ラナークエスト   作:テンパランス

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#040

 act 14 

 

 街を散策し、昼ごろになった所で冒険者ギルドに向かう。

 多くの冒険者達が依頼書を眺めたり、情報交換をしていた。

 彼らは一様に首から金属プレートを提げており、それが冒険者の証しとなっている。大きさは五センチメートル程度の金属板に紐を通しただけの首飾りという感じだ。

 軍隊で支給される認識票のようなものだ。遠目では分からないが持ち主の名前が刻まれているはずだ。

 最上位のアダマンタイト級は帝国には二組しか存在しない。

 ギルド内に居るのは(アイアン)から(ゴールド)級までが多く、白金(プラチナ)級以降は数が極端に少なくなる。

 

「お待ちしておりました。皆様のプレートのご用意が整いました。それから先日お渡ししたメンバーカードは依頼達成などの情報を記入していくので無くさないで下さいね」

 

 それぞれ駆け出しの銅プレートを渡される。

 証明書でもあるので出来るだけ首から提げて置くように言われた。

 

冒険者ギルドは皆様方のご活躍をお祈り申し上げます」

 

 手続きが終了し、受付嬢は一息ついた。

 

「依頼書を独占することは他の冒険者のご迷惑になるので。罰則はありませんが、出来るだけ一度に一回を目安にして下さい」

「依頼書の独占って?」

「掲示板に張られている依頼をまとめて持って来る事です」

「……なるほど」

 

 他人に仕事を回さない迷惑行為という事だ。

 つまりは過去に誰かがそんな事をしたので規則の注意事項に追加された、と。回数制限が無い事を利用した悪質な行為とも言える。

 六人居るからソロ(単独)を装って依頼を受けようとする事も該当するかも知れない。

 

「パーティを組みたい場合は個別に交渉してください。平均人数は最大で十人まで。多ければいいというものでもありませんが……。それとチーム名は任意ですので、名乗らなくても問題はござません」

 

 複数人で行動する時は絶対にチーム名をつけなければならない規則は存在しない。

 多くの場合は周りの冒険者が名付けてくれるらしい。

 通り名で時には不本意なものもあると思われる。

 

          

 

 最後の説明が終わり、依頼書を眺める。そして、挫折する。

 文字が全く読めない。

 ターニャを含めて文字が分からないという事実。

 報酬額は何となく分かった。後は文脈なのだが、見たことも無い文字は解読に時間がかかりそうだ。

 

「アクア様の女神パワーでも解読は無理なのか?」

「そうねー。全く未知の文字みたいね」

 

 どんな言語にしろ、パターンというものはあるはずだ。という予想でターニャは解読作業に入る。

 基本的にすることはアルファベットの分解だ。それから共通する文字の抽出。

 言葉が通じるのだから逆手に取ればいいだけだ。

 時間はかかるけれど。

 冒険者での質問は色々とうるさく言われるが、一般商店の文字は特に言及されていない。それを利用すればある程度は解読できるはずだ。

 

「こういうのはね、勢いなの」

 

 と、無造作に一枚の依頼書を剥がすアクア。そして、それを受付嬢の目の前にあるカウンターに叩きつける。

 

「これを受けたいんだけど」

「申し訳ありません。それは金級プレート冒険者から請け負える仕事なので銅プレートの冒険者ではお受けできません」

「ええ~!」

 

 ろくに話しを聞かなかった女神が崩れ落ちる。

 

「どけ、アクア。こういう場合はとっておきがあるものだ」

 

 と、自信満々に言うカズマ。

 めぐみんや立花は興味本位で眺めている。文字が読めないのだから慌てても仕方が無いし、かけるべき言葉も無いから黙っているしかない。

 

「お姉さん。俺たちでも出来る仕事を見繕って下さい」

 

 と、キザったらしくカズマは受付嬢に言った。

 説明では受付嬢に任せてはいけない、とは言われていない。そして、それに対する手数料も言及されていない。

 

「では、街の清掃作業はいかがですか? 治安が少し悪いところですが……。お試しとして一日だけの仕事ですが……」

 

