ラナークエスト   作:テンパランス

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#091

 act 29 

 

 危険な会話が続いたがペロロンチーノは落ち着く為に集まった女性陣に食べ物や飲み物を振舞うようにメイド達に命令を与える。

 

「食料なら自前のが……」

物騒な魔導国が皆さんと仲良くしたい気持ちを込めて、です。どうか、ここは俺の顔を立ててほしいな」

 

 しばらくして屠殺場に香り豊かな紅茶や食べ物が運ばれてくる。

 イビルアイ側もテーブルなどを運び込んでおいた。

 

「血生臭い部屋での食事会か……。常軌を逸しているな」

「戦士としてはこのくらいで丁度いい。嫌なら地上に戻っていいんだぞ、カストディオ殿」

 

 と、挑戦的なセリフを吐くバハルス帝国最強と謳われた『重爆』のレイナース。ただし、現在はレベル5だが。

 相手の言葉に対し、歯軋りしながら耐えるレメディオス。

 

「ラナー様がいらっしゃるのに我々が引き返しては沽券に関わりますわ」

「私は随分と利用させてもらっているので慣れているだけですわ」

 

 二人の高貴な存在は一切状況に流されず微笑みあう。

 それが王宮などであれば絵になる美しさがあったと思う。けれども、ここはモンスターを殺しつくす屠殺場。

 

「……血生臭い現場を短時間で清掃するメイド達には驚きですわね」

「慣れたものですが……。消臭の為のアイテムもきちんと常備しているので。水の洗浄もしっかり考えられているところは流石(さすが)としか言えません」

 

 カルカに話す時はいやに丁寧な口調になるイビルアイ。他国からの客人という意識があるのか、ラナーとしては自分にも言ってほしいと物凄く思った。だが、この小さな魔法詠唱者(マジック・キャスター)はかなり意地悪な性格をしている難敵であった。

 単に建物だけ作れば後々の後始末が大変な事になる。

 ここは初期の頃から後始末の事を随分と議論されて作られている。だからこそ、という部分はあるかもしれない。

 本来は使用目的を達成した後で更地にする予定だったそうだが、折角の施設は勿体ないと()()が言ったらしく、現在も残っている。

 その誰か。イビルアイは自分かンフィーレアのどちらかだったような気がするのだが、()()()()()()

 都合のいい記憶しか残したくない、時もある。

 ペロロンチーノの側に居たアルシェも仲間たちの下に戻し、しばし穏やかな時間が流れる。

 楽しい歓談に見えるけれど、先ほどまでモンスターを殺しまくっていたとは誰が思うだろうか。

 聖王国は特に討伐数が多い。

 シンフォギア代表の雪音はその中で一番少ない。ほぼ一体だけだ。レオンミシェリはゼロ。

 ラナー達は五人がかりで五体ほど。これは思いのほか強いモンスターに挑戦していたので仕方が無い。

 ドラウディロンは五十体。

 単独ではレメディオスに負けるが、不慣れな武器で高レベルモンスターを倒し続けていた。

 

経験値という数値で言えば、どれくらい溜まったのかな?」

「相手との強さが近ければ微々たるものになります。例えば赤帽子の小鬼(レッドキャップ)をドラウディロン様が倒されますと、五十体ほど討伐してもモンスター一匹分……」

「……はっ?」

 

 例えば5000ポイントだと仮定する。それを五十匹討伐し、ドラウディロンのレベルで割る。彼女のレベルが高ければ合計経験値が多くても獲得経験値は少なくなる。

 だからこそ、現地勢の実力が中々上がらない理由にもなる。

 アダマンタイト級難度を仮に90と仮定すると、そこまでの強さを得るのに順調な人生ならば結構な年数とモンスターの討伐数が必要になるという事だ。

 楽して短期間で増強など、本来ならばありえない。

 それを無理矢理に実行するのだから大変になって当たり前だ。

 

「……アルシェの報告ではレベル41だそうですね。単純計算だと……獲得経験値は6300ほど」

 

 イビルアイは事前に持ってきた書類を見ながら答える。

 

「……おお、自分のレベルで割るとそんなに減るのか……」

 

 もちろん、戦い方や魔法の行使などで別途経験値は独自に獲ていくようだが、それでも少ないと言わざるを得ない。

 

