ラナークエスト   作:テンパランス

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#068

 act 6 

 

 仮眠を繰り返し翌朝になると戦闘の音が聞こえてきた。

 あまり身体が休めたとは思えないが横で寝ている筈の立花を見るとしっかり熟睡していた。

 

「………」

 

 外にモンスターが居てもしっかりと眠れる精神には感心する。

 銃声溢れる世界ではないから上のランクの冒険者が頑張っている限りは安全かもしれない。もちろん、彼らに任せていられるほど安全かは分からないけれど。

 とりあえず、まずは水で濡らしたタオルで顔を洗う。

 飲料水にも使うので無駄には出来ないが、汚いままというのは何かと不衛生だ。

 宝珠で索敵しつつ立花の顔も拭いてやる。

 

「……霧にもアンデッド反応があると聞いていたが……、画面は正常だな」

 

 画面の確認を終えてテントから出て他の冒険者達のテントを確認する。

 既に彼らは外で支度を整えていた。

 何度も同じ仕事をしている為か、動きに無駄があまり無い。

 鉄級とはいえ昇進するまでに請け負った仕事には差がある。

 一年で昇進する者も居れば数ヶ月で達成するものも。もちろんターニャ達のように短い期間でなる、かもしれない者も居る、筈だ。

 そもそも昇進は任意で拒否権があるという。

 それはそれぞれの冒険者の力量に任せられていた。

 

「おはようさん」

 

 気さくな挨拶をターニャは軽い微笑で返す。

 戦闘は激化するほど激しくはなく、モンスターの出現頻度はとても低かった。

 それから立花が起きて周りを警戒すること三時間は経過しただろうか。その間、遠くで戦闘する音はしたが近くに来るモンスターの姿は無かった。

 このカッツェ平野には全体で数百人規模の冒険者が常に来ているらしいし、兵士達の駐留する施設も存在する。

 それゆえにモンスターの絶対数は思っているほど多くならない。

 それと霧で把握しにくいがカッツェ平野はターニャ達が思っているほど広大である。

 

「今回は外れかな……。昼ごろになったら帰ろうか」

「……せめて首無し騎士(デュラハン)くらい出ると思ってたんですが……」

 

 難度でいえば75ほどのアンデッド。目撃例が報告されているが滅多に現れないのでレアモンスターとして知られている。

 難度が高いけれど強さは未知数。そのモンスターが騎乗するアンデッドの馬は首無し馬(コシュタ・バワー)といい、難度は60ほど。

 発見例が少ないだけで難度が高く設定されていて、実際はあまり強くないという噂があった。

 バハルス帝国の帝都アーウィンタールの街中に居る死の騎士(デス・ナイト)は難度105。

 こちらは一般の冒険者にとって(もっと)も警戒すべき存在して昔から知られている。

 その強敵から見れば一般に知られている大体のアンデッドモンスターは雑魚に見えてしまう。

 

「痛って!」

 

 急に一人の冒険者が叫んだ。

 

「どうした!?」

「背中を撃たれた。たぶん魔法の矢(マジック・アロー)だ」

 

 第一位階の攻撃魔法である。

 当たった感じでは致命傷ではなく、防具に守られたお陰で軽傷で済んだ。

 

「……死の大魔法使い(エルダーリッチ)ではなく骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)だな、きっと」

 

 魔法を使うアンデッドモンスターは武器を持つ者より難度が高く、強敵が多い。

 

「杖を持った骸骨(スケルトン)が居たら、真っ先に倒せ!」

 

 と、怒号のように命令を下し、冒険者達は身を守りながら索敵し始める。

 

「君達も警戒しておくといい。一度、狙われると()()()()()()魔法だ」

「は、はい!」

 

 立花が返事をし、ターニャは索敵に入る。

 攻撃はそれ程激しくないので一体だけかもしれない。

 位置の特定くらいしか出来ないが魔力反応を探る。

 霧で見えないがたくさんの岩場があるので冒険者を狙う事自体は何処でも可能となっている。

 既に充分に日が昇っている筈だが周りは相変わらず薄い霧に覆われて視界は不明瞭だった。その中でモンスターは苦も無く攻撃を仕掛けてくる。

 ポケットに忍ばせた小石に追尾と狙撃用の術式を仕込むターニャ。

 後は敵を見つけるだけだが索敵範囲が少し広すぎる為に対象を絞れない。

 魔力の痕跡は低位階のせいか、とても薄く探すのが難しい。

 

魔法の矢(マジック・アロー)は狙われれば標的に()()当たる」

 

 と、言いながら駆け出す冒険者。

 ターニャ達に自分の身は自分で守れ、という意味で助言をしてくれたと判断する。

 散開する各冒険者は盾などを掲げて敵の攻撃に警戒する。

 少なくとも地面からは放たれていない、という見当をつけて。

 

「地上にモンスターの気配なし」

 

 互いに声を掛け合い警戒する。

 一見、敵に居場所を伝える危険な行為にとられるが相手が動物などでは威嚇の意味がある。

 もちろん、アンデッドに聴覚があれば驚かせることもあるかもしれない。

 あとは自分達に活を入れる意味もある。

 

「標的にされたのなら近くに居るはず」

 

 ターニャは航空術式を使用し、宙に浮く。それを見た立花は驚いた。

 何かしらの能力はあるんじゃないかなー、とは思っていたけれど目の当たりにすると声に出る程の驚きがあった。

 そんな立花の驚愕を無視して敵影を捜索するターニャ。

 魔法を使う骸骨(スケルトン)なら杖などを持っているという話しだった。

 

「……あれか」

 

 数十メートル先の物陰にそれらしい骸骨(スケルトン)を発見する。

 すぐに狙いをつけて小石を投擲。すると手から離れた小石は意思を持ったように標的に向けて一気に加速していった。

 それから数秒後に小さな爆発が起きる。

 大規模な爆炎術式ではないので、周りの霧は大して吹き飛ばせなかった。

 念のために他の魔法を使いそうな骸骨(スケルトン)を探してみたが見当たらなかった。

 

「標的は粉砕した」

「君も魔法詠唱者(マジック・キャスター)だったか」

「似たようなものです」

「ああいう手合いも居る、という事だ。君達もモンスターと戦う場合は防具をなんとかした方がいい」

 

 軍服と普段着で居る時点で冒険者として失格だ。

 それについてはターニャは文句は無かった。

 


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