ラナークエスト 作:テンパランス
#063
リ・エスティーゼ王国に
バハルス帝国にターニャ・デグレチャフ達が召喚されて一週間ほど経過した。
それぞれ街での生活を始めて情報収集したり、生活資金を稼ぐ日々を送っていた。
互いの距離は数百キロメートルと離れており、尚且つ互いに存在を認識していない状態だった。
左腕が欠損してしまった
「介護老人みたいで悪いな」
燃えるような橙色の発色の良い長い髪の毛を風鳴に手入れしてもらいつつ天羽は言った。
身体の調子は一向に良くなる気配が無い。
もとより死人だ。いずれは朽ちるか、ボロボロの灰となるか。
いずれは覚悟しなければならないと思っていた。
風鳴としては生きてまた天羽に会えただけで今ある奇跡を大事にしたいという気持ちだった。
おそらく天羽は元の世界には戻れない。そんな気はする。だが、それを口に出せば自分はきっと泣いてしまう。
「そういえば、もげた腕ってどうなった?」
「街から魔法使いを呼んで『ぷりざーべーしょん』というもので保存してもらった」
「へー」
「魔法を唱えると手が光るんだ。だから、きっと本物だ」
「そういう世界が本当にあるとは驚きだ。あたしも何か魔法とか使えたらな」
首にかけたペンダントに触れてみる。
聖詠を唱えればシンフォギアを
そうすると風鳴が悲しい顔をする。それは嫌だな、と思うので使うに使えない。
† ● †
クローシェ・レーテル・パスタリエは与えられた部屋に引きこもり、体調管理について色々と考えているようだった。
短期間では元の世界に戻れない、という想定をしなければならないので。
そんな彼女の側に
家の外では準備運動に勤しむ獣人達が村人の手伝いをしたり、近隣の情報収集にあたっていた。
「ボロボロの鎧のままでは都合が悪いな」
と、白い髪に猫耳を生やしたレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワは自分達の姿を眺める。
指輪の力で出せるのは武器のみ。鎧は壊れるたびに新品と取り替えるのが
一定のダメージを受ければ服ごとボロボロになる仕様が生きていれば、この先の戦いは少し都合が悪くなる。特に女性陣は。
というか、女性しか居ない。
「服だけは
「新しい服を手に入れるか、買うかするしかないかもしれませんね」
と、桃色の髪の毛で犬耳のミルヒオーレ・
彼女の声を聞くためだけにマリア・カデンツァヴナ・イヴも側に居た。
「替えの服とか持ち込めたら良かったのにな」
出来ないものは仕方が無いけれど。
今後の活動方針も考えなければならない。それはマリア達にも言える。
それぞれ目的地は無いし、一緒に旅をするのか、それとも別々に行動すべきなのかの議論も必要だ。
少なくとも風鳴達は仲間である『
他は元の世界に戻る方法。
「全くの未知の世界に放り出されて……。勇者達は我々が召喚したからこそ不安は無かった。いやまあ……、自分達が同じ目に遭わされて不安を感じない方が無茶ではあるな」
腕を組んで唸るレオンミシェリ。
武勇では誰にも負けない自信はあるが不安を感じないわけではない。
特に妹のように可愛がっているミルヒオーレに何かかがあれば気が気ではいられない。
「ミルヒは村に残って、わしが近隣の街で情報収集してこようかの」
「レオ閣下。仲間は多い方が心強いものですよ」
「……しかしのう……」
猫耳が力なく垂れるレオンミシェリに対し、元気に犬耳と尻尾を動かすミルヒ。
好奇心旺盛の娘は何とも頼もしい限りだ、と不安はあるが実に頼もしく思えた。
「村人を見る限り、人間が多いと思うのだけど……。貴女達が街に向かえば騒ぎになるのではなくて?」
特にモンスターに類する特徴を持っているので。
偽装してもバレれば大騒ぎになる。
「幸いこの村は貴女達を受け入れてくれた。それがそのまま全ての地域に適用されているとは限らない。ここは待機して待つのがいいと思うわ」
「……う、うむ」
マリアの意見に反論の余地無し。
現時点で人間である者達に頼る以外に最善の策は思いつかない。
自分でも分かってはいる。ただ一歩前に進む勇気が足りないだけだ、と。
