ラナークエスト   作:テンパランス

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#078

 act 16 

 

 動きが鈍い彼女たちの訓練は二時間で終わりにした。

 本格的な鍛錬ならもう少し本気を出してもらわないと何の意味も無いけれど、初回はだいたいこんなものかとため息をつくイビルアイ。

 雪音達を地上に戻し、しばらくの滞在を許可した。

 元の世界に帰りたい、という希望は残念ながらイビルアイにはどうすることも出来ない。それは別に意地悪を言っているわけではなく、本当に方法が分からないからだ。

 似たような現象や被害者などが居れば傾向と対策は出来るかもしれないけれど、帰還方法の確立はそらく無理ではないかと思った。

 

「立花の捜索もあるし、すぐに見つかるとも思えない」

「ここでの飲食は村からの厚意だ。見かけたら礼を言っておくんだな」

 

 宿泊代は無理に取ろうとは思っていないが、それぞれの力の調査をさせろとイビルアイが言うと皆一様に渋い顔になった。

 知らない世界とはいえ機密情報をすんなりと出せるわけは無い。

 

「……だがきっかけになるかもしれない。それについてはすぐに答えは出せない」

「無理に答えを出せ、とは言わないさ。宿舎は次の都市に行きたくなるまで使ってかまわない。この辺りは『マグヌム・オプス』以外は広大な平原と田畑があるくらいだ。もし、移動を望むなら馬車の手配を頼んでおくぞ」

 

 イビルアイに感謝しつつ雪音達は部屋を選んでいく。

 それぞれが自分の部屋を選んだ後、イビルアイとンフィーレアは彼女たちの衣服の要望などを聞いていく。

 そうして一週間が過ぎた頃、施設に大仰な集団が訪れた。

 一方は南東から来た竜王国の一団。もう一方は南西の聖王国から。更に王都からは冒険者チーム『黄金の仔山羊』が。

 これはもうご都合主義を超えている。

 

「……話しの都合で色々と()()()()()()ところはあるかもしれないが……」

 

 と、大人数の集団を出迎えるイビルアイはため息をついた。

 事前連絡がしにくい施設ではあるが少なくとも王の視察の場合は事前に計画が立てられるので抜き打ちということはありえない。

 

「ようこそ、遠路はるばるお越しくださいました」

「うむ。興味本位で来てしまったが許せ」

 

 と最初に言ったのはイビルアイと同じくらいの背丈の少女。

 長い黒髪に大きな扇子で自分に風を送っていた。生意気そうな顔つきだが、それでも竜王国の女王で『ドラウディロン・オーリウクルス』という。

 お忍びで数ヶ月に一度、遊びに来るようになっていた。

 大抵はカルネ村に向かうのだが、小休止する時に『マグヌム・オプス』を利用する事がある。

 

「我々はローブル聖王国から来た聖騎士団だ」

 

 威勢のよい声で武装した集団が名乗りを上げる。

 

「ようこそ。この施設の管理を任されているイビルアイと言います」

蒼の薔薇のイビルアイ殿か。お噂はかねがね……」

 

 人数が多いのに対応できる人間が殆ど居ないのでイビルアイは忙しく立ち回っていた。

 合間にンフィーレア達も手伝いに来ているが、さすがに客人であるレオンミシェリ達には声をかけなかった。

 

          

 

 二つの王国からの来客は大変だがもう一つの来客である『黄金の仔山羊』は挨拶を省いた。

 同じ冒険者に丁寧に対応する余裕は無いので。

 チームリーダーたるラナーが率先して宿舎に向かい、空いている部屋を選定する間、それぞれの国の使者や従者達も宿舎に向かう。

 部屋数は多く、外でテントを張ることも許しておいた。

 

「ドラウディロン陛下は地下施設をお使いになられるのですか?」

 

 丁寧な言葉使いでイビルアイは言った。あくまでも他国の人間に配慮しての言動だ。

 地下に入れば元の口調に戻る可能性がある。

 イビルアイは現在、国の政治に関わる仕事を重点的に(おこな)っているので冒険者としての立場は取っていない。

 

「もちろんだ。……と言いたい所だが……、聖王国の鬼気迫る顔を見ていると……、向こうを優先してもいい気がしてきた。私はどうせ興味本位だし」

「分かりました」

「ついに亜人と戦争を起こす気にでもなったのか。その点、我々も他人事(ひとごと)ではないけれど……」

 

 気楽な足取りでドラウディロンは数人の従者と共に施設の中に入った。

 聖王国の方は色々と宿泊設備の設営で忙しいが、それらはンフィーレアに任せた。

 六の宝物庫(ユーノー)に先に降り立った聖王国の聖騎士達は辺りの調査を始めていた。

 勝手な事をされては困るのでイビルアイは簡単な説明を始める。

 ドラウディロンは何度か訪れているので入ってはいけない部屋の情報は覚えていた。

 

「改めて私は聖騎士団団長レメディオス・カストディオだ。早速だが……」

「話しを勝手に進めようとするな」

 

 傍若無人な振る舞いに対してイビルアイは黙って見過ごすほど人間が出来ていない。ゆえにすぐさま彼女(レメディオス)(たしな)める。それは他の国の人間にも良い影響を与えないと判断したからだ。

