ラナークエスト   作:テンパランス

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#043

 act 17 

 

 次の日は立花をカズマ達に預ける事にしてターニャは一人でモンスター退治にいそしむ事にした。

 銅プレートで出来る事は少ないが自分の能力を確認する上では丁度良かった。

 午前はモンスター退治で午後はカズマ達のように街の見回りの仕事についてみた。

 同じ仕事ばかりでは他の冒険者の迷惑になると思われる。楽ばかりしてはギルドとして看過できない事態に発展するかもしれない。

 即応能力が試されていると思えば楽な方だ。

 いくら冒険者とはいえ安易に殺人を犯せば罰則が科せられる。そういうはぐれ者達になると国に追われる事になる。

 いくらターニャが人格破綻者だとしても国家に反逆する意思は毛頭ない。与えられた命令を十全に勤めることは至上の喜びだ。当然、仕事に対する評価は気にする。

 それに今は何だか休暇している気分で悪くは無い。

 元の世界に戻れないのが気がかりだが、それはカズマ達も同様のようだ。そして、同じ境遇に居る人間が他にも居るかもしれない。

 居たとしても元の世界に戻る手段はおそらくは持っていない。せいぜい共にこの世界で生き抜くすべを模索し続ける事になる、気がする。

 物思いに耽りつつ指定された道順に歩いていると人だかりが見えてきた。

 

「おいおい、あの青い娘っ子。よりもよって魔導王の部下にケンカ売ったらしいぞ」

「帝国内で騒動は起こさないでほしいわ」

 

 と、市民たちの悲壮な声が漏れ聞こえてくる。

 ターニャは背が低いので人ごみを通って進むしか確認が出来ない。

 軍から支給された装備なしで空を飛べるのか試していないが、色々と目立つ気がした。なので今は保留にしている。でもまあ、空を飛ぶ魔法がある予感がする。

 青い娘ですぐにアクアだと分かるのだが、どうして人ごみが出来るほどの騒ぎになったのかは今ひとつ理解できない。

 行き交う市民の多くは黒髪か金髪。冒険者でもない限り、派手な色の髪の毛は殆ど見かけない。

 

「街中にアンデッドが居るのにどうして私が悪者になってるの?」

 

 というアクアの声が聞こえてきた。

 街中にアンデッドモンスターが居る、というのは聞いていない。それが事実なら倒すべきだ。

 

「バカ! その人は魔導国の人だぞ。あんたら殺されるぞっ!」

魔導王様は温厚な人だけど……、さすがに不味いよ。ただで済むとは思えない」

「その『まどうおう』とは何者なんですか?」

あんたら魔導国のことを知らないのか!? 新興国家『魔導国』はバハルス帝国が後ろ盾になって建国した国で、魔導王はその国の王様だよ」

「屈強なアンデッドモンスターを使役するけれど我々の国とは友好関係を結んでいるんだ! どうしてくれるんだ!」

「な、なんでアンデッドなのに味方をするの……。モンスターだと思って倒しちゃいけないの?」

 

 泣きそうなアクアの声が聞こえてくるけれど、ターニャには現場が見えない。

 

「す、すみませんすみません。ほら、誠心誠意謝れば……」

「アクアの攻撃でアンデッドが滅びかけているんですが……」

「滅びる前になんとか癒せれば……」

「でも、確か負のエネルギーが回復だって聞いたわ。誰か信仰系でその手の魔法を扱える方はいらっしゃいませんか!」

 

 現場が騒然となっているのは理解した。しかし、アンデッドモンスターは敵ではないのか。

 疑問点がたくさん浮かぶが、とにかく現場を確認しなければ始まらない。

 

          

 

