ラナークエスト   作:テンパランス

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#038

 act 12 

 

 メンバーカードを受け取り、明日冒険者としての本登録であるプレートを受け取る事になった。

 駆け出しは全て銅プレートから。

 紛失すると銀貨数枚相当の罰金が科せられるという。

 プレートを受け取らない限り、冒険者としての仕事は受けられない。

 

「……アクア……」

「なに?」

「あんま無駄遣いできないぞ。明日まで飲み食い禁止な」

「ええ~!?」

 

 冒険者組合を出てすぐ女神は叫んだ。

 長い説明を聞いて疲れたのか、内容に驚いたのか分からない。

 カズマ達の様子をよそにターニャは宿の事が気になった。

 せめて風呂付の宿がいいのだが、残りの貨幣を確認する。

 一番の出費は終わった筈だからせいぜい三日ほどは活動できればいい。

 

「カズマ、カズマ」

 

 めぐみんの言葉に死んだ魚のような濁った目を向けるカズマ。

 

アクセル冒険者カードと仕様が違うみたいですよ。スキルポイントとか表示されてません」

「そりゃあ、世界が違うんだから仕様も変わっているんだろう」

「我々のスキルポイントはどうなっているのか確認出来ないのか?」

 

 メンバーカードを色々と指でなぞっているめぐみんは泣きそうな顔になってきた。

 ダクネスも気になる項目を指で擦り付けるが変化は起きなかった。

 

「あっ、でも我々の冒険者カードは確かありましたよね?」

「これのこと?」

 

 と、アクアがポケットから普通に取り出した。

 アクア達の所持している物品はターニャは把握していないが何か持っていたのであれば『良かったね』くらいしか感想は出て来ない。

 それはメンバーカードと形は似ているがターニャにとってはどちらも同じようにしか見えなかった。

 

「スキルに変化は起きていないようね。というか魔法や宴会スキルは普通に使えたわよ、私」

「そういえば」

花鳥風月(かちょうふうげつ)

 

 と、手から水を器用に噴出させるアクア。

 ターニャは立花に顔を向ける。変身する能力があるのは確かだし、それぞれの能力は保持されているようだ。

 自分のエレニウム九五式もおそらく使えるはずだ。だが、これは使えば使用中の記憶が飛んでしまうので使いどころが難しい。

 アクア達を放っておいて今日の宿を確認する。

 立花にしてみれば小さな少年、少女の付き添いとしか思っていないかもしれない。

 そういえば、とターニャは思い至る。

 

「名前のイメージ通り私は女だ」

 

 それだけ告げて歩き始めた。

 さすがに服を抜げと言ってきたら蹴り飛ばす自信がある。

 

          

 

 安い宿と言ってもアーウィンタールにはたくさんの宿がある。

 駆け出し冒険者が利用する上で格安の宿を通りを歩く市民に尋ねていった。

 大部屋で安く済むところ。風呂付で個室と色々とあるのだが、小さな身体だから広く感じるのか。とにかく帝都は広大だった。

 三十分ほどかけて集めた情報で候補の宿を選び、空室か確認する。

 

「一泊銅貨九枚だ。飯付きなら更に銅貨二枚追加だぜ」

 

 筋骨隆々の元冒険者という風体の店主が野太い声で教えてくれた。

 風呂は共同風呂。それだけで少し嫌な予感がしたが小さな幼女に欲情する変態はおそらく一名しか居ない。

 女性専用はあるにはあったが料金的に厳しいところばかり。大衆浴場もあるらしいが利用料が別途かかる気がした。今の段階では使用は控えたいところだ。

 早く一定の収入を得ないと夜も安心して眠れないのではないか。

 元は()であったというのに今は複雑な気分だとターニャは深くため息をつく。

 前世の記憶が生き残る処世術の役に立っているし、()()朽ちかけた修道院で一生を過ごす事など耐えられない事態だ。

 安定志向のターニャが何の因果か再度の転移。

 ターニャ・デグレチャフという幼女の姿から死亡による転生ではないようだが、少なくとも元の世界には戻りたい。

 争いの絶えない世界だとしても祖国に残してきた部隊やキャリアは無くしたくない。

 というよりはどうやったら元の世界に戻れるのか。

 爆死するしかないのであれば、それは最後の手段にしたい。

 

「この宿にするか」

 

 空室を確認し、ダクネスを呼びつけておく。

 

「風呂は共同だが大部屋で格安。飯付き。ギルドからも近いし」

「了解した」

「……すまないが……先に休ませてもらおう」

 

 体力的にはまだ余裕があるが頭脳労働したせいか、疲れを感じている。

 軽い仮眠を取らないと判断力が鈍りそうだ、とターニャは宿代を払って部屋に向かう。

 後から立花がやってきた。

 六人でも充分に泊まれる大部屋の宿代は払ったが食事代は後払いで良いらしい。

 大部屋と言っても二段ベッドがいくつかある程度だ。下のベッドの更に下に荷物入れの宝箱があり、そこに自分達の持ち物を入れる。

 プライベート空間はほぼ無い。

 軽く仮眠しているとカズマ達が部屋に入ってきたようだ。一時間ほどは眠れたと思う。

 

「まずお金の確認だ。既に宿代は払っているから、残りはいくらだ?」

 

 銀貨十枚は残っていた筈だが銅貨は数枚程度まで減っていた。

 宿代で銀貨も一ケタになったかもしれない。

 

「冒険者の依頼は日雇いが多い。確実に増やすのが得策だろう」

「一攫千金のような依頼は無いのですか?」

(カッパー)級の依頼は地味なものばかりだそうだ。本格的なモンスター退治もあまり出来ないと聞いた」

 

 ターニャが寝ている間、ダクネスが質問に答えていた。

 

冒険者プレートを貰ってから依頼を選べるらしいのだが、書いてある内容は全く読めない」

 

 他の冒険者に尋ねる事についての罰則は無いが基本的には禁止らしい。ただし、冒険者登録を済ませた後、独力で読むのは迷惑がかからない範囲では許されている。

 

「掲示板を見る限り、依頼は多そうだし、危険も少ないと聞いた」

「また土木工事とかだったら嫌だな」

「今後の事を考えて収入を蓄えるのは良い事だと思うぞ」

「それよりカズマ。そろそろ部屋から出て行ってもらえませんか?」

「はっ? なに言ってんの」

「大部屋とはいえ、男性はカズマ一人なんですよ。我々はまだお風呂に入ってません。しかも、共同風呂。少しは遠慮してほしいものです」

「きょ、共同風呂っ!?」

 

 冒険者は男女平等。ゆえに混浴が一般的。

 共同浴場も混浴になっているらしい。

 それくらいの気概が無いと冒険者として働けない。

 


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