ラナークエスト 作:テンパランス
バハルス帝国を出立したカズマ達を高い建物から眺めていた赤い髪の人物は地表に降り立つ。
街中であれば物凄く目立つ発色の良い赤い長髪。
姿は戦士風であり女性用の
「……これもまた予定通りと言えなくはないか……。しかし、つまらなくなった。帰ろうかな」
お約束の塊である異世界ファンタジーにおいて都合のいいイベントは必ず起きるものだと思い込んでいた節は確かにある。それにもまして何も起きない事は赤い髪の人物にとっては休暇と
う~ん、と唸りつつ待ち人の下に帰る。
指定された宿屋に向かい、今現在拠点にしている部屋に入ると白い髪の男性が出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
彼の優しい言葉は女性として少しときめくのではないかと思わせる何らかのオーラのようなものを感じさせる。
彼にとってみれば当たり前の挨拶だが。
「……まさに神殺し……。龍ちゃんは最強のお兄ちゃんだよ、やっぱ」
「良く分かりませんが……。何か面白いことでもありましたか?」
「予定通り転移者達が一箇所に集まりつつある。あたしらも移動しようかと……」
窓に近付く赤い髪の女性。その背後に音も無く近づく九人のメイド服を着た人物が現れる。
九色の髪の毛が並ぶ様は実にカラフルである。
「……お前たちは帰還の装置の建造だが……。すんなりと事を進めるのは面白くないな」
「……ご命令であれば即座に対応いたします」
メイドの一人が答えるが主人は無視した。
「龍ちゃん。ラスボスとしてどうする? このまま帰るもよしだけど」
「ここまで来てモンスター退治だけでは申し訳ない。彼らの願いのためならラスボス役も勤めましょう」
「人がいいな、龍ちゃんは。折角だ。
ケラケラと子供らしく笑いつつ赤い髪の人物『
外見的には二十代後半の女戦士。整った顔立ちは美しく凛々しい。背も同じ世代の男性より少し高い程度ある。だが、実年齢は窺い知れない。
「……見た目で判断していいよ。実際、年齢という概念はとっくの昔にゴホンゴホンって感じ……」
つまり二兆歳だと思えばそれでいいということ。
「……いいよ、別に……」
口を尖らせて不満を表す兎伽桜。
それに対して白髪の龍ちゃんと呼ばれる人物『
年の頃は三十代半ば。黒い服装が全身に張り付くようにまとわれている。
細身の身体ではあるが見た目にそぐわない尋常ならざる実力を発揮する。
他には縞模様の髪の毛の女性『
歳は二十代ほどだが物語に深く関わるような事はなく、単に神崎の様子を心配してついてきただけだ。後は目撃者としての役目を担っている、という設定があった方が都合いい、と。
「……設定……。神崎様と一緒なら文句はありません」
消え入りそうな小さな声で恐縮する火雅李。
「……鈴を呼ぶと私が何も出来なくなると思いますが……」
「じゃあ、さくらちゃんにするよ。……いや、とりあえず適当に呼んでみるか。役立たずはさっさと退場させる方針で……」
「……そういう事ばかりするから
「
「ク●●ゲートっていうネーミングは著作権的にセーフかな?」
「そういえば、
「んー。近い時期に作られた名前だから……。ゲートはゲートだもんね。別に名前を言う必要性はないけれど……」
というか名称を言わなければならないルールは無い。ただ、それが何なのか伝えるのが難しくなるだけだ。あと、
外観の様子などが大体同じという。
昨今のゲートはより洗練され、
「ここは素直に神様に頼むしかないな。まんまク●●ゲートって言うかもしれないけれど……」
「多重世界という概念だと他に言いようがないですよね」
「『アルターユニバース』的に言えばアルターゲートでもいい気がするけど……。それにするか、安直だけど」
名前としては適切かもしれない。けれども意味としては納得できそうにない。
もっとかっこいい名前がある筈だ。
と、思うので。
英語だと色々と著作権に引っかかりそうだし、ネーミングが難しいなと兎伽桜でも頭を痛める事態だ。
本来ならば著作権など無視するところなのだが、諸事情という厄介な事態が大人の世界にはあるのです。
「……似た名前のゲームがあったような」
それはバル●●●ゲートというものだ。
「アウターとかオルタだと……、う~む」
変な名称よりはしっかりとしていてかっこいい方がいいに決まっている。そう兎伽桜は思う。
「変に気取った名前だと誰にも伝わらないけれど……。とにかくゲートを事前に創っておくか……」
