ラナークエスト 作:テンパランス
ペロロンチーノは
やたらと身体を触ったりするような事は無く、ナザリックから持ち込んだ武具を彼女に与えて使わせるところは優しいと見るべきか、武器の性能実験をしていると見るべきか。
「……こんな風景、シャルティアが見たら襲ってくるんじゃない?」
「あの子は強くならないからな。……戦略と言っても……、新しいアイテムを与える以外に方法がなさそうだし……」
喋る
使用する矢はかなりの量を用意されているので好き放題撃てる。しかしながら使い続ければ手が痛くなる。さすがに全部は無理だろうな、という思いある。
撃った後の回収作業もあるし、と従者の仕事ばかり頭に浮かんでくる。
「弓以外の武器もあるけど……。別に弓だけに特化しなくてもいいからね」
「はい。ありがとうございます」
ぶくぶく茶釜は無理をすれば人型になる事が出来るが色々と面倒くさい、とネイアに説明しつつ楽な姿で居る事を了承してもらった。
相手を怖がらせる気が無かったので言える範囲の事は教えておく。
戦闘時は敵の攻撃を受ける役回りを担い、仲間達を補佐する事もついでに。
実際の
レベルは30台後半。集団行動を取り、火が弱点。
「あのモンスターを君が倒すとどれくらいの経験値になるのかな」
仮にレベル95と仮定すると、およそ35000。
これが多いか少ないかと言えば、もちろん少ない。そして、レベルアップに必要な経験値はどんどん膨大になる。
一体の強大なモンスターを倒しても物凄く強くなる事は無い。
逆に言えば経験値を消費する能力を頻繁に行使出来ないともいえる。
それは数々の魔法を習得しているアインズ・ウール・ゴウンならばレベルと経験値の大切さは身に染みて理解している筈だ。
たかがレベル5下がっただけでも戦力的にどれだけ不利になるかは想像に難くない。
† ● †
無心でモンスター討伐に勤しむ聖騎士団員が時間を追うごとに脱落していく。
百体目辺りから剣を握る力が失われているように感じるので。
何かの攻撃を受けたわけでもないのに、酷く疲れを感じるようになる。それは筋肉痛という訳ではない。
単純作業に身体が悲鳴をあげているだけだ。
頑強なモンスターと長い時間戦い、終わりが全く見えない事態となっている。
普通ならば交代や休憩を挟むものだ。だが、ここでは一人ひとりが無理してでも多くのモンスターを倒さなければならない。
チームプレイ禁止の戦闘ともいえる。
「ど、どうしたんだ、お前たち!?」
「……酷く疲れを感じてしまって……。手に力が入りません」
「疲労回復の魔法は本来、鍛錬の時は使わないものだが……。ここでは遠慮なく使っていいぞ。言い忘れていたが……。肉体強化をするような目的は無い。ひたすらに経験値を積むだけだ」
「は、はい」
信仰系の魔法を使える者が疲労で座り込む騎士達を治癒していく。
無抵抗なのに
離れた場所に居たドラウディロンが壁際で嘔吐している所を見ると施設の効果が身体を襲っている最中のようだ。
疲労しないタイプの種族であれば割りと平気らしいが、精神的にはどの種族も何らかの不調を訴える。
ナーベラル・ガンマとて特殊な条件下では息が荒くなるほど疲労する。
アンデッドの鍛錬はほぼ無いので詳しい事は分からないが、人間性が希薄ならば割りと平気かもしれない。ただ、何も実感しない所は容易に予想できる。
そのあたりの実験はしていないが要請は来ていた。その時に丁度王国の仕事が重なって返答を引き伸ばしてもらったんだっけ、と今思い出す。
ただし、問題がある。
そのアンデッドの特性の影響で
再度討伐すればいいだけ、と言われるかもしれないが場が混乱すると思われるので少し危惧している。
脱落者が出てもモンスターの数は容赦なく増えていく。
それを今も懸命に討伐しているのはレメディオス・カストディオ、ケラルト・カストディオ、ドラウディロン・オーリウクルスの三人。残りは補佐に回ったり、休憩していた。
ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ達は無理の無い戦闘でのんびりと
「これだけ倒してもレベルとやらが一つしか増えないのでは効率が悪いな」
「そうだろうな。実際には一人ずつこつこつと戦う方がいいのだが……。集団だと非効率になる」
一人でも労力に大差は無いけれど。
かなりの無茶はできる。
本人の意志を無視する事だ。そうすればもう少し効率が上がる。
「一日ごとに地獄を見る方法に切り替えるか? 待つのも使うのも苦痛に感じると思われるが……」
モンスターを本気で大量に用意するには最低でも一日いっぱいは犠牲にしなければならない。それくらい量産体制は時間がかかものだ。
「ならばそれで……」
「姉様。安易に答えないで下さい。我々も居るのですから」
妹の言葉に不満をにじませる姉。
「一人で多くを討伐する方法なので、この施設の真の恐怖を味わうと思いますわ。……ですが、カストディオ様ならきっと耐えられると思います」
額に汗して頑張っていたラナーは
実際、彼女は施設の実態を色々と把握している。なのでイビルアイの方法も当然の如く理解している。
それを
どんなに気丈に振舞う者でも
それはアダマンタイト級の『蒼の薔薇』であろうともクライムであっても逆らえなかった生物としての本能のようなもの。
人間であれば尚のこと、ともいえる。
とはいえ、一日ならば耐え切る可能性は決してゼロではない。けれども、それでもやはり実際に体験して初めて知る恐ろしさはどんな人間にも等しく感じる筈だと思う。
ラナーとて生物の本能には逆らえない、と身に染みて感じたほどなのだから。