ラナークエスト 作:テンパランス
ペロロンチーノ達が慌てている間も他の者はモンスターと対峙していた。
無抵抗であったり、攻撃を全て捌ききっていたり。
その中でやはりレオンミシェリの動きは鈍かった。
フロニャルドでは敵なしであった獅子の領主は単なる小娘と化していた。
奮う武器にも覇気が無い。というよりどんどん力が抜けているような感じだった。
「……はぁ……、これは単なる自信喪失というよりは……」
ミルヒ成分が抜け落ちている気がした。
宿舎に戻れば会えるけれど、そばに桃色の髪を持つ犬耳獣人たる最愛の存在の応援が今はとても欲しかった。
レオ閣下頑張って、と言ってほしいくらいに。
「おい猫娘。お前……、病気じゃないのか?」
側に居るのは優しい言葉をかけるミルヒではなく、粗暴な態度の白銀の髪の妙な娘だった。しかも暴力的。
歳は一つ上かもしれないけれど、それでも一つくらいしか違わない。
「さっきからわしの頭をポコポコ殴るからじゃ。それと気が散る」
「ああ? お前を元気付けるために決まってんだろ」
「どこがじゃ! 絶対に違うっ!」
グギギと獣のごとく唸るレオンミシェリ。しかし、すぐに力が抜けて頭の耳が垂れてしまうし、尻尾も力なく下がってしまう。
確かに身体全体がだるく感じるのは間違いない。
「……わし、もう帰ろうかな……」
戦闘は任意であり、継続は義務ではない、という話しだった。
それにもまして側でうるさい女と共に居るとますます悪化しそうだった。更に輪をかけて
元気だけが取り得の様な女ではあるけれど、それはそれで羨ましく思う。
故郷では自分もあれくらい元気に過ごせていたのに、と。
一応、イビルアイに声をかけて地上に戻る事にした。
トボトボ帰るレオンミシェリの後をペロロンチーノは目だけで追う。
本当なら一緒について行こうかな、と思わないでもないがストーカーみたいな風景が浮かんだので諦める。
もちろんお近づきになりたい気持ちはある。
そんな事を考えているとレオンミシェリの姿は扉の向こうに消えていく。
「……犬もいいが猫もいいな」
特に凛々しい顔つきが、とペロロンチーノは
† ● †
戦闘を続けていた聖王国の面々に休息を任意で
「……モンスターと戦っているけれど強くなった気がしない。……本当にこんなことで強くなるのか?」
というレメディオスの感想に対してカルカも同意する。
弓で戦闘していたネイアも同様に。
「単なる討伐にしか思えないんですけど……」
「そうでしょうね。ですが、一定程度の討伐は必要なのですわ」
穏やかな微笑で言うラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。
いい加減、フルネームで書くのが面倒くさくなってきた。
「……それはすみません」
素敵な笑顔を取り繕っているけれどモンスターの返り血をいくらか浴びていた。
殴打武器を持つクルシュ・ルールーは白い身体なのでよく目立つ。
「経験値を溜めた後で色々と分かる事があります。ここは我慢していただくほかはありませんわ」
「そういうものなのですか?」
カルカの疑問にラナーは微笑みで答える。
そのために最初に要望を聞いている。
おそらく経験値を
通常であれば自動的に強化されることを人為的に操作する。それがこの施設のカラクリだと予想している。
もしそれが世間で普及しているような方法であればアダマンタイト級などという区分けは存在し得なかった。またはその中で更なる競争や争いなどが起きていた。あるいは向上心を失い、人々から生きる気力を奪う結果となって国が衰退していく、などということもありえないわけではない。
もちろん、それはラナーの私見であり、予想だ。
そうなると城で鍛錬している兵士達は無駄な努力をしている事になる、かもしれない。
「本当に強化が出来るとしても、それをいとも容易く扱えるのか、という問題がございます」
言葉を覚えなければ人は会話をする事は出来ない。
それと同様に
持ち方を知らぬ武器を持っても満足に実力が発揮できないとも言える。
現にラナーは身の丈に合わない槍での戦闘経験がある。それをすぐに軽々と扱えるようになるとは到底思えなかった。
† ● †
ラナーの言葉にペロロンチーノはどう答えたものかと思案していた。
自分達は専用コンソールで自在に強さを操作できていたし、扱えていた。
それは日頃の鍛錬など必要の無いもの。その点で言えば現地の人間にとっては卑怯に当たる。
