ラナークエスト   作:テンパランス

20 / 183
#019

 act 19 

 

 二日連続で討伐したモンスターは小鬼(ゴブリン)二十一匹。人食い大鬼(オーガ)十一体。ゆえに各1379ポイントの経験値を獲得した。

 ほぼレイナース一人で半殺しにしたので個人で得た獲得経験値は多くなったはずだ。

 アルシェとクルシュはひたすら魔法を使い続けるという討伐とは無縁の方法を取っていた。

 レベルアップに必要な経験値が元々多いので今回の分を足しても物足りなさを感じる。特にラナー以外。

 

「これでも収入としては多い方だと思うのだが……」

「宿代は充分に確保していますし、食事代も足りなくなる事はありませんね」

 

 一回で金貨は得られないが溜まっていく貨幣には満足している。

 ラナーは既にレベル3になる条件を満たしている。問題は()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 伝え聞いた話しでは経験値を職業(クラス)レベルに使うらしい。

 亜人と異形は種族レベルに投入することが出来る場合があるという。ただ、闇雲に経験値を使う事は出来ないらしい。おかしな化け物になってしまうのではないかと言われているためだ。

 (ドラゴン)は特殊で年齢を重ねればレベルアップするとか。

 一度獲得したレベルは特殊な条件でもない限りやり直しは出来ない。

 世間一般の通説では死亡して復活することだと言われている。あと、経験値を消費するスキルとかの使用。

 

「今のままだと本当に何年もかかりそうですわね」

「序盤はこんなものだ。昇進していけばもっと強いモンスターを討伐できるようになる。それまでの下積みは確かに長くなるものだ」

 

 普通はそうなのだが楽をすると後々痛めに()うのが相場だ。

 堅実な上昇の方が身体には優しい。

 無謀な挑戦は命を縮める。

 

「もし時間が足りないとか、切羽詰った理由があるのなら今の内に言ってくれ。出来る限り協力する」

「私は特に急ぎの用件はございません」

「私もありません。部族からの知らせが来るまでは、と言っておきます」

「……私は……急ぎたい、な」

 自宅に借金取りが来るから、という言葉はレイナースにだけ聞こえるように言った。

「ナーベラル・ガンマ。君はどうなんだ?」

「別の用事が無い内はリーダーの意見に従う」

「では、そのまま続行だ。意見は遠慮無く言ってくれ。相談にも乗るぞ」

 

 アルシェとナーベラル以外は元気よく返事をした。

 ナーベラルはいつもの事だがアルシェは家庭の事情が複雑なので仕方が無かった。

 

          

 

 バハルス帝国にアルシェの実家がある。

 元は貴族の家系だったが没落してしまった。

 浪費家の両親によって家計は毎日が火の車。かつての暮らしを今も忘れられない為だ。

 アルシェのような家は他にもあり、色々とトラブルを撒き散らしている。

 冒険者として働くのは両親の為ではない。二人の妹の為だ。

 今のままでは身売りされるおそれがある。だからアルシェには金が必要だ。

 一時期は請負人(ワーカー)となって活動していたが強大なモンスターによって大怪我を負い、気が付いたら王国で治療を受けていた。

 他の仲間も散り散りになってしまったが無事は確認している。まだ魔導国が建国される前の話しではあるけれど。

 仲間とはぐれてしまったし、戻るに戻れない。それは治療費を払う金を持っていなかったからだ。金に関して言えば、あるにはある。借金返済用の資金は。だが、それは帝国のとある場所に隠してあるので取りに帰らなければならない。