 カズマの言葉に対して全く表情を崩すことなく営業スマイルで対応する受付嬢。

 

「……冒険者なのに清掃作業?」

「仕事は下積みが大切というのはリ・エスティーゼ王国であっても同じです。危険な仕事につくにはまず仕事に慣れるところからです」

 

 至極真っ当な正論に対し、夢が崩れたような気分にカズマは感じた。

 強いモンスター退治ではなかった分、安全な仕事と言えるけれど。

 

「報酬はパーティの人数で分割されますから少ないのですが……。数をこなせば昇進まで早まります」

 

 確かに銅プレートは安全度が高く報酬は少ない。けれども昇進というシステムがあり、ランクアップすれば依頼料の多い仕事にありつける。

 鉄と銀プレートになれば野外で活動することも多くなり、野盗の調査やモンスター退治の依頼も多くなる。

 

「そういえば、大きな建物を破壊する仕事はありませんか?」

 

 めぐみんの言葉に受付嬢は依頼内容が書かれた書類を確認する。

 掲示板に張られている内容は全て手元の書類にも記載されている。

 

「ございませんね」

「一つも?」

「はい」

 

 と、笑顔で受付嬢は答えた。

 

          

 

 カズマ達四人は物は試しと受付嬢の依頼を受ける事にした。

 駆け出し冒険者の町である『アクセル』では土木工事を経験しているカズマ達にとって初めての仕事ではない。

 もちろんモンスター退治もやった事がある。

 いきなり危険な仕事よりマシだ、という事でカズマは指定された依頼書を受付嬢に渡す。

 初回だから代読料はサービスとなったのか、特に言及はされなかった。

 清掃作業場所は没落貴族が多く住む高級住宅街の一角。

 空き家を犯罪者が根城にしている場合があると言われた。

 

「監視要員の兵士が何人か付くと思いますので、時間まで仕事をして下さい。終わったら冒険者ギルドに戻って来て下さいね」

 

 不正を働く輩が居るので色々と厳しい約束事がある。

 仕事を完了した証明書をもらう場合があったり、依頼人の報告などがある。

 カズマ達四人は早々に現場に向かう事にしてターニャと立花は依頼書と格闘していた。

 立花はただターニャのお手伝いがしたいだけで今は自分から行動を起こそうとは思っていなかった。仲間が居る方が寂しくない、ということもある。

 自力で解読作業する姿に受付嬢は少し驚いたが、罰則規定は無い。もちろん、他の冒険者の迷惑行為でなければ問題は無い。

 依頼書にはプレートにちなんだ文字が書かれている。

 冒険者は基本的に自分のランクより上位の依頼は受けられないが下位に制限は無い。だからこそ独占行為ができてしまう。あまりにも悪質であれば注意を受ける。

 過去に注意を受けた冒険者が居た為に規定に組み込まれた。

 

「おチビちゃん。訓練用の依頼を受けてみる気はあるか?」

 

 と、見知らぬ冒険者に声をかけられた。

 

「訓練用?」

「もちろん報酬は少ないが、ちょっとした経験が出来る。二人でやるなら、これがいい。小鬼(ゴブリン)退治だが……。倒したモンスターの指定された部位を持ち帰ると少し報酬が増える」

 

 危なくなれば撤退しても罰則の無い初心者用の依頼だと言った。

 デメリットとして訓練用の施設に居るモンスターは日によって異なる。一匹も居ない場合は不運としか言えない。逆に多すぎる場合もある。

 

「子供には無理でも後ろの連れは戦えるんだろう?」

 

 勝てるか負けるかは問題ではなく、経験することが大事だと言われたターニャ達。

 武器が無いのが気になるところだが、どうするかはターニャ達が決める事だ。

 

「武器はあるのかい、おチビちゃん。清掃の仕事で武器代を稼ぐのも手だぜ」

「……確かに……。情報提供はありがたいが……」

「見返りは求めてねーが、有名になったら何か(おご)ってくれ」

「了解した」

 

 随分と親切なのは何故なのか。ターニャからすれば不信感でいっぱいなのだが。

 この世界の風土なのか。

 それとも平和な世界だからなのか。

 


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