ラナークエスト   作:テンパランス

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#052

 act 26 

 

 今日のところは相手の姿や印象だけで満足する事にしてカズマを地上に返すことにする。

 帝国での立場については穏便に済ませるように国や市民に言っておかないと暮らし難くなる。

 いきなり放り出すのも可哀相だし、と。

 少なくともペロロンチーノは融和を望む。

 それから鳥人間(ペロロンチーノ)の命令で現れた『転移門(ゲート)』によってカズマは帝国に送り返された。

 別にナザリックで見聞きした事を口外するな、という脅しは無く、黙って解放されたのはカズマにとって少しばかり気がかりだった。

 地下空間だと思われる場所から介抱されたカズマは自分が生きていることに深く感謝した。

 

「あんなのと戦えるのか。絶対無理じゃないか」

 

 特にこちら側の手の内を知るような相手は苦手だ。

 異世界の生物だから日本カルチャーを知らない。普通ならばそれが強みでもある。だが、今回は相手方も日本カルチャーだかサブカルチャーを熟知している、気がした。下手な小細工が出来ない。

 見た目は化け物なのに。

 それにニート冴えない主人公を良く知っているな、と驚いた。

 

「……俺一人でどうにかできるとも思えない……」

 

 味方が欲しい。少なくとも相手の戦力は未知数だ。

 国を作る相手なのだから。

 

          

 

 意気消沈するカズマが宿に戻るとアクアが部屋に居た。

 

「ねえねえ聞いてよ、カズマ! 魔導国の王様ってアンデッドなのよ。それも飛び切り邪悪なやつ。私のターンアンデッドに耐えうるほどなんて聞いてないんですけど~!」

 

 と、大きな声でまくし立てる駄女神アクア。

 魔導国の王様がアンデッドでも今なら別に不思議は無いかな、と思わないでもない。それよりもよく無事に解放されたなと驚いている。

 

「あんなアンデッドは見たこと無いわね。たぶん、リッチーなんか目じゃないほどに。何なのかしら、この世界……。恐ろしくレベルが高そうなんですけど」

 

 アクア達が居た世界での『リッチー』は最上位の強さを持つアンデッドモンスター。別名には『ノーライフキング』とも呼ばれている。

 どれくらい強いのか、実際に戦ったことの無いカズマには想像も出来ないのだが、とても強いらしいことはよく聞いていた。それより強いアンデッドモンスターと言われてもピンと来るはずも無い。

 

「それより呼び出されて慰謝料を請求されたんじゃないだろうな? この世界でも借金生活は御免だからな」

「私は女神なのよ。アンデッドの要求を受け入れるわけ無いじゃない」

 

 と、真顔で言う残念女神。

 それだけで嫌な予感がするカズマ。

 

「そもそもなんだ、魔導国って。あんなのと戦わないと元の世界に帰れないとか嫌だぞ」

 

 ペロロンなんとかから帰る時に『我々の邪魔はするなよ』とお約束のような事は言われなかったな、と思い出す。

 あまり警告は受けなかったが感想としては自分達の話しを聞きたがっていた気がした。それをネタにすれば切り抜けられることがあるかもしれない。だが、相手はかなり上手(うわて)だ。簡単にはいかない筈だ。

 それらの苦労を台無しにするのが目の前の駄女神(アクア)なのだが。

 

「他のみんなが帰ってきたら今後の事を相談しようか」

 

 周りを見ればめぐみんやダクネスの姿が無い。

 立花という人は自分に出来る依頼でも探しているのかもしれない。

 

「とにかく今は情報集めだ。魔王軍の襲来とか聞かないけれど……、この世界で俺たちは何をすればいいんだ、そもそも……」

「知らないわよ。ここは私の管轄外だし」

「だぁー、もう! 役に立たない女神だな!」

 

 こんな調子で冒険が出来るのか。

 前の街よりもレベルが上がってて攻略できそうに無い予感がする。

 

          

 

 午後になり、空が暮れ始めるころに仲間たちが全員集まった。

 その中にはターニャの姿もある。

 共同で宿泊する事で宿代を浮かせている以外に協調性は見られない。

 

「俺たちはこのままでいいのか」

「いいもなにもアクセルに戻れないのですし」

「そもそもどうして転移したのか。分からない事だらけだ」

 

 共通している事は何らかの爆発事故に巻き込まれた、というくらいしか分かっていない。

 新しい女神によって別の世界に転移するのであれば分かり易いのだが。

 

「ここも無数にある異世界の一つかもしれないけれど、アクシズ教団エリス教団が一人もいないのはおかしいわ」

「まあ、それはそうなんだろうけれど……。スレイン法国っていう宗教国家とはどんな国なんだろう……」

信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が多く居る。世界に人間の為だけの国を創ろうと頑張っている。そんな国らしい」

 

