ラナークエスト   作:テンパランス

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#053

 act 27 

 

 異変はとどまる事を知らず。

 畑に頭から突っ込んだ状態になってしまった()()()が居た。しかも仲良く揃って。

 

「ぷっはっ! いきなりなんだ、ここは!」

「おう、無事か、雪音(ゆきね)

「泥だらけだけどな」

 

 口に入った泥を吐き出しつつ悪態をつく白金の髪の女性と青く長い髪の女性は上半身が泥だらけになっていた。

 年齢は十台中盤以降。

 

「……女性の歳を推定するな」

「大雑把ならいいじゃん。老婆とか言われるよりマシだぜ、先輩」

「ま、まあ、そうなんだがな」

「それにしてもあのバカ(立花)を探していたら、こんなところに飛ばされるハメになるとは……」

「案外、運がいいかもな。立花がここに居る可能性だってある」

「それっていいのか? うちらまで迷子になったかもしれねーのに」

「毒を食らわば皿までという。なるようになるしかあるまい」

 

 と、古風な言い方をする青い髪の女性。

 

「……で、隣りに居る人は誰なんだ?」

 

 同じく田んぼに頭から突っ込んでいた女性が苦笑していた。

 

「信じたくは無いが……。(かなで)か?」

「そうらしいね。てっきり死んだものとばかり……」

 

 オレンジ色の長い髪の毛に野生児のような元気だけがとりえの。

 

「野生児で悪かったな」

「……絶唱(ぜっしょう)を使った後、粉々になって消えたはずなのだが……」

「あれじゃない? 死後の世界ってやつ」

「……笑えない冗談だ」

 

 だが、しかし、と風鳴は思った。

 確かに死んだ筈の人間が居るのだから死後の世界というのも否定しきれない。という事は自分たちも死んだのかという疑問が湧く。

 

「泥だらけのままより、出ない? 底なし沼だったらヤバイし」

 

 奏という女性の言葉に二人共頷き、ぬかるむ畑の中を移動する。

 水田(すいでん)なので歩きにくかった。

 

「泥って放っておくと固まるから、その時にほろうのが正しいやり方らしいよ」

「へー。……先輩、その人誰なんです?」

「私の前のパートナーだった『天羽(あもう)(かなで)』だ。ガングニールの前の装者だ」

「ってことはあのバカの先輩?」

「まあ、そうなるな」

 

 天羽は畑から出た後、軽く首を左右に倒しつつ周りを見渡す。

 ここは何処かの畑なのは理解した。そして、とても静かなところだった。

 農村は遠くにあるようだが現在位置が分からない。

 

「酷い目に遭ったデス~」

「キリちゃん、泥だらけね」

「あら、貴女達も水田(すいでん)ダイブ?」

 

 と、声をかけてきたのは三人の女性達だった。

 

「……どうやら確定のようだ」

「あのバカはここに居る。そうじゃない方がおかしいくらいに」

「あ、初めまして、天羽と言います」

「マリアです」

 

 天羽はにこやかに泥だらけの顔のまま挨拶を交わしていく。

 彼女達に共通するのは首にかけられた『聖遺物』の欠片を結晶体に封入した『アームドギア』を形成するペンダント。

 つまり全員がシンフォギア装者ということになる。

 

「奏が居るならマリアの妹も居たりするかもな」

「はっ? どうしてそう思うデスか?」

「そこに居る奏は一度死んでいるからだ。こちらの世界で転生しているかもしれない、ということだ」

 

 死者の国よりは転移とか転生という話しにしたい。そうでなければ自分たちも死人ということになってしまうし、認めたくない。

 仮に死者の国だと仮定するならば未練がたくさんある。

 雪音達も一緒というのが疑問ではあるけれど。

 

「死人……デスか?」

「人をゾンビのように言わないでくれ。これでも混乱してるんだから」

「でも、セレナの姿は無いようだわ。……死者というのは事実なの?」

絶唱(ぜっしょう)を使って木っ端微塵。私の腕の中で砂と化したところを見ていたのだから確定事項だ」

「あははは。そんなことになったんだ」

「笑い事ではないがな。まずはちゃんと紹介しておこうか」

「あたしは天羽(あもう)(かなで)ガングニール装者だ。よろしく」

 

 そして、それぞれ自己紹介を交わしていく。

 一応、辺りを捜索してみたがマリアの妹の姿は発見できなかった。

 

          

 

 風鳴(かざなり)(つばさ)。高校三年生。

 聖遺物天羽々斬(アメノハバキリ)』のシンフォギア装者で歌手。

 

「……こんな簡略化した紹介でいいかな?」

「いいんじゃない。細かい設定を言われても覚えられる自信ないよ」

 

 天羽(あもう)(かなで)。以下略。

 

「略……。改めて言うほどでもないか……。翼と組んでた相棒さ」

 

 雪音(ゆきね)クリス

 聖遺物イチイバル』のシンフォギア装者

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ。六人の中で唯一二十歳超え。

 