だが、常識的に言えば自分達プレイヤーはかなり非常識な存在だ。
何がレベルアップだ、と。
だが、それこそが真理だ。そう言いたい気持ちがあったが飲み込んだ。
「ラナー……さんは随分とお詳しいのですね」
「いえいえ。単なる想像ですわ」
想像にしては随分と研究されている。勘がいいのか、頭の回転が速いのか。
アインズからすれば厄介な敵ともいえる。ペロロンチーノにとっては可愛い王女様に何でも教えてあげたい気持ちが無いわけではない。
本当に教えると自分の首を絞める事になるのは想像に
「レベルが上がった。だから強くなった、と実感できるかと言えば……、それはまた違う感覚になると思います」
『ユグドラシル』には
この点はおそらく現地の人間と同じような感覚だと戦闘民族達が言っていた。
ペロロンチーノもまた今より強くなる可能性が本当に無いのか、知りたい気持ちがあった。
それと分からない事はペロロンチーノ側にもある。武技の他に現地の人間が得る
コンソールも無しにどうやって得ているのか。感覚的なのか、何かの条件を満たすと自動的に得るのか。
未知の可能性はどちらの世界であっても興味深いものだと思う。
「……俺の個人的な意見としては皆の努力に応えてやりたい」
俺は可愛い女性の味方だ、と。
魔導国としては厄介な敵が増えるのは困るのだが、そのあたりの葛藤は今後の課題になりそうだ。
全員が全員強化できるとは思えない。
それはレベル
全ての者がレベル100になれるとは限らない。イベントなどの条件をクリアして更なる高みを目指せるようになるのがプレイヤーとしての一般的な見解だ。
上位クラス。上位種族を得ることなどが該当すると思われる。
ただ、この施設の主は
相当に研究したのか。発想がとても豊かなのか。個人的には感心する。
「難度という概念で言えば200くらいは許容してもいいと思う」
ただし、手数が増えるキャラクターが多いと対策も倍増する。
魔導国の敵にはなってほしくないと思うし、対外的ばかりの問題ではなく将来的に内部崩壊に繋がりかねない事態はペロロンチーノとて容易に想像がつく。
「ただ……。聖王国は兵士全てを連れてくる予定を考えていたりしませんか?」
「敵に勝つためならばそれもあるかもしれない」
表情をきつくしたレメディオスが大きな声で答えた。
現場では戦闘行為を中断し、ペロロンチーノの言葉に耳を傾ける有様になっていた。
イビルアイは静かにモンスター達を壁際に移動するように命令してあるので、部屋の中が一気に静かになる。
「兵士の集団強化はお勧めしない。ご都合主義的に受け入れはしたが、今以上の受け入れは考えさせてもらわなければならなくなる」
イビルアイの言葉にレイナースは頷き、レメディオスが激高する。
「……ずっと鍛錬の話しになってしまうからですか?」
「……それもあるかもしれないが……、魔導国との敵対は不味いだろう?」
ラナーの言葉にイビルアイは同じくらいの音程で答えた。別に小声で話す事でもない気はしたけれど。
「あくまでも個人の可能性を伸ばすところだと思ってくれなければ困る。……本来ならば、な。一国が増強すれば他の国も増強せざるを得なくなる。それでは新たな火種になり兼ねない」
「この話しで真面目な討論など不毛っ!」
大声で無茶なこと言い出すレメディオス。
一見まともなことを言っているように聞こえるから
受け入れたイビルアイが悪いのか、という話しになってしまうし、宥めるのは難しそうだと思える。
「今は魔導国と関係ないかもしれない。どの道、他国が危機感を抱けば民が困る事態となる」
その上で戦場が『マグヌム・オプス』となり、折角の可能性が潰されてしまうのはイビルアイとしては面白くないし、それもまた一つの結末だと思える。
このあたりの議論を本来は政治の上で討論してもらう予定ではあった。実際に王国と帝国は何度か会合を
それに竜王国の関係者も居る。
「ならば何故、こんな施設がある!」
「もちろん可能性を延ばす為だ。いわば、貴女達は実験動物……。兵士の強化とはまた違った概念だとも言える」
冷静にイビルアイは告げた。
単なる増強に使うには勿体ない施設だ。そもそも王国が強国になる為に作ったわけではない。
主の目的は遥か遠くに存在する。だからこそ、と言いたい所だが地上にしか目を向けていない人間に言ってもレメディオスの言葉と同じく不毛でしかない。