ラナークエスト   作:テンパランス

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#057

 act 31 

 

 風呂上りにタオルで水気を取り、村人が用意した簡易的な衣服をまとう。

 自分達の服は洗濯中であるのと破損中であるのがあり、次の日までは着ることができなくなった。

 壊れた鎧などは処分するしかないけれど、替えの着物が無いのでどうしようかと悩みだす。

 

「……服が無いまま旅をするのは困るな」

「お金もありませんし」

「ここは現地調達ですわ。多少は労働をして資金稼ぎもありかもしれません」

 

 獣人達が話し合っているところに雪音達が訪れる。

 

「同じ境遇かどうかの確認がしたいんだけど、いいかな?」

「構わん」

 

 椅子にどっしりと構える猫耳の女性。

 

「自己紹介は不要だな」

「……こちらはお主達の事は何も知らないぞ」

「あれー、てっきりモノローグが紹介済みかと思ったんだけどな」

 

 暁達は村人が用意してくれた椅子を持参してきた。

 

「では、人間代表として……。私は『アデライド・グランマニエ』と言います。あと、勇者なのです」

 

 金髪碧眼で瞳の中に星の模様があり、背が高く胸の大きい大人の女性だった。

 女性陣の中では一番の年上かもしれない。

 

「へー」

 

 興味無さそうに雪音は聞き流した。

 それを見て暁達は最低な人間を見るような目で雪音を睨むように見つめた。

 

「我々はメタ・ファルスというところから来ました。『瑠珈(るか)・トゥルーリーワース』です」

 

 青黒い髪の女性は丁寧にお辞儀する。見た目には十代後半。

 

「『クローシェ・レーテル・パスタリエ』よ」

 

 胸の大きい金髪碧眼ではあるけれど態度が尊大だった。常に臣民に命令する立場の高貴な存在だったのではないかと思わせる。あと、腰の翼がなくなっていた。

 

「あれは服の装飾品です」

「……本当にフィーネの声に似てる……」

 

 暁と月読も頷いた。

 彼女たちもフィーネという女性の声に聞き覚えがあったがマリアは首傾げていた。

 

「改めて初めまして。我々はフロニャルドという大陸から来ました。私はビスコッティ共和国の領主『ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティ』と言います。十四歳です」

「年齢も公開しなければならないの!?」

 

 と、クローシェが驚きの声を上げる。

 

「見た目で勝手に判断するから好きにすればいい。一歳違いなんて分からねーし」

「わしはミルヒと同じフロニャルドの者でガレット獅子団領国の代表領主『レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ』じゃ。あと十六歳」

「言い方がババ臭いデス」

「二十歳過ぎかと思った。貫禄あるな、お前」

「伊達に領主をしている訳ではないからな。この喋り方は自然と身に付いておった」

 

 確かに耳で聞く分には瑠珈とレオンミシェリは似ている。同じ声と言ってもいいくらいだ。

 とはいえ、共通点が声だけというのは安易過ぎる気がする。

 

「うちは『クーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュ』なのじゃ。領主見習いで十二歳なのじゃ」

「……聞けば聞くほどあのバカに声がソックリだ」

 

 雪音達も自己紹介をしていく。そして、終わったところで風呂から上がったばかりなのか、身体から湯気が立ち上る風鳴が現れた。

 

「お待たせ~」

「こちらも声が似ているな」

リコッタナナミにそっくりです」

 

 と、ミルヒオーレが手を合わせて喜びの為に尻尾を激しく動かした。

 

「似た声が色んな世界に居ると親近感が湧くな」

「そこの御仁だと……ダルキアン(きょう)か」

 

 レオンミシェリはマリアに向かって言った。しかし、マリアの方は全く知らない名前なので首を傾げた。

 

「そこの二人は全く聞き覚えが無い」

 

 マリアは風鳴にミルヒオーレ達の事を伝えた。

 

「もう一人の(かた)は無事なのかや?」

「ええ。ケガ以外は普通で熱も無く、食事もちゃんと食べていたわ」

 

 片腕なので風鳴が食べさせていた。

 元々が死人だから、という安易な結論は出したくない。

 天羽の事はおいおい考える事にして今は目の前の問題に集中する事にした。

 

「違う世界の来訪者か……。それでは共通点どころではないな」

「でも、日本の方とは接点はありますよ」

「はっ?」

「こちらのご先祖(アデライド)様は元々、地球からいらしたのじゃ」

 

 と、クーベルに紹介されたアデライドは苦笑する。

 

「ふふふ。中世の田舎フランス人ってところかしら。彼女達の世界(フロニャルド)に召喚されたのがきっかけなのです」

「今度は我々が逆に召喚されたってことかもしれませんね」

 

 ミルヒオーレの声が妹に似ているせいか、マリアは邪魔せず聞き入りたい気持ちになっていた。たとえ似ているだけだとしても。

 

「今頃、三国の領主が消えて大慌てでしょうね」

「……彼らに任せるしかあるまい」

「ついでにあたしらも元の世界に戻してもらいたいもんだ」

「うむ。それも検討はしておこう。地球の人間には恩があるからな」

「ミルヒ姉の召喚魔法とかでは無理なのかや?」

「何所でも出来るわけではありませんからね。タツマキ達も居ませんし」

「こちらも手段を失っている」

「それも大事だが……。立花の捜索もしなければ」

「あ~、そうだったそうだった。忘れるところだった。あのバカを見つける仕事もあったっけ」

 