「……赤帽子の小鬼(レッドキャップ)一匹で5200なんですよね? 計算がおかしくありませんか?」

 

 5200の50倍なら26万ポイントだ。それだけでも凄いけれど、それがどうして6000まで減るのか。

 

「……相当なモンスターが必要だっていうのは……、こういう事だからか……。だから、()()モンスターが居るんだな」

 

 仮にラナーが同じだけ討伐すると52000ポイント獲得する事になる。

 一気にレベル11になれる経験値量だ。

 

「低レベルのまま高レベルモンスターを倒し続けるのが効率的というわけか……。簡単そうに見えてとても難しいな」

 

 木の棒で(ドラゴン)を百体倒すようなものだ。

 無抵抗のモンスターが必要な理由もドラウディロンは理解してきた。

 これがもし、自然界であれば相当な時間がかかるし、命の危険度は高いままだ。だが、この施設は楽が出来る代わりに色んな障害と闘わなければならない。

 

「レベルで割るのはモンスターを倒す場合のようで、魔法を当てたり、攻撃を加える場合はそのまま獲得できるようです。……ただし、微々たる数値なのは変わらないようですが……」

 

 どんな魔法を当てるとどれくらいの経験値がもらえるかまでの細かい部分は資料には無い。だが、いくらかは獲得できる事は分かっている。

 

「雑魚モンスターでは強くならない、ということだな」

「……大人数で使わせないわけだ……」

 

 個人での計算式とチームでの計算式がある。

 獲得した者はチーム内のメンバーに割り当てるというもので、更に目減りする事になる。

 

「それでは時間ばかりかかってしまうではないかっ!」

 

 レメディオスは激高するがカルカ達は大体理解した。

 時間をかければかなり増強できることを。

 本来の施設の使い方は少人数で数日かけて(おこな)う。その繰り返しだ。

 身体を慣らしていき、ある程度のところで影の国の女王(スカアハ)のようなものを大量投入する。その為には攻撃を通らせるまで強化する事が必要不可欠だ。

 今のラナー達では赤帽子の小鬼(レッドキャップ)一匹倒すのはほぼ困難となっている。

 

「経験値の総取りは出来ないんですね?」

「一人だけなら可能かもしれないが……。一定数以上の討伐に人間種の精神がどこまで耐えられるか……」

 

 実際に経験した者でなければ分からない恐ろしさがある。

 イビルアイの予想ではカルカは千体くらいから脱落する気がする。レメディオスは逆に五千から七千体くらいは余裕かもしれない。それでも疲労からは逃げられない筈だし、どうなるかは実際に確認しないと何とも言えない。

 

          

 

 ドラウディロンは思いのほか少ない数値に愕然としていたが、もう少し強いモンスターを倒せばいいと気持ちを切り替える。

 強ければ強いほど倒し難くなるけれど。

 もう少し楽な方法が無いわけではない。その為の献体がいくつか存在している。

 

「……これ以上の無茶を通す場合は……、それなりの対価を支払わねばならないのですね」

「……私の判断で出来る所までは努力させていただく所存です」

モノローグにおっぱいを見せると百万ポイント貰えるとか、そういうルールは無いのか?」

「無い! そもそもモノローグは勝手に出てくる不届き者だ!」

 

 もし、そんな事が可能だというなら物語が破綻する。というか、するなバカとイビルアイは強く思った。

 しかしながら場所が違えば可能になる、かもしれない事は秘密だ。あと、物語が破綻するというのはこの作品群においては些事に過ぎない

 むしろ読者に遠慮するようでは面白くない。

 

「……アダマンタイト級までの強さ、というものは獲られる経験値の概念で言えば順当な強さなのかもしれない。それ以上の強さを得る事は確かに難しいといえる。英雄級や伝説級というのはあながち荒唐無稽な話しではないかもしれない」

「近い強さのモンスターでその程度なら……、もう少し強いモンスターならいいわけだ」

 

 確かにその通りだが討伐し難くなる。

 それを百体以上ともなれば無抵抗でも重労働だ。

 

「冒険者が中々育たない理由に納得ができました。鍛錬を積むといっても何年もかかると思えば……、それは確かに道理に(かな)っている」

「しかしだ、イビルアイ」

 

