ラナークエスト 作:テンパランス
彼女たちは『
赤い髪のメイドのみ包帯姿だが。
人知を超える能力を持ち、平行世界を蹂躙する。
一人だけの力では世界を破壊する事はできないと聞いているけれど、それを確かめる事は世界が崩壊する事なので冗談でも頼んではいけないと言われている。
「目標地点である東方の島が見えてきました」
亜人の国がある大陸を抜けて海に出た後すぐに見つかる小さな島。
追撃者は居ないとしても知らない世界である神崎にとっては何処も一緒のような気がした。
この島が何であるのかは当然、分からない。
目的地に到着した後、周りを見ると見晴らしのいい風景が広がっている。
今のところ新たなモンスターの姿は無い。
「敵性モンスターを索敵」
「忍者が多数」
「系統は日本神話と断定」
「一定数の撃滅許可申請……。受理。これより撃滅戦を開始いたします。神崎様、姫を御守下さいませ」
「了解しました」
姿の見えない敵が居る。それは気配で分かった。
九人のメイド達はそれぞれ散っていき、何者かと戦う。
神崎は不可視化した相手だと予測し、気配のみで索敵を行うが
最初こそは一撃で地に叩き落せたが数分後には少し丈夫な相手が出て来たらしい。
「……レベルアップしたのかな」
そうであってもやる事は変わらない。
棒武器を的確に当てて、叩きのめすだけだ。
「
「
敵は忍者だけだと思ったら色々と居るようだ、と神崎は苦笑する。
日本神話が相手なら不思議は無いか、と。
名称から妖怪系も居るのが分かった。
「高レベルエネミー『
「了解しました」
大型の狐型モンスターの姿を確認する神崎。
フサフサの尻尾が九本生えた四足動物で五メートル近い図体はあるのではないかと思われる。
非常識なモンスターとの戦いが続いたとはいえ妖怪と戦うとは思ってもみなかった。
メイド達は素手で的確にモンスターを叩き落しているし、話し合いという概念は持てないのか、と少しだけ疑問に思った。
襲ってくる相手は迎撃する。それは別に間違ってはいないのだが、段々と動物虐待のように思えてきて、本気で戦えない。
人間を食べるモンスターが居るのだから優しく、など言えはしないけれど。
ドン。
棒が深く
声無き呻きを上げるモンスター。
追撃に横っ面をはたき、吹き飛ばす。
大型モンスターのせいか、今の攻撃では気絶しなかった。
「……キュウゥゥ……」
姫を背にしながらの戦いはやりにくいが、見捨てる事は出来ない。
彼女に戦うすべは無いのだから。
「来ました。『
メイドの言葉につい視線を逸らすがすぐに
新たに現れたのは
和装美人とでも言うのか、切れ長の瞳が妖艶さを表していた。
手には羽根で出来た扇子を持っている。
その扇子を軽く振ると魔法が発生し、メイド達に襲い掛かる。
「巨大アンデッドモンスター『ガシャドクロ』を確認」
推定二十メートルほどの人間の骨が近付いてくるのが確認出来た。
次から次へと現れるモンスターと思われる存在に神崎は苦笑をにじませる。
ここが異世界だという事は理解したが賑やかで結構だ、と。
拳を
一見すれば女性に暴力を奮う不届き者だ。だが、神崎に容赦は無かった。というよりは敵性モンスターと自分の意識が判断しているようで
手に感じる肉の感触は電子的なものではなく、しっかりとした生物だ。
棒を無理に引き伸ばしたものを巨大骸骨に叩き付ければひび割れていく。
「……絶滅危惧種であれば後で怒られるかな」
「いいえ、神崎様。存分に撃滅してくださいませ」
と、すかさずメイドが答える。
「彼らはモンスターです。見た目に反して行動原理は異種族への攻撃のみ。飼いならす場合は特殊な方法を用いらなければなりません」
「その方法を提示しない限りにおいて彼らはタダの野蛮なモンスターです」
と、言いながら
中にはモンスターの首を素手で引き千切っている。
「この地にて2500体のモンスターを撃滅するのが当初の予定でございます。決して気を許してはいけません」
手刀で
