ラナークエスト   作:テンパランス

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#067

 act 5 

 

 仕事が始まって数時間が経過した。

 散発的に襲撃がある程度で今のところ凶悪なモンスターの出現は認められなかった。

 懸念していた巨大モンスターも姿は確認できなかった。

 

「そろそろお昼時だ」

 

 昼になったからといってモンスターが活動をやめるわけではない。

 警戒は怠らず、テントに戻る。

 

「今日は割りと出現数は多い方だ。運がいい日は数体しか出なかったりする」

 

 他の冒険者も利用するのだからすでに討伐された後、という事も珍しくはない。

 目ぼしい収穫が無いのは寂しいけれど、誰も脱落していない事を幸運と思わなければ次の戦闘は出来ない。

 無謀な勇者は帝国には数えるほどしか無い。

 低ランクの冒険者は基本的に地味な仕事の積み重ねだ。偉業は夢として捉え、今日を生き延びた事に感謝する。

 

「という……。命は大切って事さ」

 

 ()()ならば()()()()()()()()の如く()()()()たくさんのモンスターが現れるものだ。

 それが地味な戦闘しかないのはターニャにとって意外だった。

 立花はよく理解出来ていないようだが、他の作家モドキならどういう進行を書いているのか。

 メタフィクション的に思考するならば都合の良い展開の連続か、基準となる作品のコピー、またはトレースが順当か。

 例えば、もう少しで嵐のごとく怒涛の展開に持ち込むのが凡百の二次創作では起きる可能性が高い。というか起きないと地味で平凡で何も面白くない平坦な流れとなる。

 ここで突然、意味も無くクレマンティーヌが登場したら面白いだろうか。同じ声(悠●碧)が三人揃う事になるし。などとモノローグが下らない事を考えている内に()()()()()に昼食の時間が終わってしまった。

 

「……普通なら何かイベントが起きてもいい頃合なのに……」

 

 あれー、と首を傾げるターニャ。

 それとごく普通に戦闘準備を整える冒険者達。

 彼らとて名前が出ていないが充分、襲撃クエストの容疑者になりうるのに。

 おいおい、ここに幼女が居るんだぞ、なぜ襲わない、と。

 

「どうしたのターニャちゃん?」

「……いや、平和で結構な事だと思って……」

 

 騒動を自分で望むのは不謹慎なのだが、いつもなら小説作品として何がしかのイベントが起きるのが一般的だ。

 それが無いのは怪しいと言わざるを得ない。

 そもそも異世界転移は大体都合よく行く先々で騒動が起きる。事実、アクア達はけっこう色んな重大イベントに巻き込まれてきた、筈だ。

 確か()()に入ったのではないのか、と。

 

「君らはまだ休んでていいぞ。新たなモンスターの気配は無いから」

「はい」

「昇進試験だからって都合よく大群が現れたりしないもんさ。とにかく、俺達の仕事ぶりを観察するんだな」

 

 気さくな冒険者が手を振りつつ辺りの警戒任務につく。

 それだけならば何の変哲も無いものだが、何も起きない状況は慌しい日常を送ってきた者からすれば異常事態に匹敵する。

 

          

 

 それから数十分おきに骸骨(スケルトン)が現れる以外は苦境に立たされるような状況にはならず、段々と周りが薄暗くなる。

 霧が濃くなったわけではなく、日が落ちてきたからだ。

 闇が濃くなるとアンデッドモンスターの発生頻度が高くなるらしい。

 夜行性のモンスターが多いともいえる。

 

「テント周りはまだ無事だな」

「はい。小動物も居ないようです」

 

 骸骨(スケルトン)の整理を終えた立花が元気よく答えた。

 頻繁に出て来たモンスターのお陰か、怖がらずに残骸をまとめられるようになったようだ。

 生物である動死体(ソンビ)などは今のところ姿を見せていない。

 大抵は土に養分を吸い取られて骨だけになるのかもな、と冒険者の男性は笑いながら言っていた。

 不思議と骸骨(スケルトン)が多い理由に納得がいった。

 

「骨の集合体のモンスターも居るけれど、集めた程度ですぐにモンスター化するわけじゃないから。埋めたやつは数日はおとなしくしている筈さ」

 

 処分できないのだから埋めるか、放置するしかない。

 一時間後には真っ暗闇となる。

 『闇視(ダークヴィジョン)』のアイテムやスキルを持つ者にとっては夜間の活動も支障なく出来る。

 低位階の魔法である闇視(ダークヴィジョン)の効果は視覚的に真昼のように映すものである。

 なので周りが明るくなるわけではない。

 周りを明るくする場合は『永続光(コンティニュアル・ライト)』を使う。

 魔法で点ける電灯のようなものだ。

 少し経てばあちこちから明るい光りが見えてくる。

 

「君達は早めに休んでいいぞ。夜間戦闘が出来るなら周りの警戒をするように」

 

 そう言い残し、冒険者達は自分達のテントに戻って行った。

 モンスターが何処から現れるか分からない場所で寝泊りすることも立派な仕事かもしれないが、立花は平気なのかターニャは疑問に思った。

 軍隊教育でなら珍しくは無いのだが、変身出来る女子の日常生活に(うと)いターニャとしては少し心配だった。

 索敵が出来るんだった、と思い出したターニャは術式を展開する。

 空中にテレビ画面が映し出されるような仕組みは現代社会でも不可能な科学術だが、自分が居た世界では可能となっている。

 首から提げた演算宝珠というアイテムは本当に多機能で驚かされる。

 アンデッドモンスターに類する敵影の姿は自分たち以外には無さそうだ。遠くにはいくつか光点として移動しているけれど。

 『祝詞(のりと)』を使わない限りにおいての使用は特に問題は無いようで安心する。

 意外と自分も急な転移で正常に頭が回らなかったようだと苦笑する。

 その後、少し冷えてきたせいで所用(おしっこ)がしたくなってきた。霧があるとはいえ冒険者達は視界阻害対策をしていて周りを鮮明に映している。

 我慢し続けるのは身体に悪い。

 こういう時のための道具は持ってきていたが、いざ使う場面になると抵抗を感じるのは身体が少女だからか。

 テントから出れば漆黒の闇。だが、テント周りは魔法の明かりで数メートル先までは見通せる。

 光りがギリギリ外れる位置に穴を掘り、立て板を設置して簡易トイレを作る。

 消音はどうしようかと思ったが、それほど響くような地形ではない筈なので気にしても仕方が無いと諦める。

 数日掛かりの仕事に排泄は必須。これも慣れていくしかない。

 


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