ラナークエスト   作:テンパランス

94 / 183
#093

 act 31 

 

 ある程度の鍛錬を終えて地上に戻れば日が暮れていた。そして、それを何日も繰り返すことになるローブル聖王国の面々は何人かを本国に送り帰し、得た情報を持ち帰らせる。ついでに追加の人員などを要請しておく。

 地下施設の後片付けをするイビルアイの手伝いをペロロンチーノが買って出る。

 

「ご苦労様」

「ありがとう」

 

 と、言いながらメイド達に命令を与えていく。

 施設専用のメイドは今のところイビルアイの命令に従順だがペロロンチーノの命令は聞かない。

 

「そういえば……、ペロロンチーノは私に会いに来ただけか?」

「暇つぶしは本当だよ。今は他に誰も居ないから素顔が見たいな」

 

 そう言うとイビルアイは軽くため息をついてから仮面を外す。

 仲間以外ではアインズ・ウール・ゴウン魔導国の面々に対して仮面を外す事が多くなった。あまり頻繁に外すのは対外的に良くないのだが、手伝った御礼として従うことにした。

 さすがに夜の相手は無理だが、ペロロンチーノの被造物たるシャルティア・ブラッドフォールンとはどういう生活をしているのか、それは気になるところだ。

 

「人形という訳ではないから寝る時は別々だよ」

 

 一緒に寝てもいい気がするけれど、が居るので何かと気まずい。ただ、それだけだ。

 その姉とも寝るわけではないし、変に気を使う必要は無いかもしれない。そこは人間であった頃の気持ちの残滓とかいうものかもしれない。

 

「……元の世界に戻れる日が来るまで……、俺は君の手伝いがしたい……。というのは駄目か?」

 

 不死性の種族は何かと便利では、と思うのだが決めるのはイビルアイだ。

 人間世界で長い時を歩むというのは思っている以上の苦痛だったりするものだ。

 アンデッドや吸血鬼には意外と弱点が多く、滅びるおそれがある。

 

「助手はありがたいが……、魔導国に忠誠を誓うのはまだ先だ」

 

 リ・エスティーゼ王国がある限り、イビルアイは王国の為に働くと誓っている。それをすぐさま破る事は出来ない。

 それだけこの国を愛しているともいえる。

 数年後に魔導国が祖国と決めた王国を焼くかもしれなくとも、今はまだ王国に籍を置きたかった。

 

「物騒な話しは無しで、純然たる友達付き合いがしたい。手元に置いて愛玩動物にしたい、って意味じゃないぞ」

「……表向きだけでも嘘くらいつけ。メイド共がお前の動向を監視している」

「監視と言えなくはないが……。あの子達なりの気遣いだよ」

 

 特に『アインズ当番』なるメイドはほぼ国王たる(アインズ)の監視をしているようなものだ。しかも二十四時間ぶっ通しで、尚且つ交代制。

 特別な理由が無い限りは始終、見つめられ続けている。ほぼ、刑罰に等しい。

 アンデッドだからトイレは使わない。風呂は使うと聞いている。その時は同席をちゃんと断っている。肉体がある仲間であれば嫌気をさすか、平然と同席を許すかの二極化で揉めそうだ。

 いくら可愛い外見だとしても、いや、だからこそ気まずく感じる。あと、トイレの中までついて来い、とか言いそうなのがペロロンチーノの他にも何人か居るらしい。

 執事も居るのでトイレ同伴は基本的に彼らの仕事となる。

 

「帰りが遅いと思ったらイビルアイちゃんの手伝いかい?」

 

 と、上から声が聞こえたかと思ったら『びちゃ』と嫌な音が近くで鳴った。

 ペロロンチーノにとっては聞きなれた擬音だ。

 声の主は自分の姉。もちろん元の世界(日本)での事でアバターとしては全く異質の種族だから姉弟(きょうだい)と見抜ける存在はほぼ居ない。居たら逆に凄い。

 粘体(スライム)系の種族『紅玉の粘体(ルビー・スライム)』の『ぶくぶく茶釜』という。

 

「……姉貴。施設内の飛び込みは禁止って言ったじゃん」

「大丈夫。低い位置から飛んだから」

 

 床面を這いずるように近づく粘体(スライム)

 大人びたものから子供っぽいものまで何でも出せると自負する『声優』で、ユグドラシルというゲームの中でも色々と担当した事がある女性だ。

 大きさは1メートル足らず。赤い身体をくねらせる姿はとても卑猥だと評判である。

 騎士(ナイト)と指揮官系の職業(クラス)を持ち、独自にパーティを組んで戦闘を(おこな)える実力者でもある。

 無理をすれば人型を取れるらしいが、面倒臭いという理由から普段は粘体(スライム)らしい姿のまま移動している。

 装備品を身につけていないのでデフォルトは全裸だ。もちろん、本人は自覚している。

 声優の仕事としてエロゲーのキャラクターに声を当てた事もあり、(ペロロンチーノ)をいつも困らせていた。

 

「夜分にお邪魔しますよ、イビルアイちゃん」

「ようこそ。今日は至高のメンバーがよく来るようだが……、何かの記念日なのか?」

「たまたまだよ」

 