 一人では何も出来ないので当面の資金を稼ぐ意味で王国の冒険者となった。

 先日、治療費は完済できたが今度は帝国に戻る為の旅費と借金返済用の資金稼ぎをしようと思った。

 今のチームは収入は少ないが安全に稼げる。しかも帝国が誇る最強四騎士の一人レイナースがついている。とても心強い仲間だ。

 同郷の友としていくつか説明はしたが家庭問題は恥ずかしかった。

 運が良い事に着替えは王女であるラナーが無償で提供してくれるし、汚れたら替えも借りられた。

 さすがに売る為に貰うのは気が引けたのでちゃんと返している。

 返した汚れた服は城に居るメイド達が洗っているという。てっきり一度着た服は捨てるものと思っていたが節約志向があるのか、ボロボロになるまで使い続けるそうだ。

 王国の財政は色々と逼迫(ひっぱく)しているから、とラナーは言っていた。

 弱体化したせいで今すぐ戻っても何も出来ない気がする。それに今のままチームを組んでいると今まで出来なかった未知の可能性に触れられる気がした。

 

 強さとは何なのか。

 

 第三位階が人間の限界と言われているのが定説だった。だが今は様々な情報で覆されている。

 条件を満たせば人間は第十位階まで行けるのではないか、というものだ。

 少なくとも第五位階、第六位階は届く可能があるらしい。

 問題は強くなればモンスターから得られる経験値が少なくなる事だ。

 ただ闇雲にモンスターと戦っているだけでは中々強くならない秘密というか謎があった。

 彼女達の話しを聞いていて色々と納得でき、感心させられることが多かった。

 上を目指すなら危険なモンスターに挑まなければならない。

 安全策を取るならば途方も無い時間をかけて膨大な数の弱いモンスターを倒し続けなければならない。

 理屈ではそうなのだが、現実問題として単独でモンスターを数万匹も倒せるのか、ということと数万匹も生息している場所がどこにあるか、だ。

 小鬼(ゴブリン)骸骨(スケトルン)なら探せば見つけられそうなのだが、他のモンスターとなると思い浮かばない。

 王国や帝国が保有する冒険者の数はとても多い。ゆえに一人で討伐できるモンスターの数もたかが知れる。

 その中で数万匹の討伐は荒唐無稽であるとさえ言える。

 手っ取り早く強くなりたい、という気持ちがあってもモンスターとて殺されたくはない筈だ。それ相応の抵抗は想像に難くない。

 

          

 

 地道に依頼をこなしつつ小金を稼いでいる内にアルシェ達はレベルアップの条件を満たすまでに経験値を稼いだ。

 一度得たスキルや魔法はレベルダウンすると新しいものから忘れていく。ただし、知識までは消失しない。ただ、使えなくなるだけだ。

 

「スキルや魔法は誰かに師事することで習得する、という話しは聞いた事があります」

「それでも才能という壁があり、誰でもすぐに覚えられるものではない」

 

 それが一般的な定説だ。

 クライムも才能が無いと言われ続け、スキルらしいものは殆ど持っていなかった。

 武技も最近になって習得した。

 戦士(ファイター)だから誰でも同じスキルを得られる、というわけではなく、何らかの条件を満たす必要があるのではないか。

 それがたまたまクライムには足りなかったばかりに習得が遅れてしまった、と考えるのが自然だ。

 

「戦えるようになるには魔法をある程度は習得したい」

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)が何も出来ず、杖で撲殺ばかりでは格好が付かない。

 低級モンスターを倒し続けて強くなるには何年もかかるし、実際はそういうものだ。

 楽して上を目指せる世界ではない。

 その常識を破る施設が王国にはある。ラナーとしては手段を選びたくない時がある、と思いはすれど利用するのは少し躊躇する。

 

「何のためのレベルダウンだ、と言われるかもしれませんわね」

「地道な冒険者としての経験を体験するには有意義だがな。……とりあえず、昇進試験は受けようか」

 

 ずっと雑魚モンスターを狩り続けると飽きる。それ以前に強くなった、と実感できない。

 収入も少ないし、都合よくモンスターが集まってくれるわけでもない。これは()()()()()()()()()()()()()()()、というのならばどうしようもない事だが。

 レイナースはラナーだけはまだモンスターを倒し続けてもいいと思うので昇進までの間、彼女はクライムに任せる事にした。

 また忘れて戻ってきてしまうかもしれないけれど。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。