ラナークエスト 作:テンパランス
本気を出せば一瞬でレオンミシェリがズタボロになるのだが、そこはうまく手加減するように命令してある。
イビルアイとて高レベルモンスターは扱いを間違えると危険なのは承知しているが、この施設の
「やはりモンスターは動いてこそ」
レメディオスは長時間の戦闘を今も続けていたが部下達は既に疲労の為に一人二人と数を減らしていた。
魔法を使い続けていたカルカ達も今は一休みしてレメディオスの奮闘を見学していた。
「明日はもう少し本格的に討伐してもらおうか。今日はどうも数が多すぎて対処に手間取ってしまった」
数が多いのはモンスターではなく討伐する方だ。
それぞれ強さにばらつきがあるので。あと、他人のモンスターごと倒す
武器同士の打ち合いをしていたレオンミシェリは少しずつ身体の動きが良くなってきた。
相手にケガをさせない戦いだからか。それとも自分が望む戦闘になってきたからなのか。
どちらであろうと適度な運動は決して損にはならない筈だ。
「……こやつ、わしの攻撃を……」
既に本気を出している筈だ。それなのに疲れ一つ見せずに長い時間、こちらの攻撃を見事に捌いて来る。
手に伝わる感触からも相手は強者だと分かる。
無抵抗のモンスターとは明らかに
いくら命令されているとはいえ、ここまで見事な技量を発揮するものなのか、と疑問に思った。
「本日の戦闘はここまでにしようか。何事も無理は良くない」
イビルアイが手を叩くと動いていたモンスターは全て停止した。
まだまだ戦い足りないといった
そこだけ見ると立派な聖騎士にしか見えない。
多少の騒動はあったがケガ人のみで終わった事をカルカは喜び、ドラウディロンは奮闘していた者達を拍手で激励する。
† ● †
身体を軽く洗った後はイビルアイを除く全員が宿舎に引き上げる。
一部の者は疲れの為にそのまま眠りにつく。
深夜、イビルアイは屠殺場にて様々な事柄を呼び出したメイド達に命じていた。そこへ
中から現れたのは高貴なローブを身にまとう骸骨。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国の国王として君臨するアンデッド。
アインズ・ウール・ゴウンその人だった。
種族は『
姿を見たイビルアイはすぐさま片膝を付く。
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。こちらはお忍びだ」
気さくな物言いでアインズは言った。その後からメイド服を着た人間が何人か姿を見せる。
このメイド達は施設のメイドではなく魔導国のメイドで人間に見える外見だが彼女達は
普段は人目につかないように施設の巡回を
「今日は来客が多くて大変だったがアインズも利用するのか?」
「例によって
「それはどうだろうか。私やフィア殿だけではとてもとても……。今はうまく使えている、というだけかもしれない」
「不測の事態が起きれば魔導国は全力でサポートする。さて、長話ししても仕方がない。私は移動するが……、いや、少し残るか……。あの水色のモンスターは使わないほうがいい」
「あれは……何なんだ? 私も始めて見るのだが……」
イビルアイはマグヌム・オプスの全てを知っているわけではない。
急な増加について、それは魔導国が関与しているものと思っていた。
メイド達は詳細を知らないし、魔導王当人にいちいち細かく確認するのも面倒だったり、失礼に当たったりするのではと考えていた。
「仲間から聞いたが、あれは
「……アインズ様。椅子をお持ちしました」
「ん……。イビルアイの分も持って来い」
「畏まりました」
アインズの命令が無ければイビルアイに椅子など持ってこない。しかし、アインズが座るとイビルアイは上から目線で話さざるを得なくなる。だからこそ素直に命令に従った。
本当は跪いたままになれ、という気持ちがメイド達にあった。
† ● †
急ぎの案件が無かった為にアインズはイビルアイの疑問に答える事にした。
それは別に今に始まった事ではない。
魔導国にとってもイビルアイという存在は小さくないと認識されている。だが、メイド達や一部の
部外者だから、という意識が拭えていないので。
客人だとアインズが言っても、それはその時だけの付き合いだ。終われば敵に戻る。
メイドの一人が自分用の椅子と机を持参し、席に就く。その様子を確認したアインズはイビルアイに向き直る。
イビルアイの方は仮面を外す。
赤い瞳を持つ色白の可愛らしい少女の
仮面を被っていた時と違い、透き通る大人びた声を発する。声質は少女っぽいのだが。 椅子に座ったイビルアイは足を交差させるように組んだ。
文化の違いによって所作は様々だ。それを知るアインズはイビルアイの座り方に文句は言わなかった。
「
「……200もあるのか……」
レベルは70を超える。
『ユグドラシル』基準で言えば少し強いモンスター、ということになるが普通の雑魚モンスターと違い、イベントボスやレアモンスターに類するので希少価値が高い。
見た目も綺麗なので一部では人気がある。
「召喚されるモンスターはもちろん奴より弱い筈だが……。その辺りも詳しく調べないとなんともいえないが……。魔法というよりは
「魔法ではない召喚だと経験値というものは手に入るのか?」
前に聞いた時は召喚モンスターを倒しても経験値にならない、という話しだった。だからこそ魔法で楽が出来ない。
アインズは使用者がNPCだと経験値が手に入りにくい、という認識だった。
転移後に色々と仕様変更がされているのでユグドラシルの知識が役に立たない事が多々ある。
「自然界のモンスターでスキルによるものなら手に入る可能性がある、という話しだ。それなら無尽蔵に召喚したりせず、世界に危機も起き難い。本当にあんなのがたくさん生息していれば数百年の歴史は人類……、現地民達にとっても脅威でなければおかしいことになる」
例えば亜人達が討伐していた場合、経験値を積んだモンスターなら世界規模の災害になっていてもおかしくない。
それが無い、ということは極端に強いモンスターが召喚されなかった。または経験値が本当に手に入らなかった。あるいは存在していても何の活動もしなかった、場合も考えられる。
「そちらが良ければ調査をお願いしたい。さすがに何を召喚するのか分からないモンスターは怖い」
「
「荒らされなければいいのだが……。メイド達が無反応というところが少し怖いな」
侵入対策は万全でアインズ率いる『ナザリック地下大墳墓』の連中でも簡単にはいかない。
現時点で全ての施設を自由に移動できるのはイビルアイが知る限り、管理する
施設を建造した『
「それらも独自に調べるが……。イビルアイは……、いつごろ施設に戻った?」
「一週間ほど前だな」
ンフィーレアは村々を見回り、イビルアイは王都での仕事でしばらく忙しかった。また数週間後には王都に戻る事になっている。
冒険者家業は休止し、新メンバーが代理として蒼の薔薇に
「転移者についての情報は
「城では聞かないな。ラナーの話しにも無かった。……客人がそうかもしれない、という話しは聞いているが……」
転移者を見分ける方法はイビルアイは分からない。尚且つ、転移現象自体どういうものか分からない。
空に
「帝国の方でも何人か確認したが……。同時期の転移者なら一箇所にまとめたいところだ」
アインズとて全ての国々の情報を把握しているわけではないが、少なくとも竜王国には現れていない事は最近、確認した。
自分達が探しているプレイヤーかと思ったが様子がそれぞれ違うようなので今は監視や様子見程度に留めている。