ラナークエスト   作:テンパランス

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#082

 act 20 

 

 午後にモンスター退治を始めるのだが、戦闘に加われる者以外は宿舎に戻るように通達した。

 全員参加は義務ではない。

 そして、今回は雪音とレオンミシェリ。アデライドの三人が残った。

 風鳴は看病で居ないが暁達は幼いし、物騒な体験は控えたいと思って不参加にさせた。

 イビルアイも異論は無かった。

 

「仲間が居るお陰でモンスターを多く倒しても気が変になる事が無いですわね。それはどういう原理なのでしょうか?」

「受け取る経験値の量が影響しているのか……。それは分からない。だが、無理はするな。私の感覚だが……、多くて五十体くらいを目安にするといい」

 

 イビルアイの言葉に素直に了解の意思を見せるラナー。

 彼女よりもレベルが高いカルカはおそらく千体以上でも平気かもしれない。

 

「魔法を使う者には特別なモンスターを用意する」

「分かりました」

「客人たち。無理だと思ったら、すぐに休め。無理すると精神がおかしくなる事もあるから」

「……おう。いつまでも憂鬱ではあのバカ(立花響)に会わせる顔が無いからな」

 

 表情を引き締めて何度も深呼吸していた白い髪の獣人であるレオンミシェリの姿をドラウディロンは興味深げに眺めた。

 通常の獣人系であればもう少し毛深いはずなのに猫耳と尻尾以外は人間的な部分が多くあった。

 

「これで人間を食べるようだったら私の敵だな」

「んっ? わしは人間は食べんぞ」

 

 年寄り臭い喋り方をするがレオンミシェリはまだ十六歳の娘だ。

 住む世界が違うとはいえ自分達の住人以外にジロジロ見つめられるのはこそばゆい思いがあった。

 獣の耳と尻尾が当たり前だったフロニャルドが急に恋しくなる。

 

「キリター、イチイ~バール、トローン」

 

 戦闘準備を整える雪音クリス

 黙っているよりは身体を動かす方がいい。そう判断して戦いに望む。

 アデライドは支給された剣を持つ。

 モンスターを倒せなくとも運動は大事だと思っているので、レオンミシェリのサポートに回る事にした。

 

          

 

 低位のモンスターと共に高レベルモンスターが何体が現れた。

 現時点では現場に居る誰にも倒せそうにない強敵だという。

 それは赤い槍を持つ影の国の女王(スカアハ)と呼ばれる人型のモンスターだ。

 

「巨大なモンスターはあの出入り口を通る事が出来ないからな。高レベルのモンスターはそれ程連れてこられない」

「大きな山羊のモンスターが居ると聞いたが?」

「……ここには居ない。南方の砂漠地帯に一体だけ居る。だが、決して無謀にも戦いを挑むな。処分しにくいからな。あと、暴れても私は責任が取れないぞ」

 

 いくら増強された蒼の薔薇とて総動員しても多分勝てない。

 メイド以外となると現時点では魔導国の助力を得る方法くらいしか思いつかない。

 運が良い事に数が一体だけと分かっているので、四方に散って暴れる事態は無さそうだという事だ。

 影の国の女王(スカアハ)をカルカのような魔法を行使する者のところに送り、残りは小鬼(ゴブリン)から赤帽子の小鬼(レッドキャップ)などだ。

 他にもモンスターは居たのだが、イビルアイには強さが良く分からないものだった。

 得体の知れないモンスターはまだ未調査で、迂闊に使用するのは危険と判断した。

 

「それぞれ無理なく討伐するように。魔法はただひたすら撃ち続けてくれ」

「身体に当たってもいいんですよね?」

「当てなければ駄目だ。変に避けはしないと思うが確実に狙うように」

 

 ドン、ドンと魔法が影の国の女王(スカアハ)に当たるが血が出る程の傷は出来なかった。

 雪音は赤帽子の小鬼(レッドキャップ)に攻撃を当てるのだが、殆どの銃弾を肉体のみで弾き返していた。

 

