ラナークエスト 作:テンパランス
弱いモンスターから討伐していくが戦闘する人数が多いのですぐに対象が減ってしまう。
しかし、それでもやはり赤い帽子の
「なんだ、こいつは。こいつだけやけに身体が丈夫だな」
「そいつは
百越えの難度にレメディオスを含め、聖王国はほぼ全員が驚きの声を上げた。
「……つまりこいつ一匹で国を滅ぼせるってことか?」
「大量に出てくるタイプじゃねーから、アダマンタイト級が頑張れば倒せなくはないぜ。さすがに一対一じゃあキツイがな」
と、歴戦の戦士たるガガーランが言った。
だが、そんな
カルカが魔法で執拗に攻撃を加えてもびくともしない、ように見えるだけで多少のダメージは当たっている。
あらかた雑魚モンスターを倒していくが、やはり
仕事を終えたのか、イビルアイが戻ってきた。
「もう始まっていたか……。今は無抵抗だが……。お望みとあれば多少は動かせられるぞ」
「……このモンスター達はあなたの指示で動くのですか?」
というより無抵抗に殺される事に何も感じないものなのかと疑問に思う。
身体を切りつけられてもまったく反撃してこないところが不気味だ。
レメディオスは無抵抗を良い事に平然と武器を奮っていたが。
「レベルが少ないから我々では歯が立ちませんね」
ラナー達は五人がかりで攻撃しているが
ナーベラルも不満をにじませていた。しかし、攻撃は攻撃なので我慢している。
「大人数での討伐だから経験値が物凄く少なくなっていると思う。個人戦技が優遇されていても時間はかかる」
「無闇に倒さず、それぞれ倒すモンスターを決めていった方がいいな」
「急に大人数になったからそこまで考えが至らなかった。とりあえず……。カストディオ殿。戦闘を中断してくれるか?」
「んっ? ああ、構わないぞ」
目に付くモンスターは片っ端から切りつけていたのはおそらくレメディオスだ。他は呆気にとられて見物に回っていた。
カルカは
† ● †
イビルアイが改めて班分けのように立ち位置を決め、モンスター討伐を再開する。
一塊にならないように互いの距離を離し、それぞれのグループに専用モンスターが行くように調整する。
死体は全て転移するメイド達が片付けていく。
ネイアも弓で攻撃に参加するがレベルが足りないのか、
「巨大モンスターが出て来たな」
それは水色の身体を持ち、空に浮かぶモンスターで身体の中央に大きな目が一つだけあり、背後に白い翼が六枚展開されていた。
頭上と思われる部分には天使の輪が光り輝く。
イビルアイも実は知らないモンスターだが、保管されていたので使ってみる事にした。
球体というよりは水滴に似た形だ。
「人間も出てきたが……。あれもモンスターなのか?」
「そのようだ。人間に酷似しているが異形種ということになっている」
見たことも無い服装は自動的に装着されるので普通の人間ではないことは分かった。
一部のモンスターは装備一式ごと複製されると説明書には書かれていたので、そう理解する他はない。
「倒しても倒しても出てくる」
「修練場としては最適だな、ここは」
「……終わりが見えないな、全く……。おお、何か召喚したぞ、あいつ」
空に浮かぶモンスターが召喚魔法を使ったようだ。
今まで無抵抗だったものとは違い、こちらは自我を持ってカルカたちに襲い掛かってきた。そして、その事を失念していたイビルアイは驚いた。
「それは違う! みんな武器を構えろ。召喚モンスターは私の命令とは違うから気をつけろ」
イビルアイの叫びによって緊張感が増した。
今までのモンスターは単なる肉の塊で、一体ずつに簡単な命令を与えていた。しかし、召喚モンスターは召喚主の意思が多少影響されるが自由意志を持っているものが多い。
命令が無いからといって無抵抗でいるとは限らない。
「召喚に長けたモンスターのようね。しかも……、出てくるものがどれも強そう」
「いざとなればメイド達に処分させるが……。できるかぎり頑張ってみてくれ」
大量召喚するようなので地上の方も気になるが、そちらはンフィーレアに任せているので、たぶん大丈夫だとイビルアイは信じる事にした。
それよりも予想外の事態に久しぶりに取り乱してしまった。
一体だけ用意したが危険と分かれば真っ先に処分するつもりで様子を窺う。
「……見たことも無いモンスターが一杯……」
「くっ。これでは亜人共と戦争しているのと変わらないではないか」
「いい鍛錬になるだろ?」
それぞれ叫びつつ襲ってくるモンスターを討伐するが少し強いのか、苦戦が目立つ。
動かないモンスターも襲われ始めているし、場が混沌と化してきた。
「悪魔系が出て来たぞ」
「こいつ……。何でもありかっ!?」
