効果の及ぶ範囲が定められている。もし、この制限が無いならば初期の時点で移動できていなければならない。出来ない、ということは制限がある証明だ。

 例えば『なんだか怖い』と思わせる事象を感じる。

 最初は気づかない違和感こそが実は重要だったりする。

 いくつかの段階を経て月に存在する施設『無限光(アイン・ソフ・オウル)』に到着する。

 灰色の大地に支配された音のない世界にポツンと孤独に存在する。

 普段であれば侵入者迎撃のために多くの自動人形(オートマトン)達が現れる。それが今は無反応――正確にはるし★ふぁー達を仲間だと思っている為に――だった。

 建設されてから数年は経過しているが劣化の兆候は見られない。

 真空に支配された世界では金属などの酸化による劣化が起きにくい。

 

「……何重にも張られている窓も無事……。本当に……」

(よく作ったものだ。それも多数の森精霊(ドライアド)に協力してもらって潤沢な大気を生成している)

 

 真空に人間が呼吸できるほどの大気で満たすのは簡単ではない。そこには膨大な資源を投入する数の暴力がなせる業がある。

 呼吸を必要としないるし★ふぁーには今はいまいち分かりにくいものとなってしまったけれど。

 星の大気は無限に増えない。絶対量が決まっている。その筈だし、それを想定した上で施設を作っている。

 無理な自然法則を打ち破る原因は彼が持ってきた人間の入った容器だ。これがこの施設にもたくさん置かれている。

 質量保存。エネルギー保存の法則などを覆したからこそ出来る非合法な方法だ。

 もし、これを原作でも取り入れていれば更なる物語の発展ができる筈だが――そこまでになる事は無い。出来るわけがないし、書けるわけがない。

 出来るとしても生物の複製がせいぜいだ。それが世界に刻まれた規則(ルール)だから。

 だが、二次創作にそんな規則(ルール)は無い。だから出来る。

 

          

 

 無限光(アイン・ソフ・オウル)は未完成の施設だ。理由は単純に部屋のすべてに大気を満たすための時間が膨大だから。

 それと外から入る有害な光りを遮断するガラスの制作にも。

 気密性を維持しつつ、外的要因の影響を受けないモンスターなど使い、コツコツと作り上げていった。

 仲間にかかれば工期をもっと短縮できるが――最初の試作基地は(あるじ)一人に任せることになった。

 あと数年で完成予定だ。そんな施設にるし★ふぁーが来た目的は散歩である。

 たまに違う景色が見たくなる。その一環だ。容器は別に関係ない。

 

(……本当に下の星との距離が三八〇〇〇〇キロメートルもあるのか? 地球の月と同等と考えるのはおかしいと思うけれど……)

 

 異世界ファンタジーといえば星の中で物語が完結するものだ。それを本筋を無視して自力で月にたどり着く者が居るとは誰が思うのか。

 しかも一度到達してしまえば転移が有効になる。それもまた驚くべき事実だ。とはいえ、方法は簡単ではないけれど。

 るし★ふぁーはナーベラルと共に無数にある部屋の一つに入る。すると先客が運動をしていた。

 地上世界よりも重力が低いのはここでも健在であった為だ。

 人間種は毎日の様に運動と食事を欠かせない。魔法で楽もできなくはないが全員が恩恵を受けられるわけではないし、不測の事態に備えた訓練も必要だ。

 で――先客はクライムとラナー。

 

「……単純作業用の人間だと分かっていても驚くな……」

 

 彼らは挨拶はしない。肉体の疲労度などを図るために存在している。

 そういう単純作業用の彼らは他の部屋にも居る。

 定期的に部屋を走り回り、身の回りの掃除や持ち込んだ風呂場で身体を洗ったりする。

 見ているだけだと面白みのないやり取りだが、例外も居る。今回はそれらに会いに来たわけではないので無視する。

 人間種でありならが悠久の時を生きる選択をしたラナー。しかしながら実証実験は必要だ。そう判断した彼女はクライム共々、月の施設に自身の複製(クローン)を使いつぶす。

 単なる動物よりも効果的な方法だ。

 ここには地球での様々な制約はない。非合法だろうと人権だろうと無視できる。国際条約も無い。

 ラナーは己の目的のためならば国すら犠牲にできる。

 

(……(したた)かな女だけど……、見ていて楽しいのは確かだ。でも、友達にはなりたくないな。でも……打算的なところは嫌いじゃないし……)

 

 結論としては遠目から見守ることになった。

 ラナー以外の住民も居るには居る。それらも大体似たような運動を続けている。

 残念ながら繁殖計画は完成後になっている。その理由は単純に満足な医療設備がまだ整っていないからだ。

 その矢先に強大なモンスターが現れて計画が先延ばしになってしまった。

 

(……一〇〇〇年を超える生活に精神が本当に耐えられるのか……。それはやはり実際に経験しなければわからない。私も当然そんな悠久を過ごしたことはないので怖いと思っている。……ラナーは本当に末永く幸せになれるだろうか。まあ、他人事だけど)

 

 異形種である自分も悠久の時を過ごせる。設定的にもそうなっている。

 完全無欠ではないけれど長い時を本当に人間的な精神のまま過ごせるのか疑問だ。

 娯楽の無い世界で、この先国の運営だけで満足できるとも思えない。

 るし★ふぁーは背後に控えるナーベラルに顔を向ける。自分は心配するけれどNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)はそういう危惧を抱かないので羨ましいと思った。

 だが、それが本当に羨ましい事なのか――

 あまり深入りすると怖いので幸せそうなラナー達をしばらく見物する。――彼らは感情を設定されていないので無表情のままだ。

 何の疑問も抱かずに生活を続ける。るし★ふぁーであれば悲鳴を上げているところだ。だからこそ――強靭な精神構造がうらやましく思える。

 いや、そもそもそういうものは持たされていない。そして、どちらが哀れなのか。

 るし★ふぁーは定期的に彼らの様子を見物し、悠久の時の過ごし方を模索する。

 

 

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