ラナークエスト   作:テンパランス

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#075

 act 13 

 

 アイテムの解説を受けつつ客人用の品物を一つずつ受け取る面々。

 それがどういうアイテムかは知らないがリイジーからは持って行っても大丈夫な物だと聞かされる。

 

「一般的な魔法触媒に使われる宝石じゃ。もちろん、装飾品に使う事も出来る。数が多いのはありふれたものじゃが……。お主達には現金の方が良かったかの?」

「これはこれで綺麗です」

「……でも他人のなんだよな? いいのか、貰っちまって」

 

 雪音はいぶかしむが他は嬉しがっていた。

 その様子に呆れとため息が出る。だが、くれるって言ったのだから貰わないともったいないという気持ちもあった。

 

「盗掘されるよりは与えた方が良い。という指令書があっての。全部はやれんが……。そこは自己判断かの。(わし)の気付かない間にアイテム類が増えておったりするから、ある程度は平気なんじゃろ」

 

 誰が何処から調達してくるのか、それはリイジーには窺い知れない。

 盗品という可能性については不明だが少なくとも市販品のような細工はなく、どこからか採掘したままの無骨なものが多い。

 先日も大きな箱が持ち込まれたばかりだ。それらはいつの間にか消えていたが。

 

「……でも、やっぱりシーツの中が気になりますね」

 

 棚の半分以上が覆われている。それらは自分たちが見ている以上に貴重なものが入っているという事だ、と思う。

 開けようとすればメイドが現れるはずだが、リイジーはどうしようか迷った。

 自分も興味があるので。誰かを犠牲にしようかな、という邪悪な考えが浮かぶ。

 すぐに孫の怒った顔が浮かぶ。

 

「シーツの中にあるのは迂闊に触れると人間をやめてしまうような危険なアイテムがあるからですよ」

 

 と、源次郎が言った。

 

「はっ? 人間をやめる?」

「分かり易く言えば、アイテムに触れると私のような化け物になる感じです。そういうのがあるんですよ」

「ということは貴方は……元は人間?」

「ははは。姿は前々からです。アイテムのせいではありません」

 

 と、丁寧な口調で答える得体の知れない化け物。

 確かに触れれば姿が変わるものであれば封印されて当たり前だと思う。それが綺麗な宝石なら迂闊に触れることもありえる。

 

「元に戻れなくなるんだな、きっと」

 

 戻れるなら封印はしない筈だ。

 客人の安全を考えれば至極当然の対策だと言える。

 

「お嬢さん達はここにあるアイテム類の正しい使い方をどれだけご存知だろうか?」

 

 源次郎の真面目な言葉に対し、誰もが黙って彼を見る。

 誰も正しい使用方法は知らないので何人かは首を横に振る。

 

「ただの美しい宝石とかじゃないのか?」

「貴金属としては正しいけれど、それだけでは勿体ない」

 

 先ほど魔法触媒に使われると聞いたばかりなので、それぞれその言葉を思い出す。

 何らかの魔法を使う際に必要な物質、という認識でいいのか疑問に思う。

 

「羽根一枚。針金一本なども魔法を使う時に消費される触媒です。分かり易く言えば魔法詠唱者(マジック・キャスター)や創作系にとって素材というのは貴重な存在です。当たり前ですが……、使えば無くなる」

 

 特定の用途に使う魔法が多ければ素材を求めて冒険しなければならない。

 高額な物もあり、入手が困難な物質も存在する。

 この宝物庫はそんなアイテムを貯蔵している。

 

「でも、他人の施設なんでしょう?」

魔導国が世界で暴れない限りにおいてアイテムの使用を許されている……。と聞いておりますので」

「……そういう取り引きがあるのか……」

 

 例えそうであっても泥棒みたいな真似は許されるのか、と思う者が多数。しかし、許されているからこその行動ならば自分たちが文句を言っても仕方が無い。

 または口が上手い詐欺師か、だ。

 

「盗み目的なら根こそぎ持っていきますよ」

「……そりゃそうだ」

 

 先ほどから選別作業をしているのは雪音の目から見ても理解した。

 無闇に持っていくだけではなく、言葉どおりアイテムの整理整頓も同時にしている。

 とはいえ、責任者の言葉が無ければ何も信じられないし、自分もきっと何も信じない。

 持って行っていい物があるならば素直に貰って、責任はリイジー達が取ればいい。

 そういう発想が浮かぶ。

 一応、マリア達は手に取って選別を始めている。貰うかは別、という考えの下で。

 本当に客人用に取り分けられた宝石箱があり、宝石の原石に見えるものがたくさん詰まっていた。

 加工品はほぼ無い。それは宝石を触媒としてしか見ていないからだという。

 

「しかし、宝石に目が無いならマジックアイテムはどうなのかな?」

そっち(マジックアイテム)はよく分かんねー」

 

 素直に雪音クリスは答える。

 

「……どうでもいいけど、最初にフルネームが出るようになったのは何故なんだ?」

 

 前までマリアのフルネームだけは出ていなかった筈なのに、と。

 

「いきなりこの話しから読む人の為ではなくて?」

 

 ちょっとした事だがフルネームが出ると少しだけむずがゆく感じる。

 一度出ればしばらく苗字や名前だけになるけれど。

 

「名前だけしか公開されていないキャラクターは特に気にしない事ですけどね」

 

 と、源次郎が笑いながら言った。おそらくは苦笑の(たぐい)だ。

 見た目が気持ち悪くて表情の変化が視覚的に捉えにくい。

 

「そういえば、旅の資金が要るじゃろ。後で返すなら貸してやろう。これらの宝石は売らん方がいいぞ。勿体ないからの」

 