「なんとか倒せている。ケガ人は退避していろ」
カルカも魔法を駆使しているが全然、歯が立たない。
亜人の襲撃は経験があるが節操なしの戦闘は未知だった。
「そういえば、召喚モンスターって経験値にならないんじゃなかったか?」
ガガーランの言葉にイビルアイははたと気づき、厄介なモンスターの停止を命令させる。しかし、出て来たモンスターは退去せずに残ってしまった。
それらは我慢して討伐するしかないのでイビルアイも参戦する。
† ● †
少し混乱していたが一時間ほどで場が収束する。
それらに全く頓着しないメイドが死体などを片付けていく。
「次から次へと……。何なんだ、この施設は」
と、レメディオスが怒りを吐露する。
モンスターが無限に近く湧き出る施設は聖王国では覚えがない。
亜人の集落では繁殖によって数を増す、というのは想像できる。だが、ここは無節操に様々なモンスターが現れてくる。
疲労で膝をついている者達に無言で無表情のメイド達が飲み物と食べ物を提供していた。
一部はトイレに行ったり、タオルで顔を拭っていたりする。
乱戦によって身体中が血まみれになっている者が大勢居たが大ケガや死者は現れていない。
「適度に汚れたな」
「装備品が汚れるから裸で戦闘……。確かに理にかなっている」
カルカも多少の返り血は受けていた。
その中で身綺麗なのはナーベラルくらいだ。
「あれだけの乱戦でも高レベルモンスターは未だに健在とは……。こいつらはどれだけの強さがあるんだ?」
少なくとも難度100超えはざらにあると見て間違いなさそうだ。
アダマンタイト級でも逃げ出すレベルがこの施設には
それは世界にとって危機ではないのか、と初めて利用する聖王国側では危機感を抱いていた。
「あれだけ討伐したとはいえ……、まだ一日だ。このくらいでは低レベルの冒険者くらいしか強くはなれないな、きっと……」
「ぐっ……。では、次だ!」
「まずは風呂にでも入って休憩した方がいい。ここは鍛錬する場だから死ぬまで戦う必要は無い」
「我らには時間が無い。大急ぎで増強し、聖王国の防りを固めねばならないのだ」
正論をレメディオスは言うが他の団員やカルカ達は休息を支持していた。
無理な強行軍では良い結果は生まれない、と。
「姉様。焦っても仕方がありません」
「私としてはラナー王女が奮闘していることに驚きを禁じえません」
「無理な戦いはしていませんわ」
二人の高貴な存在は余裕ある態度で薄く笑いあう。この血生臭い現場の中でどうして平然としていられるのだろうかと従者達も驚いていた。
ドラウディロンは連れて来た従者に腕などを揉ませて既に
「そうだ! えっと……イビルアイ殿。王国に現れたという鱗の悪魔について何か知っているか?」
「鱗?」
急に思い出したというレメディオスは自分が聞いたモンスターの概要を伝えていく。
「ああ、そのまんまな名前だ。それは
難度はおよそ90近くあり、並みの戦士では歯が立たない強敵だ。
頭部は山羊に似ていて身体は鱗に覆われている大型の悪魔。
分かっていることは少ないが大きな武器を奮う以外は特筆すべき事柄が分からない。
「90……。やはり強いのか?」
「アダマンタイト級でも苦戦はするが複数でかかれば倒せないことはない」
「情報料はちゃんと貰わないと駄目だぜ、イビルアイ」
ガガーランの指摘に軽く舌打ちするイビルアイ。
確かに彼女の言う通りではある。しかし今の自分は冒険者家業から離れていたので、つい失念していた。
魔導国という強大な存在が現れてから強さとは何なのか、疑問を抱いていた為かもしれないと思わないでもない。
報酬については施設の利用料に上乗せすればいい、という事に気がついたが久しく勘が鈍っていたことに少し残念な気持ちになる。
知りたいことは自分でも知りたくなるものだ。それを金銭で取引する冒険者という仕事は正しくもあり、浅ましい気もする。
大事な事は分かっているけれど。
「……情報とて貴重な資金源だ」
イビルアイの言葉にラキュースは微笑みつつ頷いた。
その前にガガーランが
それが本当なのかどうか確かめるすべはイビルアイには無く、ただ唸るのみだ。
「……で、その悪魔が聖王国で暴れているのか?」
「アダマンタイト級でも苦戦するというモンスターに遅れをとりたくないだけだ」
レメディオスという聖騎士は思ったことをすぐ口にする性格のようだ。それはそれで好感が持てるのだが機密などはどうするつもりなのか、気になるところだ。
それはそれとして水色の空飛ぶモンスターをどうしようかとイビルアイは悩んだ。
こんなモンスターが居たとは思っても見なかったので。
身体も大きいし、自然界に居るようには見えない。これも特殊召喚の部類なのか、と。