ラナークエスト 作:テンパランス
やる気満々のレメディオスの為にラナー達のチームとドラウディロンには特別に大浴場の上の階を使わせることにする。今のところ使用する予定が無いので。
重さに関してはおそらく問題はないと思われるが彼女達は無理な戦闘はしないはずだ。一応は了承を得ていく。
聖王国の他の人間には一旦完全に引き上げてもらう。
他国だから、というよりは現場の凄惨さは体験する者だけが知ればいいので、不参加の者を恐怖に陥れる気はイビルアイには無かった。どの道、参加すれば分かる事だが。
事前情報が無い方が成長の伸びがいい。多少の苦労もまた経験値となるので。
ネイア達も屠殺場での討伐が出来なくなるのでラナー達と一緒になってもらうことにした。
そして静かに地獄の現場が作られはじめる。
その合間にバハルス帝国側に居る『
「……俺たちの事をすっかり忘れ去られたのかと思った……」
装備品に特段の変更は無いが地味な仕事を続けていたお陰でそれぞれ銀級までに昇進していた。
大ケガを負った『
枚数に換算すれば大した事が無いように感じるのだが、借金生活を嫌うカズマによって保留にされてしまった。
少なくともミスリル級が一年間暮らす生活費に匹敵するらしい。
「顔だけでも結構な金額を取られたんだから、ここは我慢してもらわないと……」
本来ならば接合手術をするところだ。だが、ここは異世界であり、腕は木っ端微塵。そこから魔法であっても再生させるなど本当に出来るのか疑問だ。
水の女神を自称する『アクア』によれば一度死んでもらう必要があると言ってきた。
肉体再生の為に気軽に死ぬ事は元気な立花であっても選択したくないものだ。
「……仲間に死んでくださいなんて……、例え俺でも言わないよ」
「カスマなら言いそうなのに……」
「……カズマです。俺は鬼畜じゃないぞ」
「しかし、やっと出番が回ってきたというのに何もする事が無い」
騎士風の武具を身にまとうダスティネス・フォード・ララティーナはどうしたものかと首を傾げる。
「……一応、フルネーム一回ルールならば気にしないでおく」
ありがとうございます。
「ここは無難に義手にしようか?」
「対価は貰うぞ。錬金術に等価交換の原則は付き物だからな」
クリーム色の髪の毛を後ろでひとつにまとめた少女キャロルは言った。
同じく少女の姿をしているが軍服に身を包むターニャ・デグレチャフはテーブルの上で貨幣を数えていた。
「……やはり帝都は平和すぎる。今のままでは非効率ではないか? 話しの都合に合わせてリ・エスティーゼ王国とやらに向かう事も
「危険な仕事は請けたくないんだよな」
冒険者崩れが金目当てに危険な仕事に就くのは情報で把握している。
彼らは
全てが自己責任なので国や組織の加護は無い。
「モンスターといってもジャイアントトードのようなモンスターは居ないんですよ」
「……アンデッドはアクアのターンアンデッドがあるじゃないか」
確かに帝都の周りは騎士達が警護しているだけあり、モンスターの襲撃件数はほぼ無いに等しい。というかわざわざモンスターを倒しにカッツェ平野に行ったり、娯楽として捕まえてきたりする仕事がある。
「元の世界に帰る手段が見つからないのも痛いな」
何らかの原因で転移したならば原因究明するのが基本だ。まして、何の理由も無く召喚されたケースはカズマにとって思考を鈍らせる。
それは結構理不尽な行為でもあるからだ。
自分の場合は何らかの原因というものがあり、転移するだけの理由を一応とはいえ教えてもらった。
今回の場合は全くチュートリアルが無い状態だ。
一から自分たちで解明するのはハードモードのゲームよりも極悪仕様のナイトメアとかデスとかルナティックとか
あと、カオスも付けるか。
日本語だと初見殺しかな、と。
死んで覚える理不尽なゲームというものが世の中には存在する。
その代表格がたぶんリ●●じゃないかと。
† ● †
当面の生活費を数え終えたターニャはそれぞれに小袋を分配する。
資金がだいぶ増えたとはいえ無駄遣いはまだ出来そうにない。仕事は常にあるとは思わないこと、という意識を持たなければ生活を続ける事が難しくなる事も起きるかもしれない。
「例によってアクアは無駄遣いするから
「……ううっ、かなり減ってる……」
「後先考えないからだろ」
新メンバーのキャロルも冒険者登録を済ませているので帝国内で生活する事に支障はない。
問題は立花の戦力を失った事だ。
シンフォギアをまとう事自体は出来るが、隻腕の人間に出来る仕事は多くない。なので適度に冒険者組合で色々と話しを聞いて回っていた。
爆裂魔法ばかり使うめぐみんは紅魔族としての特性を勘案し、ある程度の自由を与えている。
騒音の苦情が来ないところまで移動しなければならないのだが、そろそろ国に怒られそうな気配を感じている。
そもそも帝都からカッツェ平野までかなり距離がある。
移動する上でもホームポイントというものの変更は考慮しなければならない。
「王国でも冒険者プレートは通用するらしいし、少しの手続きを終えれば仕事は出来るそうだ」
一般的には国を変えれば資格を失う。
冒険者の場合は双方の組合が議論した上で色々と特例を設けてもらっているようだ。
「王国に行かなければならない理由って何だ?」
そもそも論で言えば移動する必要性がカズマには理解出来ない。
もちろん話しの都合だ、とモノローグが主張しても意味が無いけれど。