 来るのは勝手かも知れないが、出迎える立場のイビルアイとしては何か色々と用意しなければならないのでは、と戸惑いを覚える。

 特に貴族相手の場合は相手方の予定を聞いたり、食事や調度品の用意などを(おこな)わなければならない。

 かといって無視することも管理上出来ない。というか一般常識として、してはいけないと思うので。

 

「そうそう。先日借りたモンスター。さっそくやらかしてくれたわ。何なの、あのエロ魔人とかいう綺麗な奴……」

「……何なのと……、言われても困るけれど……」

 

 不定形のモンスターであるぶくぶく茶釜は独り言のように言っているようだが、姿から感情を判断する事ができないので、どういう反応を返せばいいのか分からない。

 

「あいつねー、普通なら自分より低いレベルのモンスターを呼ぶものなんだけど……。もうね、何でもあり。レベル制限関係なしって感じ。容赦無く黒い仔山羊(ダーク・ヤング)を呼びやがったのよ。みんな大慌て」

「そ、それは災難だったな……。こちらは運が良かったのか、巨大モンスターは出してこなかった」

「生け贄を必要としない所は小憎たらしいわね。あれは気軽に使うには相当な覚悟が要るわね」

「そ、そうか。……こっちは無事だったから良かったものの……。そちらは平気なのか?」

「戦闘民族が大勢居るから。その点で言えばみんな楽しく討伐してたわ。……いや~、びっくりした。久しぶりにメンバー総出……。ほぼ総出で討伐に当たったわ」

 

 ペロロンチーノはどうやら彼らの戦闘には加わらなかった、という事のようだ。

 他人事のように彼は相槌を打っていたので。

 

赤竜(レッドドラゴン)も現れて……。あれはこっちに出しちゃいけないレベルよね。召喚はほぼランダムみたいだけど、怖いわ。何が出るか分からないのは」

 

 怖いと言いながら声の雰囲気では楽しそうに語っているように聞こえた。

 平然と話しているところはイビルアイにも聞かせるつもりがあるからだと思われる。

 やはり得体の知れないモンスターは使うよりまず調査が大事だ、と改めて気をつける事にした。

 他にも見慣れないモンスターが居るのだが、それも頼もうかと思った。

 ぶくぶく茶釜は話し終わった後、イビルアイ達と共に容器類の点検を始めた。

 明日の為の容器の選定も兼ねている。残りは一般のメイドに任せる。

 

          

 

 そして、翌日。例によってする事は変わらないがモンスターの必要討伐数の多さに苛々し始めた聖王国側の為に彼らが倒せそうな高レベルモンスターの増産に挑戦する。

 最低でも一人100体以上は倒さなければならない。それは一見すれば簡単そうだが、体力面、精神面に多大な負荷をかけるので聖騎士といえども長くは続かないのでは、とイビルアイは予想している。

 本当の恐ろしさというものはジワジワと後から来るものだ。

 当初は確かに過酷だったが今はイビルアイの裁量に任されている。その上で甘い設定にされていると言えば反論はおそらく出来ない。

 それはそれで甘えでもあるが楽して強くはなれない事は伝わった筈なので、そこで満足することにする。

 今日は雪音(ゆきね)クリス達が居ない。人が少なくなるのは()()()()()だが。

 一般人の脱落は相変わらず早いものだとため息が出そうになる。

 それでも逃げ出さなかっただけ、マシではあるけれど。

 

「……蜘蛛女(アラクネ)も大量に居ると気持ち悪いな……」

 

 武装した戦乙女の蜘蛛女(アラクネ・ワルキューレ)の大群に手間取るドラウディロン・オーリウクルス

 このモンスターは()()()()と呼ばれるもので本来は自然界に存在しない。

 元々の戦乙女(ワルキューレ)というモンスターが女性体であれば種族を問わない性質があり、だからこそ生み出せたと言われている。

 ゆえに女淫魔(サキュバス)人魚(マーメイド)有翼人(ハルピュイア)戦乙女(ワルキューレ)にする事が出来る。

 生み出す方法は秘匿されている。ただし、詳細を知るイビルアイは生命の冒涜として新たな種の創造には否定的だった。

 ちなみに戦乙女(ワルキューレ)達のレベルは一様に60台となっている。

 身体の大きなモンスターは専用の入り口から現れる。もちろん、そういう設計になっている。

 五メートル以上は流石に施設が壊れると判断されているので、大型モンスターの使用は差し控えている。

 

「あーもう、ブレス攻撃で一掃したいのぉ……」

 

 出来なくはないが(おこな)えば施設が壊れる。

 もし、ここがナザリック地下大墳墓であれば遠慮のない攻撃が許可されるかもしれない。しかしここは正真正銘、人の手で造られた施設なので、色々と不都合があって当たり前だ。

 範囲魔法の使用は不可、などもある。

 

「たかが三日。討伐数が少なければ強化など微々たるものだと思ってくれ」

「城で鍛錬するのと変わらないではないか」

「そうだ。確かにその通りだ。カストディオ殿。だが、一般的な鍛錬所と違うのは強いモンスターと戦えることにある。実戦経験を積めとは言わない。ただひたすらに倒し続けろ。それだけだ」

「……ぐぅ……。しかし、感覚的には何も変わっていないのだがな」

 

 文句を言い始める聖騎士団団長レメディオス・カストディオ

 彼女の言い分は理解出来なくは無い。けれども、そうしなければ前には進めない。

 実際に強力になったモンスターが確実にレメディオス達の目の前に居るのだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。