九人のメイド全てが神崎にとって難敵であり、見た目に関わらず強者揃いだ。
武器を用いずに次々と現われるモンスターを確実に殺害。または破壊していく。
先ほど吹き飛ばした
自分がやらなくてもメイド達は仕事を淡々とこなしてしまうだけだ。
「アクラシエル。死体処理は任せました」
「畏まりました、ご主人様」
「私はご主人様ではありませんよ」
短いやり取りを繰り返しながらモンスターの
言うなれば爆破だ。
破片は近くの海に沈んでいく。
「新たなモンスターを確認」
淡々と告げるメイド。
「
「
モンスター名を告げた後はそれぞれ殲滅していく。
多種多様なモンスターなのは理解したが肉片と化すとどうでも良くなるのは不味いかも知れない、と思った。
自分の感覚が鈍りそうなので。
† ● †
その後に現れたモンスターを覚えている限り列挙する気にはなれず淡々と粉砕する事になる神崎。
時折、巨大なモンスターが現れると安心するが地元の人間が混ざっていないのが救いか。
現地の生物はあまり意味もなく殺戮したくはないけれど、少しどころではないほど殺しすぎだ。
だが、メイド達にそれを止める事は出来ない。
与えられた命令は可能な限りの撃滅だからだ。
この地にほぼモンスターしか居ないのであれば彼女たちと共に作業に没頭するのみだ。
怯える姫を見るとついつい手加減したくなってしまう。
「お加減はいかがですか?」
「だ、大丈夫です。目は閉じてますから」
火雅李は気丈に振舞おうとしているけれど殺戮の音はいやでも聞こえている。だからこそ先ほどから身体を震わせている。
暴力的な現場などが苦手な彼女にとっては辛い筈だ。
かといって安全な場所は知らない。その中で放置する事も出来ない。
可能な限り外敵を排除するしか今の自分に出来そうに無い。
「合流場所はここでいいんですか?」
今更な事を尋ねてみた。
「東方の島国にて待機するのが我々の使命です」
「規定数のモンスターを討伐する事も命令にあるので」
それにしては殺しすぎだ。
2500体のモンスターを殲滅。
手の感覚では全員でまだ十分の一ほどしか倒していない気がする。
せめて建物のあるところに行きたい。
索敵した結果では相当先に進まないといけないらしい。
「火雅李様の為に小屋をご用意いたしましょう。しばらくお待ちくださいませ」
青い髪と緑色の髪のメイドがモンスターを蹴散らしながら先行していった。
残りは小型モンスターの撃滅の続きだ。
海からも半魚人っぽいモンスターが出てきて四方を取り囲まれた状況になっていた。
もう何体の
どう見ても小さな子供なのだが、獣に変身して襲い掛かってくる。それを拳で迎撃する自分は何処となく動物が嫌いなのかな、と不安を覚える。
少なくとも大型ではあったけれど猛獣に類する動物を飼育したことはある。大半は妹達にやってもらったけれど。
それが今では動物虐待だ。
家族が見たら泣くだろうな、と思いため息が何度も出る。
それと人間の姿のモンスターだが、こちらは何なのか。
事前に色々と資料は読んできたけれど、どうして向かって来られるのか。
というか、自分も淡々とモンスターとして処理しているのが滑稽なのだが。
遠くに居る時は
相手に巻きついて焼き殺す特性がある、というので仕方なく殴り殺しているわけだが。
淡々と告げられるモンスターと倒されて屍と化すモンスター。
人間と思われる者も同じ顔が何人も出てくるとやはりモンスターなんだな、と呆れてくる。
種族は良く分からなかったが、とにかく人間と鬼が多かった。
メイド達は人型のモンスター達が持っている武具などを回収したり、海に投げ捨てたりを繰り返す。
一向に逃げ出さないモンスター達はある意味すごいなと感心する。
戦闘中にも関わらず背後では二人のメイドが小屋を建てている。さすがにモンスターの身体で建てたりはしなかった。
それから一時間ほど戦闘した後で小屋が完成。
火雅李を入れれば気分的に安心する。
「では、護衛をお願いします」
メイドに言えば二人ほどが護衛に回る事になった。