「……それはそれで理不尽なんですけど……」
「適度に荒んでいる国なら色々と仕事はあるんじゃないか、と都合のいい設定があるのかもな」
「……そんな国には行きたくないな……」
特に治安が悪いところとか。
モンスター退治ではなく、犯罪者相手だとカズマは満足に戦える気がしない。
対人戦は口先三寸で済む場合と全く通じない場合がある。変な駆け引きは正直に言えばやりたくないことだった。
「向こうに他の転移者が居るかも知れないぞ、という意味には取らないのか?」
「それはすっかり忘れていた」
今まで帝国の各都市に行って自分達のような転移者というか知り合いには出会わなかった。
絶対に居る、という保証は無いので本格的な捜査は出来なかった。
「チームリーダーはカズマなのだからお前が決めるといい」
共に旅する仲間だがチーム名は決めていない。
賢いターニャがリーダーにならなかった理由は自分の部下ではなく、異世界ファンタジーに詳しいカズマのような男の方が適任だと考えたからだ。
後は軍隊教育に発展してはアクア達も息苦しいと判断したまでだ。
「同じ現場で出来ることなどたかが知れる。いずれは移動したいと思ってたところだ」
「……貨幣は両替できるというから他国に行っても問題は無い」
ターニャの言葉にカズマは頷く。
後は決断するだけだ。
† ● †
とはいえ、即座に行動できるわけもなく。まだ少し考える為に荷物の整理などに時間を費やす。
少しランクアップした宿での生活も慣れたが、冒険者の仕事は地味なものばかり。
一攫千金の稼ぎをするには当然如く危険な仕事をするしかない。
この世界は本当に命に危険が及ぶようなことも平然と仕事として組み込まれている。カズマとしては当然、安全策をとりたい。でも、稼ぎが少ない。その葛藤の日々が続く。
派手さを覗けば普通に生活するだけで幸せなのが異世界ファンタジーの本来の姿かもしれない、と思わないでもない。
アクセルの街と違って魔王軍が攻めてくる、という危機感のようなものが無い。いや、あるにはあるが別の国の問題だ。
そこに向かう為には敵の情報が必要だし、移動も大変だ。
尚且つ、その敵が亜人種で人間より強い。そして、組織
更に最大の問題が国に関わるような仕事を冒険者が
よほどの緊急時でも無い限り、冒険者を国が動員する事は無い、と言われている。
「……冒険者の実態は夢が無いな……」
「国に忠誠を誓わないから、と言われているから仕方がない。お抱えの騎士団の方が役に立つという話しだ」
では、騎士団に入隊できるのか、と言われるとまた問題が発生する。
基本的にどの国も自国民であり、国に忠誠を誓う者を採用する傾向にある。どこの誰とも分からないものを腕っ節だけで召し上げる事は稀だとか。
皇帝が召抱えたいと言い出さない限り、可能性は無いに等しい。
結局のところカズマ達が大活躍できるようなストーリーの流れは元の世界にしか無いのかもしれない。
知恵と
冗談が通じない。
当たり前かもしれないが
探せばあるのかもしれないが、女神アクアの知らない世界という事で情報などが圧倒的に不足している。
アクセルの街では何もなくとも都合よくストーリーは進めた。幸運が人一倍あったからと言われればそれまでだが。
試しに皇城に向かい何か起きないかと思ったが見事に何も起きず、めぐみんは帝国魔法学院というところに行ったものの追い返された。
いくら爆裂魔法とはいえそれだけに特化した者は危険人物と認定されかねない。意外とバハルス帝国には常識人が多かったようだ。
「……
胸は大きいのだが。
「……この世界は硬派なファンタジーかも」
お気楽なファンタジーはたくさんあるのは何となく分かるカズマ。その中でも本格派というものはプレイし難い玄人仕様。
それをチート能力だけで乗り越えようと考えるのは浅ましい人間だけだ。
もちろん、カズマはチート否定派だ。意外だと思われるが。
他人を妬む性格だから、とも言えなくもない。
「……じゃあ時代の波に乗って王国に行こうか。ここに居ても何も進展が無いなら……」
「北東の海上都市に行くとか」
「新刊に書かれれば行くかもしれないが……。今回は真逆の地域が出たばかりだ、という事になっている。俺たちにできることなんて何もないぞ。新しい地域を開発する能力があれば別だが……」
アクセルの街でも新しい土地の開発は出来なかった。
というより拠点として貰った豪邸が気になる。今頃は盗賊のクリスとかゆんゆんが管理をしてくれることを望むが税金徴収の時に逃げられる確率が高い。そして、そのまま差し押さえのパターンが浮かんだ。
差し押さえなら帰った時に納めればいいだけだが。
「……そうか。リーダーが決めた事なら私は支持する。元の世界とやらに帰る算段が無いのは私も同じだ」
少し諦めに似た顔でターニャは言った。
この世界で生活してしばらく経つ。本国では死亡扱いされているかもしれないと思って、少し自暴自棄になっているのかもしれない。
それはそれでカズマとしてはお気の毒としか言えない。
階級が無効なら今のターニャはただの女の子だ、と普通なら言うところだ。だが、実力まで消えたわけではないので迂闊な事は言えない。なにせ、うちのチームの稼ぎ頭で有能である事は事実だから。あと、アクアの無駄遣いを阻止してくれるし、邪険には出来ない。
新メンバーのキャロルはまだよく分からない。取り立てて目立つような事は何もしていないが、口調が偉そうという点が気になる程度だ。