 聖王国の聖騎士団の団員数は二十人たらず。それらが一様に挨拶していくが中でも団長はどうも空気を読まない人らしい。

 次々と扉を開けようとしてしまい、落ち着きが無い。

 当然、封印の部屋を守護するメイドが現れるが他の団員がすぐさまレメディオスを引き剥がす。

 事前情報を団員達は持っているようで急な転移を受けた者は居ない。

 四大暗黒剣と対を成す四大聖剣の一本を持つ女性『レメディオス・カストディオ』は見目麗しい顔立ちを持つ。

 丸っこい茶髪は首元までしかなく、怒りを表すような鋭い目つきが特徴的だ。

 銀色の全身鎧(フルプレート)に白色の外套をまとう。

 腰に下げた剣の名は『聖剣サファルリシア』という。そのレメディオスに顔立ちが似ている女性は妹の『ケラルト・カストディオ』といい、信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。顔つきは姉とは真逆。いや、いつも姉に振り回されて気苦労が耐えない少し疲れたような感じに見えなくも無い、といった風であった。

 更に今回、聖騎士団と共に聖王国の聖王女カルカ・ベサーレス』も来ていた。

 二十代半ばの年齢であり、信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)。ラナーよりも大人びた美しさを持つ。

 白いドレス姿の聖王女は幻想的な絵画から抜け出したような雰囲気を漂わせている。

 美貌を維持する為に専用の魔法を作り出した、とも言われている。

 

「……今、人間凶器と言った人は誰ですか?」

 

 と、カルカが辺りに向かって言った。しかし、誰も返事は返さない。

 

「……12巻が発売されたからとて……、これは少し大盤振る舞いだな」

 

 イビルアイは呆れつつも聖騎士団をひとまとめにする。

 急な来客は今に始まったことではないが物々しいのは少し緊張する。

 

          

 

 まずラナーとカルカとドラウディロンをまとめて、残りは適当に座るように言いつけた。椅子が足りない場合は宿舎から持ってきてもいいと許可を出しておく。

 

小娘(ラナー)達はいいとして……。聖王女自ら来られるとは……」

「天啓があったのです。ここで活躍しないと私の出番が当分ないという……」

 

 腰まで真っ直ぐに伸びた金色の髪の毛と色白の肌。ラナーと並ぶと神聖な雰囲気が増したような気にさせる。

 顔立ちは優しさに満ち溢れ、落ち着いた物腰で対応してくる。

 ラナーは現在、冒険者としての仕事の為に武装していた。

 共に仕事に従事する面々は他の国と合同になるとは思っていなかったようで、それぞれ困惑が窺える。もちろんイビルアイも少し混乱していた。

 今日は世界が滅ぶのか、と。

 

「竜王国と聖王国の方々が来られているとは……。正直、意外です」

 

 バハルス帝国出身のレイナース・ロックブルズが言った。

 

「急な来訪をお許しくださいませ」

リ・エスティーゼ王国の『黄金』と名高い第三王女が冒険者になられていたとは……。ついに王国は滅亡でもしたのか?」

「いいえ、国は健在です、カストディオ様」

「こっちはバハルス帝国の『重爆』……。ひとつ手合わせ願いたいものだ」

「弱体化であまり貴殿の期待に応えられそうにないがな。もう少し待てば蒼の薔薇のラキュース殿も来られるぞ」

「……いよいよ、この話しも終わりが近い、ということか? まだ続きそうな筈なんだが……」

 

 そもそも目的は別の筈だ、とメタ的にイビルアイは疑問に思った。

 彼女たちが勝手に戦い始めたところで意味は無い。では、この状況は何なんだ、というとせっかくだからみんな集まってみようか、という程度ではないのか、と。

 人数が多くなって一人では対処出来ない。

 

「全員一片の強化は無理……。というか経験値が分散されて小鬼(ゴブリン)とか骸骨(スケルトン)程度のポイントしか得られなくなる」

「大勢の方が効率が良いのではないのか?」

「モンスターを提供する側が大変な事態に陥る。そんなに簡単に大量生産など出来ない」

 

 いくら万能の魔法とて効果時間を早めるとろくな事にならないものだ。

 わいわいがやがやと騒がしくなってきた頃に蒼の薔薇の面々が姿を見せる。

 

「……何かの陰謀か?」

「まあまあ。国の要人が集まっているというので私達は護衛任務の為に来たのよ」

「ラキュースが来たところで美人がほぼ勢ぞろいですわね」

 

 楽しそうに笑うラナー。

 ここで護衛にクライムを連れてくれば良かったかな、と少し残念に思った。

 彼は現在、王都で鍛錬している。

 

「魔剣と聖剣の戦いが見られるかも」

「そんな物騒なことはしません」

「……とにかく、全員の目的はほぼ同じだと理解していいのか?」

「私はそれでいいと思う」

「私もモンスター退治を仲間と共にやってみようと思います」

「我々は聖王国の民の為に強くなりたい。そのために噂に名高い物騒な施設を使わせてもらおうと思っている」

 

 と、レメディオスが力強く言った。カルカも同意の頷きで応える。

 やる気はそれぞれあるようだが、用意する方は簡単にはいかない。全員をいっぺんに強化することはイビルアイの経験上、初めての事になる。だからこそ不測の事態を想定しなければならない。

 

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