 と、あえてペロロンチーノは彼女に声をかける。

 多少は魔導国風味が入るかもしれないが、一人の戦士として相手をする。

 

「んっ?」

「獲得経験値を君は操れるのか?」

 

 その言葉にイビルアイは唸った。

 真理を突いている、というよりは答えにくい質問だった。

 もちろん、ペロロンチーノは分かった上で言った。

 

「弱者は強者に搾取されていればいい、とは言わない。魔導国としては難しい問題ではあるけれど……」

「……敵を作る施設でもあるからな……」

 

 できるからこそこんな話題を出している筈だ。それを今更否定する事は無理だ。

 それゆえにペロロンチーノはイビルアイに意地悪な質問をしている事に少なからず罪悪感を抱く。

 

「……私に出来る事は……、頼むことくらいだ」

 

 だろうね、と胸の内でペロロンチーノは言う。

 だが、もし直接的に操作できる権限があればもっと施設を自在に運営できるのでは、という疑問がある。

 とはいえ、屈強なメイド達を制御するのはイビルアイとて難しいか、と思うこともある。

 魔導国というよりは一個人として手伝いたい気持ちはある。

 この施設を十全に使えば世界征服も難しくない。というよりは既に大半の世界を制圧しているともいえる。

 そんな施設をイビルアイ達に残して消えた奴は究極的な大莫迦だと言わざるをえない。

 

 本当にそうなのか断言できないのが悔やまれるけれど。

 

 もし自分ならば、と誰もが思うかもしれない。

 この施設が存在しえないならば恒久的に力ある者に屈し、弱肉強食的な歴史がひたすら続く。

 いずれ魔導国は順調に行けば世界を獲る事になるのは絵空事ではない事実となる。

 けれども、それが楽しいかと言われると難しい問題だ。

 考え方が違うメンバーが居るから。

 その時はきっと投票とかするかもしれない。

 

「……弱いままでは困る。という人が大勢居るから仕方がないか……」

 

 仕方がない。という理由だけでどんどん増強されれば世界は混沌と化す。それは自然の摂理のように起きる筈だ。

 そうなっては平和どころではなくなるし、魔導国とて対処できない危機に陥る。もちろん、そうなっては困るけれど。

 

「ここが二次創作の世界()()()良かった」

 

 はっきりと言い切るペロロンチーノ。

 原作ではおそらくパワーレベリングは不可能に近い。それは必要な魔法が揃っていないからではなく、それを成す設定が存在しない可能性があるからだ。

 狩り場が無ければ素材集めも満足に出来ない。

 

原作では経験値を多く獲るアイテムを用いている。それでも増強が(はかど)らない。正攻法を好むとはいえ非効率的な手段しか取らないのはおかしい」

「その辺りは私には分からないけれど……」

 

 ペロロンチーノの言葉を聞く為に現場が静まり返る。

 ナーベラル達は心配の眼差しを向けていた。

 だが安心するといい、と。根拠のない自信を示すペロロンチーノ。

 

「簡単に出来る手段があればあったで警戒対象だ」

 

 もちろん自分の敵に対する危機感だ。

 現行の方法だけで何処まで増強できるのかを調べるのが第一目的。それだけで強くなれるならばもう少し無茶な方法を取り、新たな技術が確立できるかの実験に続く。

 当然、レベルキャップ問題の解決も模索しなければならない。

 

 なにせ、才能が無いというだけで強さが止まってしまう人間が多いから。

 

 それがどういう原理かを解明することも大事だ。

 現地の人間が言う才能とは何なのか、実は良く分かっていない。

 

「その魔導国は意図的に最強になった者達という事か?」

 

 レメディオスの言葉にペロロンチーノは首を傾げる。

 意図的に、という部分は素直に頷けないけれど自分の実力はかなり努力して得た自負が少しはある。

 現地の人間からすれば卑怯かもしれない、という程度は感じるけれど。

 少なくともユグドラシルというゲーム元々の身体の能力も加味される。

 普段から身体を鍛えている人間はゲームの中でもステータスが高い。そこはさすがに意図的に増強は出来ない。

 努力無しに最強にはなれない。

 

「……う~ん、半分くらいかな」

「強者として弱者が強くなることに不満がありそうな顔だな」

 

