ラナークエスト   作:テンパランス

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#073

 act 11 

 

 風鳴達がたどり着いたリ・エスティーゼ王国領内に存在する『マグヌム・オプス』という施設に滞在して数日が経過した。

 天羽奏(あもうかなで)は療養の為に施設にある建物に残り、風鳴が看病を続けていた。

 他のメンバーの雪音達は食事と寝泊りに関して不自由することなく過ごし、今日は施設の責任者の代理人と思われる女性『リイジー・バレアレ』に地下に案内される事になっていた。そしてすぐに視界に飛び込んできた景色に一同が驚く。

 白い外壁で囲まれた広大な地下空間に。

 壁面はほぼタイルなのだが高さが約百メートル。

 足場が殆ど見当たらない中で天井附近までしっかりとタイルが張られていた。

 

「地下二階層とはいえ、すごいじゃろ」

 

 と、見た目は三十代の程なのに年寄り臭い喋り方をするリイジー。

 

「……秘密施設か何かなのか?」

「まあ、そんなもんじゃ。一部は(わし)でも行けない部屋があったりする」

「お約束の口封じデスか?」

「ここの(あるじ)は勝手な進入は許さないが、入れる場所は民間にも()()()()解放されとるよ」

 

 この施設を作り上げたのは王国の職人たちだ、とリイジーは説明する。

 全ての部屋の構造は作った職人に聞けばいいけれど、問題は中身だった。

 部屋の中に何があるのかは秘匿されている。

 

「以前は解放されていた部屋も封印されたりしておるし、使用の度に色々と変化している面白いところじゃ」

 

 と、本当に楽しそうに言うリイジーは邪悪な魔女のように感じた。

 白い壁面の空間のせいか、血生臭い印象は無く、床もほぼ全て白いタイル張りだった。

 建設の際に出た大量の土砂を再利用して作られたとか。

 

「多くの職人が関わっていた頃は、それはもう凄い光景じゃった。拡張工事はこの辺りも大賑わいとなっていた」

 

 終われば寂しいものだが、一大工事はなかなかお目にかかれるものではない。

 そうして全員が地下一階にたどり着くと仕切り壁がたくさん見えてきた。

 それは部屋をいくつかに分けて個人使用するための簡易的な壁で、それぞれの研究者の邪魔にならない程度だという。

 壁にはたくさんの黒板が張られ、様々な文字が書かれているが、中には梯子(はしご)を使わないと届かない高さにあったりする。

 

「出口を塞げば監禁できますね」

「そういう事をすると国から怒られるのでな。一応、ここは国王も視察に来られる。あと定期的な監査も入る」

「そこはちゃんとしてるんですね」

 

 と、マリア達は感心する。

 後方に居るレオンミシェリ達もそれぞれ一様に驚いていた。

 物は溢れているが人の気配が殆ど無い。

 それは今の時期は研究者が利用していないだけだと普通に答えてきた。

 

「こんな物騒な施設を使うもんは多くないからの。三日も篭れば精神的に参ると言われておる。慣れれば一ヶ月は平気になるかもしれんが……。最初は逃げ出す者も多い」

「圧迫感は感じませんが……」

「それは……、他の部屋を見ていないからじゃ。この下は羊皮紙生産工場。向こうは怪しいモンスターの貯蔵庫となっておる。それを見ても平気と言えれば大したものじゃ」

 

 と、言いながら笑うリイジー。

 若い女性のはずなのに不安なことばかり口走るのは性格なのか、と。

 まず、物を荒らさない事を伝えて見学の許可が降り、それぞれ散開する。

 五百メートル四方はある広大な地下空間は目測では分からない圧倒的な雰囲気があった。もちろん、天井も凄く高く感じる。

 高い位置に魔法による明かりがたくさん設置されていて天窓も一応あり、室内はかなり明るかった。

 天井を支える太い柱が何本かあり、それだけでも物凄い重量を感じさせる。

 

「研究はそれぞれの者によって異なるが……、魔法文化が多いかの」

「天井が無駄に高いデス」

 

 と、(あかつき)切歌(きりか)が天井を見上げて言った。

 何だか勿体ない気がする、と。

 

「本当は中二階のようにする施設のようじゃが。ここは吹き抜けにしておる。大規模な宝物庫とも呼ばれておるから、(あるじ)にとっては充分な高さとして設定しておったようじゃ」

 

