ラナークエスト 作:テンパランス
現れるまで少し時間があるらしいので一休みに入る。
地面全てがモンスターというには土もあり砂場もあり林などもある。
実際には横たわった状態だとでもいうのか。
世の中には不思議な事がたくさんあるものだと感心する。
「この島を倒すとどうなりますか?」
「島は対象ではありません。島に偽装しているだけでございます。なので倒しようがありません。対象のモンスターを討伐しても
「それを聞いて安心しました」
島が消えたら一大事だ。
一気に水没してしまうので。
ここまで戦闘続きだったが自分たちが倒してきたモンスターというのは何だったのか。
好き放題倒してしまったけれど、少しは気になっている。
「倒したモンスターは
「その
この世界からモンスターを完全に排除する場合は星を破壊するしか無い、かもしれない。
それ以外では恒久的にモンスターが現れ続け、現地の生物と戦い続ける。
現地の生物を絶滅させる意図はモンスターには無いので歴史が急に潰える事は無い、と続いた。
「今回の主目的はモンスターの討伐でございます」
「この島の調査は我々の仕事には入っておりません」
「
無表情で淡々と説明するメイド達。
九人が並ぶととてもカラフルなのだが、個性が無いのが残念だ。
だからといって閼伽井のように制御不能のように陥って何をしでかすか分からない状態も困りものだが。
そうして休み時間が終わりを向かえ、地響きが発生する。
五人のメイドと神崎は外に出るが残りは火雅李の護衛の為に小屋の周りを警護する任に就いた。
「かのモンスターの強さはたいしたものではありません。ですが、野放しにすれば延々とモンスターが現れて厄介です」
「先ほどまで倒してきた同数を排出してきますので無限というわけではありません」
折角倒した2500体のモンスターを改めて倒す事になる、という意味に捉えた。
それはとても大変だな、と苦笑しながら思った。
とにかく、さっさと倒すべし。そういう事だと理解する。
† ● †
地響きが一団と大きくなった後で地面から巨大な物体が競り上がって来た。
それは球形で直径はおよそ百メートルはある水色のような青い空に近い色合いをしていた。
神崎達とは数百メートルほど離れているので正確な大きさは分からないけれど、大きい物体であることは理解した。
油の油膜のように様々な色合いに変化する大きな眼が1つだけった。
頭と思われる頭上附近に光り輝く天使の輪のようなものが浮いている。
背後には光り輝く鳥の羽のようなものが六枚あり、一対は左右に広がり、一対は丸い身体を守るように閉じ、一対は足のようにダラリと下がっていた。
天使のような神々しさを持つ水球の化身のようなモンスターの身体から水滴が一粒落ちる。
それはたちどころに姿を変え、モンスターの一匹になった。
「地上は我々が担当しますので神崎様は敵
「了解しました」
「
「……はい」
「基本は魔法とブレス攻撃……」
戦闘しながらアドバイスをくれるメイド達に苦笑を覚えながら神崎は突撃した。
空を飛ぶ相手なのでまず攻撃を届かせなければならない。
手始めに一本、剣を投げつけてみた。
軽く刺さった後は弾き飛ばされた。
物理攻撃に強い、というのは身体が柔軟な素材でできている、という事なのか。
一撃では倒せないしぶとさがあるという事か。
後者であれば少しは期待してしまう。
手加減しなくていい相手というのは中々見つけられないので。
戻した剣の柄を引っ張り無数の鎖に繋がれた一本のロープ状に変化させた。それを力いっぱい回して再度、モンスターに向けて投げつける。
鎖は意思を持った蛇のように軌道を調節し、真っ直ぐ敵に向かって飛んでいく。そうして飛ばした大剣はモンスターの身体を貫通して行った。
「……それほど防御力があるというわけではないようだな……」
剣を引き戻そうとすると抵抗を感じた。
水っぽい印象を受けたが、それは見た目だけで中身はかなり粘度の高い体液が詰まっているようだ。
だが、それでも神崎には何の障害にもならない。
無造作に引っ張れば剣はモンスターの中身を引き裂きながら戻ってくる。
力比べでは神崎が上だった。
こぼれ出る体液から様々なモンスターが生まれ続けているが、それらはほんの一瞬で肉塊と変わっていく。
後は時間をかけての作業だ。
† ● †
その後はメイド達が消えずに残っている
神崎はふと、もし
本当に一体だけなのか疑問だが。とにかく仕事は終わった。今はそれだけでいいのかもしれない。
「規定数に達しました」
「この島での討伐クエストを終了いたします」
「お疲れ様でした」
互いに一礼した後はメイド達に身体を抱えられ、現場を離れる。
遠くで小さくなる東方の島に目を向けると人の形のように見えた。
それから一休みしようと思う間もなく次の現場に到着する。
あまりに早いので熟睡する暇が無かった。
「次の目的地ですか?」
「バハルス帝国の首都」
「アーウィンタールでございます」
結局のところ移動速度が早くて、まだ一日も経って居ないのでゆっくりと休みたかった。
首都らしき場所にたどり着いたところに見覚えのある人物が手を振っていた。
炎のように揺らめく腰まで長い荒々しさを表す赤い髪。歳のころは三十歳過ぎの大人に見える。
遠くからでも分かる赤を基調とする騎士風の
九人のメイド達の主である彼女の名は『
「お帰りなさい」
「ただいま帰りました」
凛々しい顔立ちの兎伽桜に出迎えられて少し恥ずかしさを覚える神崎。
元気一杯の彼女にはいつも振り回されるので少し苦手だった。