† ● †
アデライド・グランマニエは簡素な服装に着替えて近隣の情報を集めていたが、大きな都市に入る為には検問を通らなければならない事を聞いた。
異世界なので現地通貨の持ち合わせは無く、売れるものも無い。
武器などはさすがに国宝ばかりなので無理。他には仕事で稼ぐしかないのだが、村人達はよそ者に頼るほど困っては居ないし、資金も豊富ではない。
「借金で貸せるほど余裕があればいいんだけどね」
それでもせいぜい三人くらいまでだ。
村人総出で出し合う金額には限界がある。
返せる当てが無ければ困るのは村人なので。
「今の時期に薬草採取といっても……。難しいな」
「なら、あの施設に連れて行けば? 少なくとも寝泊りは不自由しないし、運が良ければお連れさんのケガも治してもらえるかもしれない」
と、もう一人の村人が言った。
「それがいいか。馬車はどうする?」
「急ぎじゃないなら三日ほど滞在してもらうけれど……。待てるなら連れて行けると思うよ」
「は、はい」
食べ物は比較的豊富だし、共同風呂なら利用できる、という事なのでアデライドは異邦人全員の意見を集める事にした。
何年も滞在する予定は無い。もちろん期間の方法は見つけなければならないけれど。
移動に関してクローシェと瑠珈は同意した。黙っていても解決しない事が分かっていたので。
目的地がはっきりした方がいいと判断したので、残りの者もそれぞれ同意していく。
「目的地の施設の近くに大都市があるので、そこを拠点として色々と決めてもいいのではないかと……」
「エ・ペスペル。エ・レエブル。王都リ・エスティーゼ」
「魔導国側は検問の関係で今は行けなさそうだし……」
大都市にいきなり行くより、近くに滞在拠点を設けておく方が機能的だと判断する。
村の宿発施設も本来は使用料を払わなければならない、と聞いていた。
大抵は冒険者なりになって利用した分はきちんと払ってくるものだと言われている。
「外から来る者は大抵が資金を得る為に冒険者になるそうなのです。探し人も何処かの都市で冒険者になっているかもしれないのです」
「……下手をすれば別の国に居る可能性もあるわけだ」
「異世界で一人の人間を探すのは簡単な事じゃねーよな」
都合よく転移した場所の近くに居る保障は無い。
バハルス帝国にスレイン法国。北方のアーグランド評議国に南方の竜王国や聖王国も対象なので。
それらの国々ある大都市一つ一つを調べるのは途方も無い時間がかかる。
大きな栗鼠の尻尾を持つクーベル・
一人ではなく、たくさんの仲間達と一緒なので。
「変身出来る方には先行してもらい、我々は馬車移動で向かおうかと」
「まあ、効率的だよな」
「地図だけ借りて往復するっていうのは……、疲れるか……」
一人が脱落しているので現時点で移動可能なのは二人。
レオンミシェリは少し元気を無くしているし、クーベルもたくさんは運べないと思っている。
「目的地まで草原を真っ直ぐ突っ切るだけだし、多少無理すれば馬車移動しなくて済むんじゃねーか。特に先輩にでっかい剣を出してもらえば」
「飛行タイプでは無いから少し心配なのだが」
「やってみなきゃ分かんねーだろ。シンフォギアなんて使う者の裁量でどうとでも出来そうだと思うんだがな」
確かにやってみない事には何もわからない。
いつだってそういう事態の繰り返しで自分達は強くなってきた。
時には山の標高すら変え、月からの隕石を迎撃までした。
大抵の奇跡は何度も起こしてきたのだから、移動程度は朝飯前だと思わなければならない。
たかが百キロメートル程度先の現場に行くだけだ。ここで真剣に悩んでも仕方が無い。
村人から地図の写しを貰い、天羽を連れて風鳴が先行する。
往復から考えて一日で全員を運ぶのは無茶かもしれないので、クローシェ達はのんびりと馬車移動する事にした。
クーベルの指輪の力で出した空飛ぶ絨毯にミルヒオーレを乗せ、レオンミシェリは地上を走る事にした。
不安な姿は似合わない、と自分に活を入れる為に。
次の目的地である『マグヌム・オプス』にて全員が揃ったのは三日後となった。