ラナークエスト   作:テンパランス

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#046

 act 20 

 

 ターニャが仕事に勤しんでいる間、アクア達は今後の予定を話し合っていた。

 帝国で問題を起こした為に世間の冷たい目が気になってしまったからだ。

 国を出ることも考えなければならない。

 今のところ嫌がらせは無く、仕事も請けられるようだが居づらさは感じている。

 

「……それより爆裂魔法を!

「そういえばそうだったな。……派手に魔法が使える場所を探さないと……」

 

 おしっこが漏れる仕草と同様の震えでめぐみんは必死に訴える。

 身体は高熱に浮かされたように熱く火照っている。

 紅魔族は魔法に長けた種族で定期的に魔力を放出しないといけない。

 一般の人間よりも魔力が膨大で排出する必要がある。そして、めぐみんは爆裂魔法しか習得していないので発散する方法に難がある。

 いつもならば人気(ひとけ)の無い草原や廃城に魔法を放っていた。それが今は発散場所を見つけるのも一苦労となっていた。

 大規模魔法はとても目立つし、周りに迷惑を被る規模の災厄を振りまく。

 魔法の運用に帝国はとても厳しい。

 いくら魔法文化が発達しているとはいえ街中での爆発を容認するほどバカな国ではない。

 

「外に出る仕事を探してこようか。そういえば、入国料がかかるんじゃなかったか?」

 

 出入り口は検問所になっている。

 アクセルも外壁で守られた都市だが人の出入りに制限は無かったはずだ。その点は世知辛いのだが、財源確保は異世界だとしても必要不可欠な問題で国家運営の観点からも仕方が無いと思わなくもない。

 冒険者だからといってすんなりと素通りは出来ない仕組みに辟易するカズマ達。

 プレートメンバーカードを提示すれば個人情報の照会が早く済むだけで手数料はどうしても発生してしまう。

 例外的に税の免除などがあるらしいが、下っ端冒険者で免除される規定というものが何なのかは分からないが、かなり上位に登れば色々と分かってくる筈だ。

 

「冒険者の出入りにかかる料金は安いと聞いたぞ」

「……銅貨数枚程度でも毎日となるとバカには出来ないな」

 

 仕事の依頼でもないのに外に出るのは散財と変わらない。

 

「アクアは残る方が良いだろう」

 

 いくら自分は悪くない、と言い張っても友好国の要人を半殺しにしたのだから無罪放免とは行かない。

 この世界ではアンデッドモンスターとはいえ友好的にする法律があるのかもしれない。

 神や女神だからといって好き勝手していい理由にはならない。

 

「人を襲うモンスターなら倒していいんだからさ。元気出せよ」

「……後で役人に連れて行かれるかもしれないけれど……」

「め、女神の私がアンデッドに頭を下げるなんて出来るわけないでしょう」

「それで済むと良いけどな。留守番するなら構わないが……。一人で待っていられるか?」

 

 金を置いておくと一気に全部使いそうだし、一人にするのは色々と不安な気がする。

 アクアはとにかくトラブルメーカーだ。

 今までの経験から一人にするのはとっても危険だとカズマやダクネスは感じていた。

 

          

 

 カズマ達と行動する事になった立花は自分に出来る仕事を模索しつつ話しに聞き入っていた。

 ここにはノイズは居ない。荷物運びくらいなら出来るかもしれなかった。

 モンスター退治は今はまだ出来ない気がする。

 確かに自分は甘いかもしれない。いざという時に力が使えないでは後悔する。

 頭では分かっていても気持ちが決意を揺るがせる。

 

「清掃とか荷物運びならお手伝いします」

「あ、ああ。その時は頼む。……そんなに真面目に構えなくて良いぜ。あのターニャは軍人さんだから仕方が無いだけ。俺たちはただの冒険者。出来る事をすればいい」

「……はい」

「君の力は絶大だろう。だが、優しい心を持っている。それは別に悪い事じゃない」

 

 悪い事ではないけれど戦場では役に立たない。

 敵を倒せなければ多くの力なき者達が悲しみにくれてしまう。そして、自分は()()を良く知っている。

 困った時に唱える呪文『へーきへっちゃら』を胸の内で何度も繰り返す。

 モンスターを倒す以外にも自分の力は使えるはずだ。もちろん、強大な敵が現れれば自分はきっと戦う筈だ。

 

「そんなことより、早く外に行きましょう」

 

 と、めぐみんが催促してきた。

 外に出る依頼は銅プレートで請け負えるものの中には無い。今日はたまたま無かっただけかもしれないけれど。

 外出に関して制限は無い。ただ、手数料を取られるだけだ。

 念のために検問の兵士に尋ねてみた。

 

「一日で済むなら銅貨二枚だ。もちろん、人数分だ」

 

 日本で例えれば地下鉄切符代のようなもの。

 定期券などがあればもう少し楽なのだが。

 一日で済む、というのは往復料金のこと。普段は片道で銅貨二枚が相場となっている。これは他の検問所と共通である。

 ちなみに珍しいアイテムの鑑定を依頼することも出来る。その時は一回銀貨三枚と高額だが、帝国とトラブルを起こしたくない請負人(ワーカー)などがよく利用する。

 

「帝国内に家を持つ者が他の都市や村を頻繁に往復したりはしないからな」

 

 帝国の近くにある村まで早くて一日がかり。尚且つ外にはモンスターや野盗が現れやすい。一般の人間は用も無いのに出たりしない。

 帝国の首都『アーウィンタール』はかなり広大な敷地面積を持っている。

 数百万人が暮らす大都市だ。

 他の都市に行く場合は人を雇うのが一般的だ。もちろん、馬車も入る。

 日本とは何もかもが違う。

 村人は領主から通行手形を貰う事があるがタダではない。

 

「……今日はとりあえず、払っておこうか。毎日となると仕事のついでとなるな、めぐみん」

「おおう……。守銭奴(しゅせんど)の街などいつでも焦土(しょうど)に変えてあげますよ」

「こらこら」

 

 国にケンカを売れば確実に牢獄行きだ。そしてなにより貴族の知り合いが、この世界には居ない。

 後ろ盾の無い自分たちを守ってくれる者が居ないのだから迂闊な事は命取りだ。

 

「もし一日で戻るなら通行手形を貸す。いいか、有効期限は一日だけだ。ここに外出する者の氏名を記入しろ。文字は書けるか? 自分だと分かれば王国語でも構わないぞ」

 

 帰りに手形を提示すれば料金は発生しない。手形を無くせば入国料を払う事になるだけで弁償のような賠償金は発生しない。使い捨てのアイテムのようなものと兵士は説明してくれた。

 今回の出国者はカズマとめぐみんの二人。

 残りは街に戻り仕事探しに勤しむ事にした。

 


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