 宝石とは別に資金を提供すると言われてマリア達は戸惑う。

 確かにお金は必要だ。いつまでも施設に厄介になる事は出来ない。

 食費もタダではないと聞いている。

 ここで働くにしても客自体が滅多に来ない。

 

「時期の問題もあるからの。今のところ助手は間に合っておるし、この施設の警備は(わし)の仕事ではない」

 

 友人や困っている旅人に多少の許可を与える権限があるだけで施設の運営に口出しできるほど大層な事は出来ない、と思う。

 先ほどから出てくる孫と冒険者の二人がかなりの権限を有しているのは確かだ。

 

          

 

 それぞれ欲しい貴金属を手に取ったところで今後の事を決めていかなければならない。あと、風鳴達の分ももらっておいた。

 

「あのモジャモジャモンスターが居なくなっておる」

「帰ったんでしょう」

 

 源次郎が去った後でリイジーは棚を確認するが根こそぎ持ち去れた形跡は確認出来ない。

 本当に整理整頓する為だけに来たのかは怪しいが後で孫に聞いておくことにする。

 

「私達は立花さんの捜索がありますし、街には行きたいです」

「我々はほぼ元の世界に戻る方法だな」

 

 そんなものがあるのか。それとも元の世界であるフロニャルドから通信でも(こころ)みてくれることを祈るしかないけれど。

 不安の方が一杯だが、立ち止まっていても何も解決しないのは分かっている。

 それと寿命の問題でクローシェは物静かになってしまっていた。

 

「ダイキリなんとかってアイテムに似たものはあったか?」

「この世界にあるとは思いません。ああいうのは特別な製法を持つ組織が製作しているものなので」

 

 単なる回復アイテムではない。

 レーヴァテイルにとって必要不可欠のアイテムだ。それは瑠珈も同様に。

 

我々も実は居るアピールした方がいいですか?」

 

 と、アデライドが言うと無理して言わなくてもいい、という意見が多かった。

 全員が順番に喋らなければならない必要性は無い。ただ、存在を忘れ去られてしまう確率は高まる。既に月読(つくよみ)(あかつき)、他に誰が居たか、この話しから読み始めた人間にはすぐに名前が出て来ないのではないか思われる。

 

「アイテム貯蔵庫の次は物騒な屠殺場でも見に行くかの」

「……本当に物騒な単語だが合っているのか?」

「モンスターを殺しまくる部屋じゃから……。間違っていないの」

 

 そんな部屋に美少女達を連れて行くリイジーは本物の魔女だ、と雪音達は思った。

 問題の突然現れるメイドは未だに姿を見せないけれど本当に居るのか気になってきた。

 今のところ安全な部屋を通っているから何も起きていない。彼女達が現れる事が危険なら姿を見せない状態の今がいいに決まっている。

 わざわざ危険な罠に自分から(はま)ろうとするのはバカしか居ない。

 問題の屠殺場こと四の宝物庫『ウェスタ』は吹き抜け構造になっていて高い位置にいくつかの明かりが設置されている簡素な部屋になっている。

 他の部屋とは違いタイルはほぼ無い。

 モンスターは居ないけれど過去に使用されたところは目撃している。

 

「何処からとも無くモンスターが現れるさまは脅威じゃった。今でもどういう仕組みなのかは分からん」

 

 あまりにもおぞましい方法だから秘匿されているのは理解している。

 この施設はモンスターを無尽蔵に貯蔵することは構造的に出来ない。

 いくら広いとはいえ限度がある。

 そんな事を解説しながら問題の部屋にたどり着く。

 やはりモンスターの姿は無く、薄暗く不気味なほどの静けさが雪音達の前に立ちふさがる。

 監視用の窓があり、風呂とトイレが完備されている他は調度品など全く無い。

 明かりとしてのアイテムが上に見えるのみだ。

 天窓が無いのは単に設計ミスだと聞いた覚えがある。

 外部から見えないように作ったけれど、明るさがやはり必要だと気づいた時は遅かった、という意見だけが記憶に残っている。

 今でも追加工事で作ろうと思えば出来なくはない。他の部屋には実際に天窓が設置されているのだが、この部屋はどうしてか工事が(おこな)われていない。

 

「薄気味悪いな……」

 

 クローシェは周りを見ながら瑠珈の服を掴んでいた。

 今にも何かが現れそうな気配がする。

 

「今までの部屋とは違い、ここは……本当に危険な気配がするのです」

「使用後には掃除するから綺麗なもんじゃ。残骸を残したままにはせんよ」

「鍛錬する場所だと思えば……。とはいえ、妙な威圧感はあるな」

 

 どう考えても普通の修練場とは思えない。

 レオンミシェリとて身体に感じる不穏な空気に毛が逆立ちそうになっている。

 クーベルの方は尻尾の毛が完全に棘のように逆立っていた。

 

「普通の人間でも最初は平気だと言うところじゃが……。一日経てば皆へたばるもんじゃ。今日は無理じゃが、使ってみるか? この施設の恐ろしさは体験する方が早い」

「鍛錬する場所としても壊しそうだが、壁は丈夫なのか?」

「武器はこちらで用意する。剣や魔法でひたすらモンスター退治するのが基本じゃ」

「……それなら壁を壊さなくて済むのか」

 

 壁に銃弾を浴びせれば壊れる。それは至極当たり前の事だ。

 原始的な武器で戦うからこそ施設は今も無事だということだ。

 

「案内したからとてモンスターを出す気は無い。というかどうやって調達するのか、(わし)は説明を受けておらんからの。一通り見学したら戻ろうか」

 

 これから出入り口が封鎖されて殺し合いでも始まる予感はしたが、何も無いと分かり安心するのが数名。

 レオンミシェリは不安を払拭する為に多少の戦闘は止むなしと思っていた。

 


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