ラナークエスト   作:テンパランス

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#064

 act 2 

 

 バハルス帝国側で冒険者としての仕事を続けていたターニャ達は毎日を地味な仕事で過ごしていた。

 ランクの低い冒険者プレートなので仕方が無いのだが、一攫千金を獲得できるような仕事が無いので非効率だった。

 一通りの情報は手に入れたし、魔導国側からの嫌がらせも無く。

 女神アクアに対する世間の冷たい目はまだ少し残っていたが、出入り禁止のような措置は受けなかった。

 

「地味で稼ぎが少ないけど……。このままでいいのか?」

 

 愚痴を言うのは地球から異世界に、更にまた異世界に転移した冒険者パーティの『佐藤(さとう)和真(かずま)』だ。

 非常識なモンスターが現れない分、気は楽だが、日銭の増え方が心許ない。

 物価が安いのはありがたいのだが、このまま地味な仕事ばかりでは飽きてくる。かといって危険な仕事を請けたくない。

 

「文句を言っても仕方がありません。我々は銅プレートなんですから」

「昇進すれば仕事の幅が広がるぞ、カズマ」

 

 と、聖戦士(クルセイダー)ダスティネス・フォード・ララティーナことダクネスが言った。

 今のところモンスター退治の仕事が無いので重そうな鎧や武器は宿屋に置いている。

 辺境の馬小屋に寝泊りしないだけありがたいと思わなければならないのかもしれない。

 トラブルメーカーのアクアは街頭や夜間に酒場などで大道芸を披露して日銭を稼いでいた。

 彼らと共に生活していた立花響は力仕事に勤しんでいた。

 小柄な見た目とは裏腹に変身しては百キログラムをゆうに超える荷物を軽々と運んでいた。

 ただ、歌いながらでなければ力が維持できないデメリットがある。

 

「帝都の周りは兵士達が守りを固めていますから、モンスターの襲撃件数自体が少ないんですよ。南下して『カッツェ平野』とか森の近くに行きますか? 少なくとも危険度は上がりますけど」

 

 安全な場所で平和に暮らしたいカズマとしては動きたくないところだ。だが、金の稼ぎも当然、少なくなる。

 元より帝国は冒険者に対する待遇は王国より低いと評判だった。

 それと落ちぶれた貴族が多く、依頼主の態度の悪さに辟易する事態に陥っていた。

 この国では魔法の才能がある方が暮らしやすいとも聞いている。

 

魔法学院は帝国民である事が入学の条件なので得体の知れない旅人に門戸は開いていないそうです」

 ゆえに爆裂魔法を使える『めぐみん』は門前払いだった。

 入学条件の一つに帝国に忠誠を誓うものがあったり、永住する事と守秘義務があること。将来的に兵士に志願してもらう事などがある。

 

「帝都で爆裂魔法を使う機会はそうそう無いと思うけどな」

 

 苦笑するダクネス。

 初心者たちが集まる『アクセル』の街に比べてとても世知辛いところなのは理解した。

 常識の範囲内ではあるけれど、あまりにも堅過ぎる、と。

 当たり前の事なのはカズマとて理解はしている。それが本来は正しいのだと。

 自分の能力を十全に生かせないのは勿体ないのだが、文句も言えない。

 

「……俺たち、モンスターが居ないと本当に役立たずだな」

「そう言うな、カズマ。ところ変われば品変わると言うではないか」

 

 ダクネスは防御型の戦士であり、他に自分に出来そうな仕事が殆ど無い。

 一応、貴族の娘ではあるけれど異世界なので自分の立場は生かせない。

 

「拠点を変えた方がいいと思います」

「……それしかないか」

 

 とはいえ、自ら危険な場所に向かうのは気が引ける。けれども金は欲しい。

 異世界なので何か発明でも資金を稼げないか、日々悩んでいた。

 その中で得た『口だけの賢者』なる存在の噂を耳にする。

 二百年前に居た有名人で数々の発明品を世に広めた人物らしく、これがまた自分がやろうとしている事にソックリで驚いたものだ。

 説明は出来ても作る技術が無い為に付いた二つ名だとか。

 

「その賢者は牛頭人(ミノタウロス)だそうだ。亜人の国にも賢いものが居るようだな」

「実際に作って売り込めれば多少の収入源にはなるかもしれないが……」

 

 問題は何を作るか、だ。

 素材を手に入れるにしても何を集めればいいのか分からない。

 一番の問題はマジックアイテム類の値段の高さがネックとなっている。

 どこかにダンジョンでもあれば潜って探索するところだ。だが、その手の話しは中々得られない。

 あるとしても銅プレートでは請け負えないものだったりする。

 なにより冒険者はギルドが事前に調査したところにしか行けない安全な職場だ。

 白金級以上でも無いと危険な場所に行けない、と聞いた。

 銅から白金級になるのにどれだけの時間がかかるのやら。

 

          

 

 仕事から帰った立花達と合流した時は夕方になっていて、飲食する為にカズマ達は街中を散策する。

 安宿のお陰で多少の余裕が生まれている。これは物価の安さに素直に感謝するしかない。

 

「ギルドでも飲み食いできるけど、いつもの食堂でいいか?」

「はい」

「すっかり常連のようだな」

 

 ターニャの言葉にカズマは軽く呻く。

 料金が手ごろなのでよく利用しているだけだ。ただ、アクアが悪乗りして大食いさえしなければ何も問題は無い。

 女神のクセによく食べる女だ。

 

「酒場で芸を披露していると飽きられたりしないのか?」

「酒場を盛り上げる仕事として重宝されているわよ」

「そうか」

 