 鳥人(バードマン)の顔は人間に変化は読み取れないのでは、と疑問に思った。

 勘で適当な事を言っているのかなと。

 少なくとも適当な事は言っていないぞ、と言いたかったが飲み込んだ。

 大雑把なだけです、と。

 

「国の危機に対して強化は必須……。それくらい俺でも分かりますよ」

 

 そうしないと亜人達に国民が殺されてしまう。

 自衛措置はペロロンチーノとて否定はしない。

 政治的には『対話の模索を』と魔導国として言う事になる。けれども、それはとても難しい。

 リアルタイムで危機的状況に陥っている国に救いの手を差し伸べないのは政治的な葛藤ともいえる。

 たっち・みーならすぐ飛んで行きそうだが、事はそう簡単には済まない。

 

          

 

 机上の空論だけで国が平和になるならばとても幸せな事だ。

 そんな事は不可能に近いけれど。

 賢い女王様は今も沈黙を守っているけれど、本当は()()()()()を既に持っているのではないかと思う。

 持っていない場合は政治家に不向きとしか言いようがない。

 その美貌だけで国が安定するなら優秀な人材に恵まれているといえる。

 

「……そうだね。今のままでは結構な時間がかかる。それを覚悟して続けてもらわなければならない。残念ながら一日で最強にはたとえ俺でも不可能だと断言するよ」

「ふ、不可能?」

 

 レメディオスの驚きにペロロンチーノは頷く。

 楽して一日で最強になる手段などありはしない。

 下手な職業(クラス)構成を組んで大失敗する事は多々あるものだ。

 試行錯誤の果てに自分が追い求める強さはゲームの世界であってもあるものだ。

 

「では、どれくらいの期間が必要なのですか? 一般的には、という意味で……」

「本来ならば……、それは俺の口からは言えない事だが……。適度な強化なら……、二週間ほどかな。もちろん、私見」

 

 集団強化の場合は一気に経験値が目減りする。だからこそ、それくらいの期間はどうしてもかかるし、モンスターを用意するイビルアイの労力も計り知れない。

 尚且つ、短時間でモンスターを倒すだけの力量も使う側に要求される。

 

「……意地悪で言ってるわけじゃないよ。……本当に時間と手間がかかるのは間違いないことなんだから」

 

 と、小声で鳥人間は言った。

 

「後、単なる強化だけだと後々身動きが取れなくなるよ」

「はっ?」

 

 一つの職業(クラス)を極めた場合、新たな職業(クラス)を取り難くなる。

 例えば上位の職業(クラス)にもっと優遇された特殊技術(スキル)があった場合、無駄な努力になる可能性がある。

 さっさと中位職業(クラス)に移行し、必要な能力を得て上位に臨む方が効率的ではないかと。

 それらは個人で色々と模索すればいいけれど、この世界の住人に職業(クラス)を意図的に取得する手段がそもそも確立されていない。

 それが実力の底上げを難しくしている要因とも言える。それと才能の問題だ。

 一部の者は実力の伸びが急に止まってしまう現象を起こす。

 

「二週間で今の倍くらいの実力強化なら充分じゃないかな」

 

 それよりも屈強なモンスターが現れて、また『マグヌム・オプス』を使いたいと言い出すかもしれないけれど。

 そうなってしまうと最終的に最後まで強くしろ、と文句を言われてしまう事になる、イビルアイが。

 

「ラナーさん達は十倍くらい頑張らないと駄目だよね」

「今の十倍なら……、約二ヶ月ほどでしょうか?」

 

 即座に期間を算定するとは、とペロロンチーノは驚く。

 二ヶ月も施設にこもっては精神的におかしくなるので、もう少し期間が必要だと思うけれど。

 

「ですが、延々と作業のようにモンスターを倒す話しばかりだと面白みに欠けますわ」

「そうだね。退屈なラナークエストと言ったところになりますね」

「……私……、面白くない事はやりたくないですわ」

 

 単純作業は『時間飛ばし』でどうにか出来るとしても、数ヶ月も同じ動作は飽きる。

 というより延々と施設の中での会話劇を楽しむ気は一切無い。

 さっさと強化して城に帰ってクライムと冒険したいですわ、と。

 ラナーとしては冒険者は暇つぶしであり、レイナース達とはある程度付き合ったらさっさと解散する気でいた。

 


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