 一階層の高さは百メートルほど。それだけの規模を必要とする部屋には見えないけれど、何処かの部屋はそれだけ必要な仕様になっている、という事かもしれない。

 これだけの高さを必要とする部屋とは何なのか。

 

「誰も居ないと声があまり反響しないな」

 

 一気に声が吸い込まれ、自然と小声になる。

 天井が高いことも影響しているのかも、とマリアは思う。

 

「扉と階段があるけれど、こんな部屋がまだいくつかあると……」

「金貨が山になっている部屋は封印されておるが……。地下二階部分は降りられた筈じゃ」

「金貨が山!?」

「まさに宝物庫デス」

 

 光り物に弱い女の子達の目が輝いた。

 

「そこの扉に近付いて誰も現れなければ封印が解除されている筈じゃ。ちょっと行ってみぃ」

「……明らかに罠の気配がしま~す」

「私達の勇気が試されているわ、キリちゃん」

 

 レオンミシェリ達は壁際を移動してタイルに手を当てていた。

 見た目からは古臭くなく、比較的新しい施設なのは理解した。だが、これだけの規模はなかなかお目にかかった事が無いので驚いた。

 自分達の城では細々(こまごま)とした感じになっているが、ここは無駄があまり無い。

 柱もタイル以外の装飾は無く、それゆえに白さが映えている感じだ。

 

「多少、空を飛んでも平気そうじゃな。レオ姉」

「……うむ。しかし、他の部屋も見てみたくなるな」

 

 荘厳と言うには装飾が足りないけれど白亜の宮殿くらいはあった。

 

          

 

 リイジーの案内で五の宝物庫カエルス』の扉の前に移動する女性陣。

 部屋の扉は全て『両扉』になっている。

 施設全体の形はほぼ正方形。それと迷宮のような作りにはなっていないと説明を受ける。

 財宝が眠る場所は大抵が迷宮だと思っているのが数人居た。

 

「この施設を管理しているのは隠れているメイド達じゃが。それらが扉の前に現れた場合は封印されているという事じゃ。無理に通ろうとすれば何所かに転送されてしまうので勝手な行動はしないように」

「はい」

「メイドが出てくるのか? 誰も居ないようにしか見えないのだが」

「瞬間移動でな」

 

 リイジーが扉に手を当てると何も起きなかった。それだけで彼女は大きく息を吐き出す。

 

「どうやら大丈夫そうじゃ。久方ぶりで中を拝めるようじゃな」

 

 ニッコリ笑顔のリイジーは扉の取っ手を引いた。

 長く使われていなかったせいか、ギギィと錆び付いた様な音が物静かな部屋に響き、すぐに消えていく。

 以前見た時は下一階層を埋め尽くすほどの量があったのだが、現在はだいぶ減少していた。

 

「おおっ! 金色じゃ!」

 

 クーベルが階下に見える黄金を見て喜びの声を上げた。

 少ないとはいえ一面を埋め尽くす黄金の絨毯は健在のようだ。

 

「……思っていたより少ないが……。まあ、これはこれで美しいのぅ」

「以前はもっと多かったのですか?」

「完全に一階部分は埋まっておった。やはり魔法触媒として使いすぎたのが原因じゃな」

 

 というよりはそれだけ必要だったという事だ。

 いかに大量の金貨とて大きな目的の前には単なる触媒となる。厳しい現実にため息が出る。

 ただ、これらの金貨が流通すれば確実に財政が圧迫される。

 物価が乱れ、商売が成り立たなくなる。

 

「降りても大丈夫そうじゃが……。言っておくが……、一枚たりともやれんぞ? あれらは魔法触媒として使われるのでな」

「記念にもらえないのですか!?」

 

 この金貨とてどういう手段で手に入れたのか知れば欲しがらないと思う。だが、それを見ず知らずの客人に教えて怖がらせては孫に怒られる気がした。

 仕事次第では現地通貨の金貨くらいは考えてやらんでもない、と思った。

 

「代わりにもう一つの宝物庫に行きたいのじゃが。もし、入る事が出来れば何がしかやれるかもしれん」

 

 金貨は魔性の硬貨。

 この黄金の海を見れば大抵は目が曇る。

 仮に持ち去ろうとしても大規模魔法の触媒として強引に使用されて消える運命だ。

 ここにある金貨はほぼ一蓮托生。自動的に移動する性質がある。

 

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