ラナークエスト 作:テンパランス
広い平野なので人家を見つけるのは簡単だと思っていたが果てが見えなくて挫折しそうになった。
都市部に住んでいた女性陣はど田舎に驚嘆する。
敵性体の姿は見えないけれど、人の気配が無い広大な地域というのは新鮮なものだった。
「……あ~もう! どこまで続くんだよ」
「……あーもう。そういう由来で?」
「違うと思うわ、キリちゃん」
「……うん。どう見ても東京じゃないな。こんなに空気は綺麗じゃなかった気がする」
「空気自体は存在するから……。どこかの地域なのでしょうけれど……」
「あたしが空を飛んで確認してきてやるよ。それなら文句は無いだろう?」
と、雪音が言った。
飛行に特化したアームドギアを得意とする彼女の意見を認める事にした。
今は少しでも現在位置を知る必要があった。
「後輩たちは地上を任せるぜ」
「……とは言っても三百六十度に敵影なし。後は地面の下か空くらいだと思うけど」
暁達の言葉を聞きつつ
「キリター、イチイ~バール、トローン」
重火器に特化したアームドギアは両手にガトリングガン。背中からミサイルを生成したりする。
基本武装は銃器が中心の遠距離型。赤を基調とし、身体のあらゆるところが武器庫となった姿をしている。
装者の意思により形態を変えるため、決まった形は最初だけとなる。
「おー、初めてみるシンフォギアだ。イチイバルっていうんだ」
「奏は私以外は初めて見るものになると思うぞ」
「……あー、そりゃそうだったわ」
笑いながらも空を飛ぶ雪音から視線を逸らさない。
自分の居ない間にも活躍する仲間が居たことに安心した。
絶唱によって死んだ事はほぼ間違いないけれど、せっかく風鳴に会えたのだから消えるまでは付き合ってもいいと思った。
その前に死んだのが事実だとしても首にかかっているペンダントは何故、
おそらく使用できる気がするのだが、と。
「畑が広がっているだけで家が全然ね~な。というか、本当にここはどこなんだ?」
十メートルずつ普通するのだが平野の果てが見えない。
部屋の他に森が見えているのだが、それも広い。
道は獣道のような舗装されていないものなら見えている。ずっと長く続いているけれど。
五十メートル附近でようやく人家が見えてきた。それと人家に向かって歩く人影も発見できた。
「けっこう遠いな、こりゃ」
スカート部分から火を噴きながら観察を続ける。
上空に居るけれど攻撃の気配は無い。
それどころか電線やら戦闘機の姿も無い。
† ● †
一旦着地し、人家の方向を伝える。
およそ目算で十キロメートル以上はあるかもしれない。それほど広い地域だった。
「……
「なら
「小石を踏むと痛いデス」
「靴擦れよりはマシかもしれないな。それとも先輩であるあたし達が後輩共を担いで移動した方が速かったりしてな」
「それでいいならガングニールを使ってもいいぜ」
「現場まで遠いのならば仕方が無い。しかし、奏……。大丈夫か?」
「そんなのやってみなきゃ分からねーだろ。ほら、後輩共。うまくいったらあたしに感謝しろよ」
「もちろんデス」
「よろしくお願いします」
「そっちはゾンビ先輩に任せた。こっちは二人でマリアさんを担げばいいのか?」
「そうね。おんぶの方がいいかしら」
現場まで歩き続ければきっと靴擦れで血だらけになるか、歩けなくなってしまう。
乙女の素足はそれほど丈夫ではない。
「ガトゥランディス……」
「それ絶唱デース!」
「ああ、間違えた。わりぃ、わりぃ」
絶対にわざとだ、と声には出さなかったが風鳴は呆れてしまった。
賑やかな仲間というのは悪い気はしないが、意外とまとまりがないものだなと思った。
「では、改めて。本家本元のガングニールの雄姿を見せてやる。……クロ~イツァル、ロ~ンツェル、ガングニール、ヅィ~ル」
天羽のアームドギアは立花のオリジナルともいうべきもので上半身はオレンジ色。下半身は黒い肌に張り付くような衣装だ。
両腕に装着されるガントレットは立花と同一だが、彼女の場合はその二つのガントレットを合わせて槍状に変化させられる。それこそがガングニールの真の武装ともいうべきものだった。そして、それはマリアがまとっていた黒いガングニールと呼ばれるものにも酷似している。
マリアは基本武装は立花と天羽と同じだが変幻自在の黒いマントが付属している。
「おお、ちゃんと装着できたぜ」
「無理はしないで」
かつての仲間に風鳴はしおらしく声をかけた。
今でこそ気丈に振舞っているが元々は
「ノイズ戦じゃないんだ。心配は要らない。さて、ガキ共。しっかりお姉さんに捕まってろよ」
「了解デ~ス」
「じゃあ、こっちも行きますか。ほら、先輩。余所見してないで」
「あ、ああ。分かった」
普段とは違う一面が見れて雪音は驚いていた。
冷やかそうものなら後で手痛い仕返しを受ける気がしたので黙っていた。
今のしおらしい姿を是非とも立花にみせてやりたい、と心に思うにとどめた。
「イミュ~テ~ウス、アメノ~ハバキリ、トローン」
風鳴は青を基調とするシンフォギア。基本武装は刀剣類。そして、両足には翼状の刃物が付属していて開脚し、回転させることにより敵を切り裂いていく。