「年齢は非公開に出来ないの?」

「マリアさん以外は十台後半ということで……」

「下は十五歳から」

 

 聖遺物ガングニール』と『アガートラーム』のシンフォギア装者

 

ガングニールは今は響さんに譲渡したからアガートラームがメインね」

 

 (あかつき)切歌(きりか)。十五歳。

 聖遺物イガリマ』のシンフォギア装者

 月読(つくよみ)調(しらべ)。十五歳。

 聖遺物シュルシャガナ』のシンフォギア装者

 

「……切歌デス」

「……緑がキリちゃんで大人しい桃色が私、月読(つくよみ)調(しらべ)です。武器はソーサー」

調(しらべ)ロボも出せたりしま~す」

「あたしは重火器系だ」

 

 と、雪音は言った。

 

「私は刀剣で奏は槍。ここには居ない立花は(こぶし)だ」

 

 風鳴は刀を振る動作で答える。

 

「で、その()()()()って誰?」

 

 天羽は新たなシンフォギア装者となった少女の名前は知らないので首を傾げた。

 大事な事だと判断した泥だらけの風鳴はその場に座り込む。そして、全員にも座るように合図した。

 

「どうせ、汚れている。とにかく、落ち着く意味でもな」

「オーケーデス」

「……この子、日本人なのに片言なの?」

「個性デス。あと……、普通に喋れますよ」

「……ごめん」

 

 マリアを含めて全員が水田近くの地面に座り込んだ。

 風鳴は正座で天羽は胡坐(あぐら)をかく。座り方については特に言及されなかったので自由に(くつろ)ぐ形となっていた。

 

「奏のガングニールの破片が少女に当たったことは覚えているか?」

「もちろんさ。ああ、あの子がたちばなって言うのか」

「そうだ。胸に食い込んだ聖遺物が立花と適合して装者となったんだ。それからの快進撃は一日では語れないかもしれない」

「へー。それはすごい。あたしは命削って手に入れた力なのに……。あの子はお(こぼ)れで……」

「嫉妬はみっともないわよ。前任者」

 

 と、マリアが鋭い目つきで天羽を睨む。

 自分が望んでも手に入らない力を妬むやましさは理解しているつもりだ、と言いそうになるほどの目力(めぢから)を込めて。

 

「立花さんは確かにガングニール装者になったけれど……」

「まあ、待て、マリア。事情を知らない者からすれば妬んでも仕方が無い。私だって他人に使われれば妬みもしよう」

「……みんな誰か彼かを妬んだ経験者って感じね」

 

 月読の言葉にそれぞれ身体をはねさせる。

 身に覚えがある光景が脳裏を過ぎったのかもしれない。

 とにかく、色んなことがあったと思い出話しをするような雰囲気になってしまった。

 

          

 

 自己紹介を終えたのだから次に自分達がすべきことは現地調査という事で落ち着いた。

 田畑があるという事は人間が住んでいる筈だ。

 広い水田地帯は全く実に覚えは無いけれど、進むしかない。

 

「で、ノイズとかどうなったの?」

「ああ、そうだったな。元凶は駆除した。アルカ・ノイズとか出て来たが……。日本での騒動は落ち着いている」

「そうか。思ったより装者が居て安心した」

「……うちら絶唱使っても木っ端微塵にならなかったこと教えた方がいいんじゃないか?」

 

 雪音の耳打ちに風鳴は苦笑を浮かべる。

 過ぎ去った過去は取り戻せない。それはきっと天羽も理解してくれるはずだと思った。

 装者の命を削る最終手段たる絶唱は立花の機転により使用しても死ぬ危険性はかなり低くなった。それでも莫大な力を生み出す力は今も安易に使えはしない。

 

「あたしが死んでいた間に何が起きたか、別に無理して言わなくていいぜ。万事解決したんなら、それでいいじゃねーか」

 

 と、男っぽい喋り方をする天羽。

 

「貴女がそれでいいなら……。では、人家を見つけましょう。服を何とかしないと」

「でも……。後継者が出来たってのはこそばゆいな」

「奏に負けず劣らずの元気が取り柄という娘だ」

「いいねいいね~」

 

 さっそく立ち上がる天羽は胸のペンダントを掴んで、そして、気付いた。

 

「服は再生成した方が楽なんじゃないか?」

「そうなんだが……。風呂には入りたいな」

「この人、意外と頭いいデスぅ」

 

 豪快に笑う天羽。

 適合係数の少ないものはアームドギアを使おうとするとバックファイア効果を受けると言われている。短時間でも苦痛を感じるかもしれないので使いどころを誤るのは命取りになる。

 

「安易に使用して取り返しがつかなくなっては困るな。ここは素直に汚れたまま移動しようか。水田に落ちた、という言い訳が出来るから」

「そうかい? じゃあ、行こうか」

「……(おとこ)らしいデス」

「どことなく立花さんに似てるかも」

 

 泥だらけの女性六人は家を求めて歩き出した。

 


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