完成したとしても扱える人間は兎伽桜のみ。例外があるとすれば兎伽桜と同じか、それ以上の存在でなければただの建造物に触ることしか出来ない。
尚且つ、双方向の通路を形成する必要があるし、何らかの侵入者が現れないとも限らない。
事実、既に干渉を試みる存在が居るのだが、それはあえて見逃している。
果敢に挑戦する者に敬意を表し、もし突破できれば誉める事も
「それはカ●●ムでの話しで、こちらには来させないけれど……」
本来ならばどちらでも構わない話しだが、パロディ気味の世界よりはもう少し硬質な世界の方が
「こっちの水は飲ませないぞ。……シズちゃん」
そう呟くと赤い髪のメイドが室内から音も無く消えた。
「誰が迎撃しろと言った……。連れ戻せ」
「畏まりました」
青と金髪のメイドが一礼した後で室内から消える。
「さて、始めようか。元の世界に戻る為の戦いを」
「……そういうセリフはやっぱりいちいち言わないと駄目なんですか?」
苦笑しながら神崎は尋ねた。
「見せ場は必要だし、我々の存在価値が無くなるからね。正体不明らしい態度は物語にはやはり必要だと思うよ」
苦笑しながら兎伽桜は生み出した魔方陣の塊をポイと簡単に窓の外に捨てた。
今の言葉からはかっこいいとは言いがたいぞんざいな扱いに火雅李は驚いた。
「そういう扱い、なんですか?」
「ああ、あれ? この辺りで展開すると大騒ぎになるからってだけだよ。大丈夫。あたしは仕事は真面目にするから。なにせ、神様だ」
神は神でも破壊神だが。
無駄話しが続いたので本題に取り組まないとカズマ達転移者達が無駄な日々を送ってしまう。いや、もう送っていた、が正確か。
本来は確かにもう少し長期的に様子を見る予定だったが、ラスボスが飽きてしまっては一大事なので
神崎は何も言わないで素直に従ってくれると思うけれど、せっかくやる気になってくれた彼の為に仕事をしないわけにはいかない。
† ● †
帰還の
それは人の目には映らない不可視の門。
兎伽桜の仕事は他人を呼び込むことを除けば見守る事が多い。自分から率先して戦いに興じる事はない。
ない、というよりはやってはいけない事になっている。多少の暴力は許容されているけれど。
「……後は待つだけ。あたしの仕事は以上だが……。龍ちゃんがこの世界で死ぬのは少し残念な気持ちではあるよ」
「やはり死ぬんですか?」
「シチュエーションとしては死んでくれた方が見栄えがいいし、ストーリー的にも合っている。ラスボスは消滅してこそだよ」
と、楽しそうに言う兎伽桜。
身振り手振りを交えて今にも躍りだしそうだ。
「……私としては神崎様が居なくなるのは……」
と、手を組んで身体を震わせる火雅李。
彼女にとって神崎を失うのは非常に困る。せっかく一緒に散歩が出来るのだから、それを失うのは身を切られる思いに匹敵する。
「世界に禍根を残すのは良くないか……。でも、龍ちゃんはあたしの先輩だから能力が一部及ばないし……。その辺りは死ぬ予定の当人としてどうなのかな?」
「平然とそんな事を聞かれても困りますよ。……後で鈴に怒られても知りませんよ」
「それは困るな」
神崎家の
特に長女は神崎龍緋の後継者とまで言われている。
つまり五人目の
兎伽桜としては神崎兄と神崎妹に板ばさみにされるのは困るし、面白くない。
「素直に死んだりはしませんから、別の方法で彼らの勝利を願ってはいかがですか? バカ正直に殴り合っても芸が無い」
「その辺りは龍ちゃんにお任せだけど……。あたしとしては殴り合って死ぬ方が絵になるな~と。ついでに魔法とかに突っ込んで消滅っていうオチもいい」
「……酷い人だ」
「破壊神だからね」
そうして敵を殺し続けてきたし、と普通の声で呟く破壊神。
「でも、めぐみんっていう子のエクスプロージョンを拳一つで打ち破る姿も捨てがたい」
「貴女の中で私はとんでもない戦闘をしているようですね」
「そうだよ。
興奮してきたのか、兎伽桜の言葉はどんどん酷くなる。それに気付いたメイド達が兎伽桜の頭にチョップして止める。
「おっとと、興奮が……。突っ込み役として仕込んだ甲斐があるというものだよ」
「簡単に死んだら私の沽券に関わると思うのですが?」
「そこは龍ちゃんの判断でいいよ。ようは面白ければいい。もちろん、あたしがそう思わないと駄目」
つまらない結末であればこの世界そのものを消し飛ばすけどね、と普通の声で呟く破壊神。
カ●●ムとは違い、こちらの世界は
それゆえに兎伽桜は楽しみにしている。
最強の
死ぬところは
物語に結末は付き物だ。それもかっこいいエンディングでなければ実につまらない。