ラナークエスト   作:テンパランス

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#047

 act 21 

 

 ダクネス達と分かれたカズマは兵士の説明にあった街から比較的、離れた森に向かう。

 見晴らしがよく駆け出し冒険者の為の施設がいくつか用意された場所だが、今は誰も居ない様だ。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の為の施設もあり、地面に打ち付けた杭がたくさんある場所に向かう。

 (まと)があると標的に向けて放ち易くなる。特に飛び道具系は。

 今回使う魔法は大規模に辺りを吹き飛ばすもの。なので、それ用の場所で魔法を使う必要がある。

 森の近くには大きな石がいくつか転がっている場所があり、普段は動像(ゴーレム)を召喚する練習に使われるらしい。あと、第二位階以上の魔法の使用など。

 位階が上がれば効果も大きくなる。

 特に帝国最強と言われる魔法詠唱者(マジック・キャスター)は第六位階の使い手だ。

 めぐみんは位階魔法についての知識は無く、調べてもいなかったので理解していないが、噂話しでは聞こえていた。

 

「丁度いい岩がありますね。ここにしましょう」

 

 森の他には小さな丘もあり、様々な地形を覗かせていた。極端に高い山は遠くに行かないと見えない。

 南方に眼を向ければ岩山の群れが姿を現す。飛竜(ワイバーン)を使役する部族が住んでいるらしい。

 更に南下すると竜王国と亜人の国を含む六大国の領域が見えてくる。

 獣人(ビーストマン)牛頭人(ミノタウロス)妖巨人(トロール)

 スレイン法国と争う森妖精(エルフ)の国もあり、多種多様な国があるようだ。

 砂漠地帯には蠍人間が居る、とか。

 伝説の生物に過ぎない存在が現実に文化を持って生活している世界。

 カズマ達にとっては新たな異世界だが、直接確認しないと実感出来ない事がたくさんあった。

 

「それはそれとして……。では、溜まりに溜まった我が爆裂魔法を……」

「その前にモンスターの確認だ」

「安全確認は大事ですよね」

「そそ。屈強なモンスターが居たら逃げられるのか。俺たちはまだ知らないからな」

 

 前の世界は駆け出しの町だから大したモンスターは居なかった。だが、ここはアクア達の管理が及んでいないような世界だ。何が起きるか分からない。いや、こここそが本来の厳しい異世界だとも言える。

 口先三寸で切り抜けられる保証はどこにもない。

 

「よし。確認終わり」

「では、改めて……」

 

 めぐみんは杖を目標の大岩に向ける。

 紅魔族にとっての最大火力を誇る爆裂魔法

 多くの魔力を消費し、放つまでに長い呪文を必要とする。そして、一気に枯渇した時は身動きが取れなくなるという弱点がある。

 爆裂魔法は一日に一回が限界だ。

 放った後は無防備になるので毎回、カズマに背負われて帰宅する。

 

「……黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅(しんく)混淆(こんこう)を望みたもう」

 

 静かに呪文を唱え始めるめぐみん。

 彼女が持っている杖の先端部分にはまっている宝石に魔力が不思議な光りを放ちながら集まっていく。

 

「覚醒の時来たれり、無謬(むびゅう)の境界に堕ちし(ことわり)無形(むぎょう)の歪みと成りて現出せよ。……踊れ。踊れ。踊れ。我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり! 万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれっ!

 

 呪文を唱え終わり、杖を目標に向ける。

 

「エクスプロージョン!」

 

 その掛け声の後、目標である大岩に無数の魔方陣が垂直方向に積み重なっていく。

 それから数瞬もたたずに魔力は弾ける。

 

          

 

 大岩を基点として立ち昇るように爆発する。その光景はとても煌びやかだった。

 爆裂魔法は局所的に対象を粉砕する。ゆえに街全てを範囲に収めるほどには広げられない。

 それでも大きな建物くらいは消し飛ばせるほどの威力だ。

 モクモクと立ち昇る煙り。中心地点の大岩は粉々に砕け散っていた。

 火属性なのか赤く焼けた(あと)が円を描くように広がっていた。

 

「ふっ、ふふ。どうでしたか、私の爆裂魔法は」

 

 魔力を消耗しためぐみんは地面に倒れ伏したまま笑顔をカズマに向ける。

 

「……う~ん。七十五点」

「あらら」

「威力だけは百二十点だが……。美しくないな」

 

 その日の体調により爆裂魔法の威力や立ち昇る煙りの形が違うらしい。そして、それを毎回、カズマは採点していた。

 何かしらの目標がある方が飽きないと思ったからだが。

 モンスター退治に使う場合は長い呪文が障害となるし、一回で力尽きるので使いどころが難しい。

 

「はっはっは。凄いすごい」

 

 と、少し離れた場所で手を叩く音と声が聞こえてきた。

 すぐにカズマは顔を向ける。

 そこに居たのは白銀の全身鎧(フルプレート)に身を包み、頭部も白銀の面頬付き兜(クローズド・ヘルム)で素顔が隠されていた。そして、赤い外套をたなびかせ、小さな盾を持つ騎士風の人物だった。

 先日現れた『モモン』に雰囲気が似ている、気がした。

 背丈は平均的な大人ほど。

 

「中々凄い魔法じゃないか。……一回こっきりのようだね」

「何者だ、あんた」

「正義の使者」

 

 と、言いながら腰につけていた鞘から剣を抜き放つ、と同時に背中に『正義降臨』という大きな漢字が現れた。

 それはカズマにも見覚えがある日本語

 

「別に戦いに来たわけじゃないよ、青年」

 