「……うっわ……、なんだこいつは……」

「爆弾系は使わないように。施設は普通に壊れるから」

「お、おう」

「くたばれ~!」

 

 威勢のいい叫び声を挙げながらレメディオスは自分担当のモンスターに切りかかっていった。

 低位のモンスターは楽に倒せたが高位モンスターから剣が弾かれるようになる。

 武技だの必殺技のようなものは体力を無駄に消費するので普通の攻撃だけを繰り返す。

 命令すれば素直に聞く耳はあるのだが、妹のケラルトから姉は何も考えない人です、と言われてイビルアイは苦笑する。

 

          

 

 レオンミシェリは指輪から自分の武器である『魔戦斧グランヴェール』を出す。

 それはレオンミシェリの身長と同じだけの大きさを持つ大斧で、命令次第では弓にも変形する。

 

「うおぉ~!」

 

 と、大きな声を出しつつ大上段から小鬼(ゴブリン)に向かってグランヴェールを振り下ろす。しかし、途中で攻撃を止める。

 どうしても武器を最後まで振り下ろせないのは相手が死ぬと身体が訴えてきたからだ。死なない事が分かっている。またはそれが当たり前だったフロニャルドでは平然と振り下ろせた。それが今は出来ない。出来なくなった、ともいえる。

 自分でも分かってはいるのだが、自分の世界とあまりにも(ことわり)が違うので身体が思うように動いてくれない。

 今のままでは野に居るモンスターにあえなく撃退されるか、最悪の場合は大怪我。命を落とすことになるかもしれない。それでもやはりレオンミシェリには生物を殺せない。

 魔物ならば可能か、というと今の段階では魔物であっても無理かもしれないと思っている。

 

「無理すんな、猫娘。覚悟が無い奴はある奴を頼れ。お前がやるべき仕事は他にもあんだろ」

 

 雪音の言葉にレオンミシェリは弱い自分を殴りつけたくなってきた。しかし、それすらも出来ないほど弱っていることを自覚する。

 不安が思っていたよりも大きかった。

 『フロニャ(ちから)』がこの世界には無いからかもしれないが、それ以外にも弱体化するような原因があるかもしれない。

 

「ていっ。なのです」

 

 突如として直径二メートルほどの鉄球がレオンミシェリ用のモンスターにぶち当たる。

 

「あなたの手から大切なものが(こぼ)れ落ちないように。(なん)にしてもレオンミシェリ。優しい心を失わないことです。それでいいのですよ」

 

 にっこりと微笑むアデライド。

 

「どうせなら、あの強いモンスターと戦ってはどうです? ちょっとやちょっとでは死にそうにないですから」

 

 アデライドが指差す相手は影の国の女王(スカアハ)だ。

 数十の魔法攻撃と聖騎士であるレメディオスの斬撃に未だにびくともしていない。

 単なる叩きつけならば血を見ることはない、かもしれない。

 それでも攻撃する、という行為そのものが何か不安を覚えさせる。

 それは今までであれば感じた事のない恐怖かもしれない。

 

あーもう! 面倒クセーな」

「!?」

 

 雪音はアームドギア(イチイバル)でレオンミシェリの頭を叩いた。

 硬い金属のようなもので出来ているので、レオンミシェリは涙目になった。

 

「……痛いのぉ……」

「痛くしてんだよ。さっさと立て。そして、身体を動かせ。それが無理なら頭を使え」

「ほほほ。レオンミシェリにそんなことをする人は初めて見たのです」

 

 痛めつける事が目的では無いので影の国の女王(スカアハ)を動かす事にしたイビルアイ。

 組み手ならばレオンミシェリも戦う事が出来る筈だと思って。

 槍を自在を操る人間型モンスターとレオンミシェリの戦いが始まった。

 


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