2500体のモンスターを倒して、とメイド達に言われてホイホイ従う自分はとてもお人よしだと自覚しているけれど。
「ちょっとカ●●ムを冷やかしてきたよ」
「?」
「これは言っても分からないか。いやいや、ありがとうね、龍ちゃん。いっぱい戦利品を集めてもらって」
メイド達が何処から取り出したのか、大きな箱をいくつも兎伽桜の側に並べていく。
先ほどまで
「……これはこっそり『マグヌム・オプス』に放り込んでおけ」
「畏まりました」
指令を受けた三人のメイド達が巨大な箱を一瞬で消し去り、飛び去っていった。
「どうせ暇だろうから、少しの間、この世界でのんびりと休暇と洒落込もうじゃないか」
「兎伽桜さん。それよりもモンスターをかなり倒して問題は無いんですか?」
「無い。何も心配は無い。この世界はそういう世界だ。……ただ、本気で絶滅を考えるなら星の形が変わるほどのレベルになる」
あははは、と笑いながら兎伽桜は言った。
実に楽しそうに。
あまり面識が無いとはいえ、毎回突飛な話しばかりで退屈しない人だと感心する。
彼女の人生はきっと波乱万丈ばかりだったに違いない、と。
いつも突然現れ、頼みごとをして去って行く。相手にも事情があるものだと思い詮索はしなかった。というか他人の人生にそうそう興味を覚えない性質かもしれない、と神崎は苦笑しながら思った。
死後の世界と一言で片付けられないのは
だが、そうであっても
自分が住んでいた
家に残した
新たな討伐依頼は無く、兎伽桜と共に異世界の首都に向かう事になったのだが、まずその前に聞かなければならない事がある。
本当にここが異世界なのか、どうかだ。
いや、モンスターが居る時点で日本ではない事は理解している。それでも、だ。
「あらゆる解釈において異世界だと思えば、そうであると言える世界だ。……あまり言うとカ●●ムの解答をこちらでやるハメになるのでヒントはここまでにするよ」
神崎にとってカ●●ムとは何なのか、
「それより……、後ろの
ずっと大人しくしていた火雅李がビクっと身体を震わせる。
臆病な性格なので誰に声をかけられても大抵は同じような反応をする。
「い、いえ……。しっかり自分の身は守りましたよ」
「姫がここに居ても邪魔なだけなんだが……。見物人として過ごすかい?」
「神崎様の雄姿を拝見できるならっ! この身を引き裂かれても、お側に、居たい……です……」
神崎をチラチラと見ながら拳に力を込める火雅李。
見た目は未成年のようだが二十歳には達している。
姫というのはあながち間違いではなく、彼女の故郷では姫という待遇である。
ただし、四人姉妹の末っ子なので存在感が希薄なのが難点だ。
『
母親譲りの金髪と謎の色とりどりの髪の毛が生えた状態であり、上の三人の姉達もそれぞれ違う色合いになっている。
それ以外の特色は無く、地球でも普通に生活できるのだが火雅李だけは故郷に残っていた。
彼女の父親は地球人で髪の毛は黒い。それがどういうわけか様々な色が娘達に発現している。
「……今更火雅李のプロフィールを出されても大して活躍しないけどな……」
と、兎伽桜はため息混じりに呟いた。
確かに彼女の言う通りだ。
火雅李が異世界で活躍できそうなシチュエーションはほぼ無い。
「あわわ。役立たずで、ごご、ごめんなさい」
「どこぞの
「……モブキャラでごめんなさい……」
素直で優しい火雅李にも自分だけの
書かれなければ無意味なのだが。
「……全くだ。さっさと書けよ、
「兎伽桜さん。話しが脱線して進みません。とにかく、街に行きましょうか」
延々と説明していたら
そこに爆裂魔法を放つしか能が無い『めぐみん』を見かけたので兎伽桜は思いっきり無視してみた。
というか、元々接点が無いのでめぐみんの方は一切何も気付かない。
「……はっ、今とてつもなく失礼な事を言われた気がします」
めぐみんは辺りを見回す。すると派手な赤い髪の女性を見つけた。きっと敵だ、と。
「赤い髪だからといって敵って……。私はちゃんと分別ある人間ですよ、全く。……さてと、今日は何処をフッ飛ばしましょうかね」
首都近辺での魔法の行使は色々と迷惑行為に当たるので割りと離れなければいけないのが難点だった。
今日は一人なので迂闊に魔法は使えない。だから、適当な場所を事前に調査する為に来ていた。
地道な調査は大事だとめぐみんも考えている。
「……これでも冒険者ですからね。考えないと簡単に死んじゃいますから」
まして、ここは自分達の知らない世界。
あと、モンスターが地味に凶悪。規則が多くて大変。首都にもモンスターが居て、そちらは倒せそうに無いくらい強そう、と。
それでも魔法を放てる場所が外にはある。後は迷惑にならない場所を見つけるだけだ。
「往復を考えると……、毎日は大変ですね。もう少しお金に余裕があればいいんですが……」
自由な外出をする為にはどうしても冒険者ランクを上げる必要がある。
前に居た世界より危険な仕事は無いけれど、収入面はどうしても気がかりだ。
かといって一攫千金の仕事があるわけではない。
意外と世知辛い世の中だが、命と比べると納得出来るものがあるので文句は言えない。
ここより先は身の安全は保証されません。
最後のクエストにお進みください。
クリア条件はただ一つ。
補足情報として、即死魔法。超位魔法は共に無効。
もちろん精神系なども通じない。全て
相手は三番目の
四番目の
一番目と二番目の助っ人は無効。というか来ない。
無敵なお兄ちゃんで絶望的ですが攻略方法が無いわけではありません。