 武器を収めて白銀の騎士は両手を広げる仕草をした。

 相手が完全武装しているのでカズマが抵抗してもどうにもならない気がした。この場合は逃げるところだが、どう対処すればいいのか、必死に頭を働かせる。

 金を持っていそうな姿ではないから物取り、という線は考え難い。

 転移して間も無い内に殺される理由があるのか、考えてみるとすぐにアクアの姿が浮かんだ。

 そうでないことを祈るしかない。

 全身鎧(フルプレート)だからモモンの関係者というのは深読みしすぎだ。

 この世界の冒険者で全身鎧(フルプレート)くらいは珍しくもない。ただちょっと驚いたのは事実だが。

 それに冴えない主人公というのは少し自覚している為、そんな自分に気軽に話しかけるような奴は大抵がろくでもない奴なのはお約束だ。

 カズマは大抵の残念フラグを熟知している。これでもニート生活が長く、ネットゲームではと呼ばれたこともある。

 その経験から白銀の騎士痛い奴に違いが無いと感じた。

 他の女神に良い武器をもらって調子に乗る誰かさん(ミツルなんとかさん)の顔が浮かぶ。ただ、名前は忘れてしまった。

 こういう手合いはニート否定派が多い。正義を振りかざしてモンスター討伐しよう、だとか。一緒に魔王を倒しに行こうとか。生活態度についてクドクドと説教をたれるタイプだ。

 正義については背中の文字で確認したけれど。

 本物の残念さんかもしれない。

 相手にしたくないが、向こうから寄ってくるから仕方が無い。無視しても追ってくるし、ウザイことこの上ない。

 適当にあしらうのが正しい方法かもしれない。

 

「街に戻るまで護衛してあげよう。それとも彼女を私が背負おうか?」

「いいえ。親切はありがたいんですけど……」

 

 変態そうだから関わりたくない、と胸の内で言うカズマ。

 いかにも騎士という姿に不信感があるのはダクネスの影響だからか。それとも名前を忘れたご立派な騎士(イトウなんとか)か。

 ダクネスは見た目には立派な聖戦士(クルセイダー)なのに攻撃が全く当たらないし、防御に特化したスキルしか持っていない。敵の攻撃を一身に受けることを喜びとする真性マゾ()がある。

 もう一人は『魔剣(まけん)グラム』という自分専用のチート武器を持つ自称勇者。特に語ることも無いか、とカズマは思考からかき消した。

 

「では、街に戻るまで私は君たちの後ろを勝手に守るとしよう。……どうせ帰るのだろう?」

「ええ、まあ……」

 

 白銀の騎士は剣を振り回したりせず辺りを軽く見渡していた。

 見た目にはかっこいいのだが中身まで立派かどうかは分からないものだ。だが、ここは駆け出し冒険者の町(アクセル)ではない。

 あの街の冒険者ギルドでは見かけない人物なのは分かった。

 めぐみんを背負い、帝都に引き返すカズマ。その後ろを同じくらいの歩幅で着いてくる白銀の騎士

 

「どの道、私も帝都に行く予定なのだからいきなり走ったりはしないよ」

「どうも」

 

 声の感じでは男性だ。首が取れているデュラハンベルディアとは別人なのは理解した。

 先に行かせるべきなのか。自分たちを守る気でいるなら先行はしないと思うけれど。

 後ろから見られている、というのは気持ち悪い。

 

          

 

 会話も無く帝都の検問所に到着する。

 物取りではないようだが緊張はした。あとめぐみんは疲労で眠ってしまったらしい。

 手形を提示して街に入る。その後で白銀の騎士も一緒に通ってきた。

 

「では、またどこかで会おう」

 

 それだけ言って騎士は去っていった。

 本当にただ後ろを歩いていただけのようだ。

 一気に疲労がカズマを襲う。

 変人とは関わりあいたくないと思っていたが、変に緊張して損した気分になってしまった。それとお約束の展開が無かった分、期待はずれ感があるが何も無かったのであれば、それはそれで問題は無い。ただ、今までが異常だっただけだ。

 毎日が賑やかなイベントの連続だった。それが今は自分の予想を超えて不測の事態となっている。

 自分の常識が通用しない。異世界だから別段、それは当たり前かもしれないけれど。

 そんな気分のまま宿屋に戻ると人ごみが出来ていた。

 確認するまでもないがアクア関連だと思われる。

 野次馬よりも鎧を来た兵士の数が多い事から国が直々に捕縛に来たのかもしれない。ここは他人を装う方がいいと判断する。

 一番悪いのはアクアだけで立花やダクネスは関係ない。

 

「暴れるな。魔導王様が直接事情を聞きたいと仰せなのだ」

「わ、私は無実ですぅ! カズマ~!」

 

 名前を呼ぶな、バカ。と建物の陰に潜むカズマ。

 巻き添えで牢屋に入れられたくはない。

 ここでアクアを助けたところでメリットはおそらく無い。事は国が関わることなのだから。

 アンデッドモンスターの討伐。普通ならば責められるべくもない。だが、この国では友好的なアンデッドモンスターが存在するという。そして、そのアンデッドを一方的に滅ぼそうとした。当然、悪いのはアクアとなってしまう。

 それに市民たちも承知している相手だ。実はアンデッドであることを隠したモンスターなんですよ、という場合でもない限り自分達に出来ることは何も無い。

 分があまりにも悪すぎる。

 教師をしていて子供たちにも大人気。尚且つアンデッドであることを公表している相手だ。どうやって弁解すればいいというのか。

 そのアンデッドがアクアに危害を加えたという証拠でもあれば助けられるのか。

 雰囲気的には圧倒的に不利過ぎる。

 兵士達に引きずられるように連れて行かれるアクアの後をそれとなく追ってみる。いくら駄女神とはいえ冒険者の仲間だ。見捨てることは出来ない。

 


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