 小さな身体を懸命に動かして人の間を通っていき、ようやく現場に抜け出ることに成功する。帽子をかぶっていたら無くす自信があるほど人間が集まっていた。

 現場は丸く開けられていた。

 広場というよりは通りの一部だ。

 地面に顔を向けると煙を立ち昇らせている人影が一体、倒れていた。

 全身大火傷。ただ、話しを聞くにアンデッドだという事だから浄化魔法を受けたのかもしれない。

 長いスカートに両腕に太いガントレットを装備した何者か。

 

「……これがアンデッド……」

 

 人間の死体のモンスター。それは正しく動死体(ゾンビ)だ。

 それを倒すことに帝国市民は何故、うろたえているのか。

 

「申し訳ないが、この倒れているのがアンデッドモンスターなのですか?」

「ま、まあそうなんだが。魔導国の者で我々帝国とは友好関係にある。彼らは友好的な存在なんだ。そこらのアンデッドとは違う」

「それに、この方は確かアルファ様よ。とても聡明でいらっしゃる方で決して人を襲うような方ではないわ」

 

 市民は完全にアンデッドの味方のようだ。それはまるで洗脳されているかのようだ。ただ、偽っているわけではなく、アンデッドだと分かった上で言っているのが不思議だった。

 

「端的に言えばアンデッド反応を感じたアクアがターンアンデッドを使ったら、こんな騒動になったわけだ」

 

 と、本当に端的にカズマが言った。

 自称女神の力は相当な力を持っている、という事が証明されたわけだ。

 それにしても酷い有様だ。

 顔は判別できないくらい焼け(ただ)れている。

 

「バレないようにトドメを刺しますか?」

「何の騒ぎだ」

 

 と、重厚な声が辺りに響いた。

 それだけで市民たちは左右に分かれて後から来た人物を迎え入れる。

 ガシャ、ガシャと金属音を響かせるのは黒い全身鎧(フルプレート)に包まれた人物で赤い外套をなびかせ、背中に大きな剣を二本背負っていた。

 

「酷い有様だな」

 

 黒い全身鎧(フルプレート)の人物は倒れているアンデッドの側に駆け寄る。

 

「『漆黒』のモモン。我々は魔導王様のお怒りに触れるだろうか」

「私から説明しておこう。……それより、彼女をこんなに目に遭わせたのはお前たちだな?」

 

 と、モモンと呼ばれた黒い全身鎧(フルプレート)はアクア達に顔を向ける。カズマはすぐさま土下座する。

 ダクネスは剣を地面に突き立てたまま立ち尽くし、めぐみんはカズマのそばに待機し、立花はどうしたらいいか混乱しているようだ。

 

「滅びていないようだから治療を受ければ助かると思う。……全く、厄介な事をしてくれる」

「申し訳ありません。『漆黒』のモモン様!」

「なによ~。アンデッドが居たら退治するのは当たり前じゃない」

「その意見には同意するのだが……。それはあくまで危険なアンデッドの場合だ。魔導国のアンデッドモンスターは基本的に友好関係を結んでいる国の人間に危害は加えない条約を結んでいる」

「アンデッドなのよ。脳味噌が腐っている相手が約束なんか守れるわけないじゃない」

 

 と、腕を組んで口を尖らせるアクア。ある意味、とても豪胆な性格でターニャは苦笑した。

 その場において自分の意見を曲げないところは嫌いではない。

 ただのバカかもしれないけれど。

 

          

 

 アクアの言葉を聞きつつモモンは外套の奥から白い袋を取り出す。

 それは死体を入れる為に使う『安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)』というアイテムだ。

 効果は死体の保存。魔術師ギルドで金貨数枚で買える。死体を入れるのに最適。

 その袋にアルファと呼ばれる人物を丁寧に入れていく。

 

アダマンタイト級の冒険者たるモモン様。どうか穏便に済むよう取り計らってもらえないでしょうか」

 

 市民たちも自然と平伏していく。

 

「やめてください、皆さん。魔導王とはこれから会いますので、事情はちゃんと伝えて穏便に済むようにします。……しかし、彼女の状態から無罪放免とはいきませんが皆様に原因があるわけではないのは私が証明します」