 ターニャの知識では自分達以外の人種は皆殺しでいいと思っている狂信的なものに聞こえる。

 実際、スレイン法国は『亜人狩り』の為に特殊部隊を持っているとか。

 ナチスまたはドイツのような軍隊を要する国家というわけでは無さそうだが、怪しい国である事は確かだ。

 剣と魔法の世界世界大戦というのは見ものではあるけれど。

 ターニャ達が一息ついている頃、世界にまたも異変が起きる。そしてそれは静かな変化であるために誰にも気付かれないほどだった。だが、確実に異常事態が起きていることだけは確かだ。

 平原に放り出された形で転がるのは無数の人影。

 一人は銀髪の長い髪を持ち、頭頂部付近には猫科を思わせる耳があった。

 腰の部分には尻尾もある。ただ、それ以外は人間の女性と遜色の無い身体。

 他にも桃色の髪に犬科の耳と尻尾。栗色の髪に栗鼠(リス)の耳と大きな尻尾をそれぞれ持つ人間の姿をした存在が居た。

 更に腰から白い羽根を覗かせているが、それは服装の装飾品で、それ以外は金髪碧眼の女性が一人。

 とにかく、大半が女性。というか生物学的には女という存在だけ召喚されたような状態だった。

 他にも青黒い髪の女性が居た。

 どれも見慣れない服装であり、武装を持っている。

 

「くっ、なんだいきなり……」

「レオ様……。お側に居るのですか?」

「うちも居るぞ」

「……なんか同じ声の人が居る……」

瑠珈(るか)? あなたも居るの?」

「はい、クローシェ様」

 

 それぞれ立ち上がり、身体の汚れなどをほろい辺りを見渡す。

 見覚えがありそうで無さそうな雰囲気だった。

 

「……こんなに広大な土地は見た事がありませんね」

 

 金髪のクローシェと呼ばれた女性は大きな胸を張り出しつつ一息ついた。

 少なくとも自分の知る土地はとても小さいものだった。それが果てが無いほど平原というのは夢でも見ているのではないか、という事態だった。

 

「おお、ミルヒにクーベルも無事か」

「な、なんとか……」

「あの猫耳さん、私の声にソックリです」

 

 と、言ったのは瑠珈(るか)という人間の女性だった。

 

「なんじゃ、お主らは?」

 

 白銀の長い髪を軽く撫で付けるのは猫耳の女性。

 目つきがきつく、獰猛な肉食獣を思わせるが顔は人間と大差ない。

 服装は軽装ではあるけれど各所に厚い防具を身につけていた。

 ただ、全員がどこかしらボロボロの状態で何かの爆発事故に巻き込まれたような有様(ありさま)は共通のようだった。

 

「あら、ほんと。瑠珈(るか)にそっくりね」

「他にも居るかもしれないが……。いや~、しかし。ここはどこなんだ?」

「さあ? 全然、見覚えの無い土地のようです」

 

 五人の女性達が当たりを見回していると遠くに人影を見つけた。自分達と同じように倒れていたようだ。

 

「おお、あれはご先祖様ではないか?」

 

 と、栗鼠の女の子が言った。

 

「アデライド様か?」

 

 獣娘たちは早速駆け出す。

 その様子を眺めるクローシェ達。

 

「どこもゲカしてない、瑠珈(るか)?」

 

 妹に声をかける優しさでクローシェは瑠珈(るか)の身体を頭から足元まで眺める。

 

「大丈夫ですよ、クローシェ様」

「……誰も居ない時は呼び捨てでも構いませんのに」

「いやはは……。クセはなかなか抜けないものですよ」

「それにしてもここはどこなのかしら? メタ・ファルスでもソル・マルタでもないのは確かね」

「……延命剤(ダイキリティ)が無い。アイテムとか無くなってます」

「なんですって!? ど、どうしましょう……。まだ猶予はあるはずですわよね?」

「そうなんですけどね~。売ってるかな……」

 

 クローシェは自分の服を再確認する。

 アイテムらしいものが一つも見つからない。

 あるのは服のみ。

 

「……あ~、きっとあの料理のせいですわ。変なところに飛ばすほど爆発したのは……」

爆発料理()()()()()()じゃないかな。それより、移動しましょう。とにかく、人の居るところに」

「……お姉ちゃん……。私、泣いていい?」

 

 クローシェは気弱な声で瑠珈(るか)に言った。

 

「今だけだよ、聆珈(レイカ)……」

 

 身長的にはクローシェの方が高いが瑠珈(るか)はそんな彼女を優しく抱きしめる。

 見知らぬ土地に飛ばされて不安になったというよりは自分の想像を超えた現象にただ悲しさを覚えただけだ。

 無くてはならない大事なアイテムが無い今、言い知れない不安が襲ってきている。もちろん、それは瑠珈(るか)にも言える事だ。

 


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