 ギルドの仕事ではないので昇進には一切関わらないのが残念なところだ。

 スラム街のような場所ではない為か治安は悪くなかった。

 たどり着いた食堂には多くの客で賑わっていた。

 大衆食堂の一つで仕事終わりの兵士達も利用している。

 

「……この国は肉類は豊富だが魚類は少ないんだよな」

 

 日本人として和風な食事が恋しくなる。

 お粥に似たオートミールが一般的とはいえ、肉の他に魚が欲しくなる。

 は割りと貴重なようだが塩分補給はとても大事だ、と思う。

 そもそもこの世界の海は真水だとか。

 では、どうやって塩を手に入れているのかといえば第零位階魔法で出すのが一般的、という解答があった。

 同時に胡椒(こしょう)も魔法で出すらしく、魔法学院の学生が日々、魔力を使って生成しているらしい。

 別名『生活魔法』とも呼ばれる第零位階はカズマ達にとっては未知の力だった。

 魚は鮮度を保つ方法が確立されていないだけで居ないわけではなく、多くが保存食として輸入されている。

 直接食べたければ北の海まで行った方が早いのだとか。

 

「肉類が多いお陰で筋肉質な人間が多いわけだ」

 

 特にランクの高い冒険者の筋肉は凄まじい事になっている。

 それと料理にかけられる得体の知れない色のソースが食欲をなくさせる。

 不味くは無い。ただ、吐き気を催すだけだ。

 慣れれば平気になってくると思うけれど、それまでは苦行になる。

 一通りの注文を済ませ、静かに食事を取る。

 ソースは酷いが野菜と肉は豊富。パン食もあるので極端な不自由さは感じない。

 

「このままダラダラと暮らしていいものか」

「元の世界に戻る方法が無い以上は仕方が無い」

 

 そもそも転移に詳しい人間が見つからない。

 死者を転生させてきた女神アクアとて知らない世界で戸惑っている。

 本来なら担当の女神が何処の世界にも居て、連絡を取れる筈なのだが、それが現在は出来ない状態になっている。

 下手をすれば一生この世界で暮らす事になる。

 

「……普通に考えれば転移させる事が出来る()()とやらを見つけるのが早道なんだろうな」

 

 肉を食べつつターニャは独り言のように呟く。

 自分ひとりならまだしも集団となると何者かの意思が介在しているように思われる。

 その何者かが分かればいいのだが、転移先の世界の住人がその情報を持っているわけも無いので困っている。

 むしろ持っていればそれはそれで凄いけれど。

 

「何者かの召喚という線は考えにくいのだが……。何も情報が得られないところが一番の問題だな」

「それはそうなのだが……。本当にどうする事も出来ないのか」

 

 ダクネスが言う。

 解決策が都合よく出てくれば誰も苦労はしない。それはアクア達とて分かっている。

 

「……じゃあ、向こうの世界で言うところの死んで神様の元に行くっていう手はどうだ?」

 

 と、カズマが言った。

 実際問題として()()()()()()()()()()()()()()ので、荒唐無稽という訳ではない。

 

「えー……。死ぬのは嫌よ」

「駄目もとで言ってみただけなんですけど」

「カズマは確かに何度も死んで女神に会っていたんでしたね」

「さすがにエリス様が現れるかは分からないが……」

 

 他に方法も無い。

 とはいえ、安易に死ねるわけも無い。

 ギャグ要素の多い作品だからこそ出来る方法であり、別の作品である『リ●●』など毎回、主人公がとてつもない覚悟を強いられる。

 いざその時になれば普通の人間は足がすくむものだ。

 

「……ギャグ要素って」

「なんですか、そのリ●●というのは?」

「何度も()()()()を体験する作品だったような……。●●系列の別作品の事だよ」

「●●系列?」

 

 めぐみん達にはうかがい知れない単語が続き、首を傾げられた。

 『この素晴らしい世界に祝福を!』がかつて投稿されていた小説投稿サイト(なろ●)に今も投稿されている作品でもあり、アニメ化もされた事がある。

 冴えない主人公が酷い目に遭い、尚且つ決まった地点へ何度も死に戻るので精神的に鬱になっていく過程が()()()人気となっている。

 

「……このすば伏字にしなくていいんですか?」

「俺達の事はクロスオーバーとして書かれているから問題ないんじゃないか? そうでなければ俺たちの名前全て伏字しないと駄目なんだぜ、著作権的に」

「……ふ~ん」

「もしリ●●の作品もクロスオーバーするようだったら伏字は解放される筈だ」

 

 開放されないのはクロスしていないからだ。

 後、リ●●が参加する予定は無い。

 

「あ、あの……」

 

 と、今まで大人しく食事を続けていた立花が声を出す。

 

「んっ?」

「死ぬしか元の世界に戻れない……、ものなんですか?」

「そういう方法というか可能性がある、というだけだよ」

 

 もし、それしかないなら立花としては選びたくない選択だ。

 人を守る為に頑張ってきた自分が人殺しのような事に手を染めるのは抵抗がある。

 そして、誰かが犠牲になる方法など絶対に選びたくない。

 

「こういう展開の時は大抵、首謀者っていう奴は案外近くに居たりするものなんだが……」

 

 転移先で最初に話しかけてきた人間とか。

 明らかに他の人間と違うオーラを放っていたり、とか。

 カズマの場合は側に居る女神アクアが一番疑わしい存在となっている。

 

「仮に一生を過ごすとして、それを受け入れるのは簡単ではないだろうな」

 

 将来を見据えるのも悪くは無いが、今はまだ戻りたい気持ちが強い。それが日に日に薄れていけば流石に覚悟を決める。

 というよりは幼女に転生した時点で自分は元の世界に戻れない気がするけれど、とターニャは思う。

 転移ではなく理不尽な存在Xによる転生だ。

 


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