「あ、ありがとうございます」

 

 平伏しなかった中にはターニャが居たのでモモンは彼女に顔を向ける。

 

「死刑に処されるのか?」

「それはまだ分からないな」

「そのアンデッドとやらは相当大事な人なのか?」

「……魔導王の側近の一人だ。戦闘メイドプレイアデス』の副リーダーを勤めている『ユリ・アルファ』という女性だ」

「……戦闘メイド。初耳だ」

 

 身体は小さいが力強い言葉使いにモモンは改めてターニャを見据える。

 

「……君達の声に聞き覚えがあるのだが……、が居たりするのか?」

「私は一人っ子だ。隠し子でも居ない限りは」

 

 モモンの質問にターニャは素直に答える。アクアはそっぽを向いたままだ。

 やはり聞き覚えのある声が他にも居るのかもしれない。

 捨て子という事だが兄妹については全く知らない。居ないともいえないが居たところで転移先に居る、というのもおかしなものだ。それに居たところで別に感動は覚えない。そもそも捨て子。更にサラリーマンの転生体だ。

 存在Xに復讐する為に生き延びている幼女の身体を持っている人間に過ぎない。

 

「では、皆さん。失礼します。いきなり街を破壊しには来ないと思いますが、絶望しないでいただきたい」

「どうか、お願いいたします」

 

 モモンとやらは教祖のような扱いになっている。

 見た目には冒険者。その正体はターニャにはうかがい知れない。

 どれほどの実力を持っているかなど大して興味は湧かなかった。

 

          

 

 アルファを入れた袋を両手で抱えたモモンが立ち去ると市民たちの怒りの矛先はアクアに向けられる。

 今後の対応次第では帝都が火の海に包まれる、とでもいうかのように。

 国の要人の側近をいきなり倒せば怒るのも無理はない。

 ことは外交問題に発展するかもしれない。

 ただ、ターニャにとって気になるのは魔導国はアンデッドモンスターを使役していることを市民たちが知ってて問題視しない事だ。

 倒すべきモンスターにアンデッドモンスターも入っていた筈だからだ。

 

魔導国のアンデッドと一般的なアンデッドは何が違うんですか?」

魔導国のアンデッドはちゃんと命令を受けているので無闇に暴れたりしない。今でも鉱山とかで働いているのを聞く。カッツェ平野に現れる骸骨(スケルトン)共とは違うんだ。とても賢いんだよ」

「知らない人からすれば区別しにくいけれどね。それはまあ、慣れだよ、慣れ」

 

 無闇にアンデッドだから討伐せよ、という風潮ではないのは疑問だが、街の人達は()()()いるようだ。

 全く、不思議な世界だ。と、ターニャは呆れ気味に思った。

 騒動が止んでアクアが開放されると滂沱(ぼうだ)の涙となっていた。

 

「全部、私のせい? たかがアンデッドをどうして皆は守ってるの? おかしいじゃない」

「そこらのアンデッドとは違うかもしれないぞ」

「確かにアクアはアンデッドだと分かれば見境無く浄化しようとするからな」

「だって敵よ、アンデッドは人間の敵で神の天敵」

「この国では大事にされている存在も居るんだろう」

「それより、この国の人間もアンデッドということはないのか?」

「そ、それは無いわよ。みんなはちゃんと生きている人間だわ」

 

 涙を(ぬぐ)いつつアクアは説明した。

 敵感知能力に()けているのかもしれない。特にアンデッドに対しては敏感なのかもしれない。

 アンデッドだから敵というのは短絡的かもしれない。とはいえ、モンスターは倒していいはずなのに守るというのは色々と矛盾している。

 バハルス帝国だけの問題なのか。

 ここが自分の良く知る世界ならば対処し易いのだが、ゲームの世界のような異世界では勝手が違うのか思考が十全に発揮されない。

 勉強すべき事柄はとても多そうだ。

 

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