「まあ、女の子が大股開きで戦うのはちょっとどうかと思うけどね」
「そういう戦い方なんだからっ!」
「確かにあの体勢を恥ずかしくもなく出来るのは翼しか居ない」
と、真面目な顔で言うマリア。
苦笑しながら天羽は暁と月読を脇に抱え、風鳴はマリアを背負った。
残った雪音は道案内となる。
「結局、変身したからだいぶ汚れは無くなったな」
「結果オーライでいいじゃない」
仲間を抱えて目的地まで
普通に歩くよりも速いが街中では目立つ行動は禁止されている。もちろん不測の事態は隠蔽作業をする組織に任せていたのだが、その組織とも今は連絡が出来ない。
組織といってもノイズという人類の敵と戦い、災害現場での救助活動が主な任務だ。
「それにしても戦い以外でギアを使うとは思ってもみなかった。こんなに飛べるもんなんだな」
一階の跳躍で百メートルは簡単に進められる。
高さも数十メートルと簡単に到達できる。
敵を倒す以外に力が使えることは悪い気はしない。特に人助けに関することは。
それでも身体にかかる負荷はひしひしと感じるのであまり長くは使えない、と天羽は思う。
† ● †
無理矢理適合係数を引き上げて手に入れた力なので定期的に投薬を受けなければならない、ということを思い出した。
その手段を手に入れることは無理かもしれない、と思いつつ惜しみなく力を使うのは後先考えていないバカな人間くらいだ。
一度は死んだ身だ。行けるところまで行くのも悪くは無い。後継者が居るようだし、と楽観的な思考が出来る事を今は素直に感謝した。
十回近い跳躍の果てに家が集まった集落が見えてきた。
そのすぐ手前では何人か歩いている人影が見える。
「合流するか、通り過ぎるか」
「休めるところを確保した方がいいでしょう」
「了解」
風鳴の言葉に天羽は素直に従う。
手を振る仕草が見えたが今は笑顔だけ向けて集落を優先する事にした。特に周りに異常な気配もなかったので。
天羽たちがたどりついた先は小さな農村そのままの姿だった。
小さな柵で囲われて土がむき出しの地面と簡易的な建物がまばらに建っていた。
「……古風な農村のようだが……。このような場所が存在するのだな」
「近代社会から取り残されたような風景ね。とにかく、進みましょう」
村人と思われる人間は見慣れない汚れた服装だった。
おしゃれなどと無縁の生活をしているようなホームレスという印象を受ける。だが、家はあるようだからただの貧乏人か。
とにかく、そういう貧相な感想しか出て来ない雰囲気がある。
それぞれ変身を解いていくと天羽だけ両足が震え始めた。
「……あ~クソっ、運動を怠ってたせいか……」
その場に膝をつく天羽。準備運動もろくにしていないし、死んでから随分と日が経ちすぎていた事も原因なのかと疑問に思う。
「奏……。無理しなくていいから」
「もう歳なのかな」
「まだ二十歳前だったでしょう。今は私の方が年上だったはずよ」
天羽に自分の肩を貸す風鳴。
吐血はしないようだが、無理を押しているのは目に見えて明らかだった。
天羽を担ぎ上げようとした時、嫌な音共に身体にかかる負担が軽くなった。
「えっ?」
「あれ?」
風鳴と天羽とは互いに視線を交わして小首を傾げる。
そして、叫びだしそうな声を必死に塞ぐ風鳴。
異変に気付いたマリアは暁と月読の口を塞ぐ。
「大丈夫。無理して見ては駄目よ」
暁たちの顔を逸らすマリア。
的確に行動し、事態の鎮静化を図ろうとするのだが気持ちの中では誰もが叫びだしそうな気持ちになっていた。
冷静でいられる者は居ない筈だ。それでも雪音も自分で口を塞ぎつつも状況を理解しようと務めた。
「いや~、もげちゃったね~。こりゃビックリだ」
風鳴に掴まれた腕は肩口から千切れてしまった。
血は垂れてはいるのだが吹き出すことは無かった。
無理に引き千切ったわけではない。それがどうしてこうなったのかと風鳴は自己分析しようと務めたのだが混乱してくる頭では考えがまとまらない。
「落ち着きなよ」
「………」
口を押さえたまま頭を激しく左右に振る風鳴。涙目になっていて今にも泣きそうになっていた。
「死人というのは存外、正しかったのかもね。そりゃあ、脆いはずだわ」
「……先輩のバカ力という線はねーのかよ」
「無いね。翼はパンチ力の無い子だ。刃物を得意とするんだぜ。少ない力で敵を切り裂く事には特化してても打撃力は心許ないはずさ」
「そうでもねーけど。あんたがそれでいいなら、そういう事にしといてやるよ」
似たような喋り方の雪音が答えていたが死人という線は自分でも荒唐無稽だと思っている。
それに暁達二人を担いで農村まで平気だった。
変身が解けて身体が一気に脆くなった、というのならば納得出来そうな答えだ。
「指は動くし、足も麻痺しているわけじゃないようだ。まあ、そういう事もあるさ。もげた腕は繋がるかな?」
「病院が近くにあるとは思えないし……。あのバカみたいに暴走状態になって再生するとか起きないと……」
「それは立花だけの特性だろう。そもそも再生などありえない」
ありえないが
立花の能力は不可解な点が多く、未だに解明に至っていない。
人間と聖遺物の融合体の症例は風鳴の知る限りは立花ただ一人。