 クーベルの声を聞いているとどうでもよくなってしまったのは事実だ。

 ついついこいつ(クーベル)でもいいか、と思ってしまった。

 

「折角の異世界なのに冒険しないんデスか?」

「遊びに来たわけじゃないんだぞ」

「元の世界に戻れるまでは結局、冒険することになると思うぜ、先輩」

「大ボスを倒さなければならない時に武器なしで挑むのは自殺行為です」

 

 どのような方法だろうと様々な事態に対処するのは自分にとって大事なことは理解している。だが、現実問題として想定の範囲を超えてて風鳴は頭の中での整理がつかなかった。

 天羽のことも心配だし、立花の捜索も重要だ。そして、それらを成し遂げて元の世界に戻れなければ意味が無い。

 

「家に着くまでが遠足と言うじゃないか」

「いいこと言うデス。けっこうお約束を無視してたクセに」

「はっ!? お約束なんざクソ食らえだ」

「……貴女は口の利き方を直さないと損をすると思う」

 

 あまりにも口汚いので。

 確か有名な音楽家の娘ではなかったか、と風鳴も呆れてきた。

 雪音クリスという名前の動物園で飼育されていた猿と間違えているのでは、と錯覚しそうだ。

 いや、猿を養子に迎えたのが事実なら。

 

「……あたしは人間だ」

「……と思い込んでいるお猿さん」

「ああっ!?」

 

 凶暴性は正しく野生のチンパンジー。

 

「……くっくく……。とにかく、うっくく……」

「なに笑ってんだよ。……なんか、恥ずかしいじゃねーか」

「すまん。雪音はもう少しお淑やかにしない……。それで、今後はどこへ向かえばいい? 近隣の町か?」

 

 ニヤケ面のまま話しを進める風鳴。

 思っていた以上に面白い想像になってしまったらしい。

 

          

 

 村に立花という女性が居ないのは確認した。

 自分達と同じように尋ねに来た冒険者の中にも特徴的な女性は居ないという。

 カルネ村以外にも農村は点在しているので全部聞きに回ると数ヶ月がかりになるかもしれない。

 現在、自分たちが居るのは『リ・エスティーゼ』という王国の領内で他には新興国家『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』とバハルス帝国。南方にあるスレイン法国の国名が伝えられた。

 それらの領地はとても広く、一人の人間を探すのはとても困難であることが分かった。

 

「探知機みたいなのがあればいいのデスが……」

「現代科学の英知がない世界は地道な捜索しかない」

「そうして五十年が過ぎましたとさ、という結果は嫌デス」

「殆ど永住じゃねーか」

 

 五十年と聞いてクローシェは床に座り込んでしまった。腰が抜けたような状態になってしまったのでアデライドと風鳴が駆け寄る。

 

「どうしました?」

「……五十年もこの世界に居ることになると思ったら……、腰が抜けて……」

「そうならないように原因究明は出来る限りするつもりなのだが……」

「……私達は皆さんとは違うと思います」

「見た目とかのことか?」

 

 瑠珈(るか)はクローシェを担いで椅子に座らせる。

 

「私とクローシェ様は二十歳くらいの寿命しかありません。延命剤(ダイキリティ)というアイテムが無いと長く生きられない生命体なのです」

「まあ!」

「短命なのは生まれた時からの宿命でいいのですが……。元の世界には生きているうちに帰りたいなと……」

 

 現在の自分達の年齢から数年程度しか時間が残されていない。

 延命剤(ダイキリティ)を使えば十数年は生きられる。

 

「そのダイキリなんとかが無いと困るというわけか……。作り方とかは……」

 

 製造方法を秘匿される事は珍しくないので、無意味な質問に思えた。

 

「不測事態を想定しているとはいえ、そんなに心配することはありません。長く辛い戦いでも起きない限りは」

「……事態が一気に深刻になったデス」

「キリちゃん、ここは静かにした方がいいわ」

「え~と、案外活気的な薬があって凄い事になるかもしれませんし。ねっ、クローシェ様」

「……そこまでの元気が羨ましいわ」

 

 前向きな瑠珈に対してクローシェは現実主義の人間かも知れないと風鳴たちは思った。

 後ろ向きな思考は判断を鈍らせる。今出来る事を探すのが先決だ。

 深刻な話しになっては進行に影響を来たすので、明るい話題に変えたいと誰もが思うが事は命がかかっている。

 帰還が絶望的ならば精神的な疲弊は常人を軽く超えてしまいかねない。

 

「……焦りたくはありませんが……。すぐには対応できないのも事実……」

 

 瑠珈(るか)はクローシェの手を握り元気付けようと言葉を探す。

 もちろん、寿命の件は自分にも関係がある。それでも()()聆珈(レイカ)を不安にさせないように笑顔を取り繕う。

 

「歌でも歌いましょうか。ねっ、クローシェ様」

「……お姉ちゃんと一緒なら……」

 

 涙ぐむクローシェは実年齢よりも幼く見える態度で返答する。

 本来は二人っきりの時は人目もはばからず甘える所だが、不安が大きすぎて気丈に振舞う余裕がなくなってしまった。

 

「よしよし」

 

 二人のやり取りに余計な茶々は入れずに残りの者はこれからの事を真剣に考える事にした。

 


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